レコードプレーヤーとは繊細なもの。 その日の気温で針圧は変わるし、針先の調整だけで音が劇的に変わります。 その微細な変化を理解すると、プレーヤーを買い替えずとも音を変えることができるのです。 今回はそんな魔法のような調整について、オーディオライターの炭山アキラさんに解説していただきました。
「あなたがお使いのレコードプレーヤーは、100%の音を発揮できているでしょうか。 いや、偉そうにいっている私だって、長年使っているプレーヤーは年々再生音が向上し続けています。 ということは、皆さんのプレーヤーもまだまだ伸びしろがあるといって間違いないでしょう。 」
針圧は軽すぎず、重すぎず。 バランスを取りましょう。
というわけで、ここではいろいろな調整方法でプレーヤーの再生音を最適化、あるいはちょっとしたグレードアップをする方法について、お伝えしましょう。
カートリッジ(レコード針)には、「適正針圧」と呼ばれるものがあります。 ここで適正針圧をカートリッジへかける方法をお伝えしておきましょう。
カートリッジを先端に取り付ける片持ちの棒を、トーンアームといいます。 トーンアームにカートリッジを取り付け、バランスウエイト(トーンアームの後ろについている円筒形のおもり)を調整してカートリッジ側とバランスウエイト側をつり合わせ、水平で止まるように調整します。 これを「ゼロバランスを取る」といいます。 バランスウエイトは時計回りで外側、反時計回りで内側に動きますから、回しながらゼロバランスを探っていくのですね。
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水平が取れたらバランスウエイトの手前側についている「プリセット目盛り」を動かしてゼロの位置が頂点へくるように調整します。 プリセット目盛りはウエイトから独立して動きますから、ゼロバランス位置からウエイトを動かさないように注意することが大切です。
プリセットをゼロに合わせたら、そこからバランスウエイト全体をプリセットの数字の分だけ反時計回りに回して針圧をかけていきます。 オーディオテクニカのプレーヤーなら、AT-LPW50BT RWなどに純正装着されている「AT-VM95E」やAT-LP7に装着の「VM520EB」は適正針圧が2.0gですから、目盛りが2になるところまでウエイトを回してやるということですね。 これで適正針圧がかかったことになります。
なお、トーンアームの根元向かって右側にあるツマミは、「インサイドフォース・キャンセラー」あるいは「アンチスケーティング」と呼ばれるものです。 詳細を述べると長くなるので、ここでは「ゼロバランスを取る前にゼロへ戻し、針圧をかけ終わったら針圧と同じ数値まで回してやる」という風に覚えて下さい。
気温に合わせて針圧を変えよう
さて、音を変化させるノウハウはここからです。 例えばAT-VM95Eの針圧は、1.8〜2.2g(標準値2.0g)と規定されています。 適正針圧の2.0gから内外0.2gずつ幅が取られているのですね。 この0.2gで意外と音が変わるのです。
具体的には、軽めにすると音が軽快かつ流麗な感じになる半面、やや音楽の厚みが失われるというか、音楽の実体感が薄くなるような印象になることがあります。 一方、重めにするとどっしりと音楽が安定しますが、高音がやや曇り気味に聴こえるという人もおいででしょう。
実のところ、この変化は室温によっても大きく違うものです。 レコードは本来、摂氏20度くらいで聴くのが最も好ましいとされています。 レコードの塩化ビニールもカートリッジのカンチレバーを支えるゴム製のダンパーも、温度で柔らかさが大きく違ってきます。 それで、一応の目安ではありますが、20度をベストの気温としてチューニングしてあるものが大半なのです。
それでは、気温の違いで音はどう変わるのでしょうか。 20度より低めだと、高音方面はよく伸びますがやや硬い音、高めだと低音がやや豊かになり、全体に緩い感じの音になる傾向です。
だからといって、特に夏場は部屋を20度にするのは大変です。 エアコンの負担もすごいし、何よりカーディガンでも着ないと風邪を引いてしまいますよね。 そういう時にはどうすればよいか。 先ほどの針圧による音の違いを利用して、夏場はやや軽め、冬場は重めにしてやると、全く同じにはならないまでも、少し音の違いを補正できるようになるものです。 簡単にできる対策ですから、皆さんも一度ぜひ試してみて下さい。
オーバーハング調整をしよう
プレーヤーは、針圧のほかに何か調整できる項目があるのか。 まだまだありますよ。 次は「オーバーハング調整」を解説しましょうか。
