アナログ製品を選ぶ際、どのようなポイントをチェックしていますか?製品のカタログやウェブページには、必ず「スペック(テクニカルデータ)」が記載されていますが、並んだ項目や数値の意味がわからず、戸惑った経験がある方も多いのではないでしょうか。そこで、オーディオライターの炭山アキラさんが、意外と知らない「スペック」の読み方をカテゴリ別に詳しく解説していただきました。
今回はカートリッジ編。カートリッジとは、レコードから音を拾う(取り出す)ための針先を含むパーツのことで、レコードから読み取った情報を電気信号に変換するのが役目です。この信号が増幅され、スピーカーを通して音楽として再生されます。カートリッジは単体製品のほかに、始めからレコードプレーヤーに付属している場合もあります。
目次
MM型、MC型、VM型
針圧
カンチレバー
スタイラス
コンプライアンス
垂直トラッキング角
カートリッジ取り付けネジ径
MM型、MC型、VM型
カートリッジの代表的な種類は、発電方式によって「MM型(moving magnet)」と「MC型(moving coil)」の2つに大きく分けられます。
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一般にMM(Moving Magnet)型とMC(Moving Coil)型がありますが、MM型の仲間はたくさんあるので注意が必要です。オーディオテクニカのMMの仲間は、「カッターヘッドと相似形」に2本のマグネットが左右45度上方向に配された「VM型」がそれに当たります。他にもMI(Moving Iron)型やIM(Induced Magnet)型をはじめ、かつてMMの仲間に属する発電形式はもう本当にいろいろな種類がありましたが、今はずいぶん少なくなりました。
針圧
カートリッジの針先がレコードの音溝にかける圧力のこと。軽すぎると針飛びが発生して音が歪み、重すぎると音溝を傷つけたり、針先が早く磨耗する原因となるため、適切な針圧に調整することが重要です。カートリッジを装着する際に必ず確認しなければならない数値なので、覚えておくと良いでしょう。
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例えば『AT-VM95C』なら1.8~2.2g(2.0g標準)となっています。2.0gを標準的な針圧と定め、室温の上下により、また音質チューニングのために、±0.2gの幅で動作を保証する、という表示です。
カンチレバー
カートリッジの針先と発電回路を結ぶ棒のこと。
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スタイラス
音溝に直接触れる針先を「スタイラス」または「スタイラスチップ」と言います。
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基本的には接合針か無垢針か、丸針か楕円針かラインコンタクト針か、ラインコンタクト針でもどの形状が使われているかで、音は大幅に変わってきます。以前にも解説していますので、よろしかったらそちらもご覧下さい。
コンプライアンス
カートリッジの針先がどれくらい動きやすいかを表す値のこと。「cm/dyne(センチメートル・パー・ダイン)」という単位で表記されます。
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この値が大きいほど針先は動きやすく、音溝の大きな振幅へ追従しやすいといってよいでしょう。オーディオテクニカでは「スタチック(静的)」と「ダイナミック(動的)」の両方で値を発表しています。
前者はレコードを再生する前のプラッターが回っていない状態で、カートリッジを所定の針圧でレコード盤に落とした際に、カンチレバーがどれくらい沈み込むかを測定した値です。後者は実際に測定用のレコードをかけて測った値を、こう呼称しています。この数値も、各メーカーによって測定条件が微妙に違いますから、参考程度に見られることを薦めます。
垂直トラッキング角
カンチレバーの盤面に対する角度のこと。バーチカル・トラッキングアングルともいいます。
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この用語にはいくつかの異なった解説が流れていますが、大元の意味は「カンチレバーの支点から針先の音溝と接する位置の間へ引いた線と、レコード盤(≒水平面)との角度のことです。垂直トラッキング角は「これが正解」という値がなく、これと決められるものはありません。しかし、その角度をどう取るかによってカートリッジの特性や音質をチューニングすることが可能で、そこを音作りに活用しているメーカーもあります。オーディオテクニカもそんな社の一つで、例えば『AT-VM95C』は23度、『AT-ART20』は20度としています。
カートリッジ取り付けネジ径
読んで字のごとく、「カートリッジを取り付けるネジの太さを表す寸法」を指す言葉です。
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オーディオテクニカを含む日本のカートリッジ・メーカーの大半は、M2.6と呼ばれるビスを使っています。ネジ部分の外径が2.6mmのビス、ということです。ところが、一部の海外メーカーではM2.5ビスを用いているところがありますから、「まぜるな、危険!」ということになってしまっています。
具体的には、M2.5のボルトをM2.6のナット、あるいはM2.6の雌ネジが切られたカートリッジ本体に使っても、これが意外と普通に使えてしまったりするのですが、注意が必要なのは、その逆。M2.6のボルトでM2.5のネジが切られたカートリッジを留めようとしたら、途中まではネジが入ってしまうのが厄介なのですが、中間あたりでネジが入らなくなり、「おかしいな?」と強い力で回したりすると、ネジを破損してしまうことになりかねず、そうなったら特に本体へネジを切ってあるタイプのカートリッジは、シェルへ取り付けることができなくなってしまいます。くれぐれもご注意下さい。
Words:Akira Sumiyama