カートリッジはトーンアームの中心軸に対し、向かって左に曲がって取り付けられています。 これを「オフセット角」といいます。 カートリッジをまっすぐ取り付けると、外周と内周でカートリッジが音溝に対して大きく斜めになってしまいますが、オフセット角をつけることで、幾らかの誤差はありますが音溝へ比較的まっすぐ沿うことができるようになります。
この場合、カートリッジの針先とアームの支点の長さを厳密に整える必要があります。 普通のアームでは、針先はプラッターの中心よりも先へ位置することになります。 アームの支点からプラッターの中心点を測った長さよりも針先が出っ張っている分の長さを「オーバーハング」と呼びます。
この数値はすべてのプレーヤーで決まっていて、取扱説明書に記載されています。 オーディオテクニカのプレーヤーなら、AT-LPW50BT RWは18.6mm、AT-LP120XBT-USBは16mmとなります。
AT-LPW50BT RWやAT-LP120XBT-USBなどに付属しているヘッドシェルの、カートリッジを取り付けるビスが通る穴が、縦長になっていることがお分かりでしょうか。 この長さの分だけ、カートリッジを前後させることができます。
プレーヤーを購入して付属カートリッジを取り付けた状態では、カートリッジ取り付けビスが緩んでいたなどといった事故が起こっていない限り、オーバーハングの値がズレているということは考えにくいものです。 このまま使っていて問題ないでしょう。
問題になるのは、新しいカートリッジを買ってきて付属のものと交換する場合です。 全く同じ形のカートリッジなら、同じ位置に取り付けておけばそれで問題ありませんが、例えばAT-LPW50BT RWに付属の「AT-VM95E」の上級機「AT-VM95SH」なら、カートリッジ本体を買う必要はなく、交換針を「AT-VMN95SH」に替えてやるだけで上級カートリッジへアップグレードしたのと同じ効果が得られます。
というわけで、何かほかのカートリッジを購入して取り替える、あるいはヘッドシェルまで購入して取り替えられるようにするなら、新しいカートリッジのオーバーハング調整が必要になる、ということです。
具体的にオーバーハング調整はどうやればいいのか。 世の中には極めて精密な調整を可能にする、数万円もする測定器もありますが、ごく簡易的には、カートリッジの針先からヘッドシェルのコネクター、トーンアームの先端へ触れる部分までの長さを控えておき、新しいカートリッジもそれに合わせることでほぼ万全です。
ヘッドシェルまで購入して取り替えられるようにするのなら、純正のカートリッジ/シェルの位置と見比べながら同じにそろえるのが簡単でしょうね。
ちなみに、AT-LP120XBT-USBのようなユニバーサル型のトーンアームとヘッドシェルなら、針先からシェル根元までの長さは52mmでほぼ統一されていますから、それで合わせれば問題ないでしょう。
なお、この調整にもいろいろな考え方があり、できるだけヘッドシェルの根元側から見て手前にカートリッジを取り付けた方が、相対的なヘッドシェルの強度が高くなるので好ましいという意見もあります。 この場合はオーバーハングがズレることによる音の悪化とシェルの強度アップによる音質向上のどちらが大きいか、自分で確かめて好ましい方を選ぶ、ということになりますね。
アームの高さを変えて自分好みの音にする
プレーヤーの音を調整する方法は、まだあります。 ここで解説する方法は上級のプレーヤー、オーディオテクニカならAT-LP7で可能です。
具体的にどうするのかというと、アームの高さを変えるのです。 カートリッジは古今東西数え切れないほどの製品がありますが、製品ごとに高さは結構大きく違います。 カートリッジに適正針圧をかけてレコードへ針を乗せた時、トーンアームがほぼ水平になるようにするのが正しいセッティングです。
この調整をやらないと、どんな音になってしまうのか。 具体的には、トーンアームが尻下がりになっている場合は音は甲高くて低音不足に、尻上がりになっている場合は高音不足で低音が盛り上がった感じになります。
レコード使いの上級者はこの特性を利用して、あえて水平からずらすことにより、手持ちのカートリッジをより自分好みの音のバランスへ近づける、ということをしています。 実は私も行っていますが、結構変化の幅が大きくて楽しいものですよ。
レコード入門、とりわけBluetooth対応が必要な人は、AT-LPW50BT RWをはじめとするプレーヤーがお薦めです。 しかし、そこからさらにレコードの、アナログオーディオの魅力を深掘りしていきたいとなると、やはりAT-LP7クラスのプレーヤーが欲しくなってしまいますね。
「レコード入門者」から「アナログ・マスター」への道を進まれるなら、2台目の選択肢としてAT-LP7、お薦めのプレーヤーですよ。
Words:Akira Sumiyama