アナログ製品を選ぶ際、どのようなポイントをチェックしていますか?製品のカタログやウェブページには、必ず「スペック(テクニカルデータ)」が記載されていますが、並んだ項目や数値の意味がわからず、戸惑った経験がある方も多いのではないでしょうか。そこで、オーディオライターの炭山アキラさんが、意外と知らない「スペック」の読み方をカテゴリ別に詳しく解説していただきました。

今回はカートリッジ編の第2弾。前回はカートリッジの代表的な種類やスタイラスなどについて解説しているので、こちらもぜひご覧ください。

目次
インピーダンス(抵抗)
コイルインピーダンス/直流抵抗コイルインピーダンス
推奨負荷インピーダンス
出力電圧
負荷容量
再生周波数範囲
チャンネルセパレーション
出力バランス

インピーダンス(抵抗)

交流回路における電流の流れにくさを表した値のこと。「Ω(オーム))」という単位で表記されます。


周波数によって値が違ってくるので、例えば『AT-VM95C』なら3.3kΩ(1kHz)という表示になっています。一方、直流抵抗はインピーダンスより低いことが一般的です。

コイルインピーダンス/直流抵抗コイルインピーダンス

カートリッジの発電回路内に巻かれているコイルに電気を流した時の抵抗値を表しています。


まっすぐの電線に比べて、螺旋状に巻かれたコイルには「インダクタンス」と呼ばれる性質が生じます。直流は直線の電線とほとんど変わりなく通し、交流は周波数が高くなるほど通しにくくなる、というものです。

ですから、細い線をたくさん巻いてあるMM(VM)型はインピーダンス3.3kΩに対して直流抵抗は485Ωとずいぶん違い、太い線を少ない回数だけ巻いてあるMC型は、例えばAT-ART20ならインピーダンス/直流抵抗とも12Ω(インピーダンスは1kHz時の値)となっています。

MC型のインピーダンスに関してはもう一つ、次で解説する「推奨負荷インピーダンス」という項目もありますから、混同しないようにして下さい。

推奨負荷抵抗(推奨負荷インピーダンス)


カートリッジを使う際、それを受けるフォノイコライザー(入力部)側の負荷抵抗の推奨値を指します。

高級なフォノイコライザーは、MCカートリッジの受ける抵抗値(インピーダンス)を切り替えられるものがあります。その時、カートリッジごとにどれくらいのインピーダンスで受けてやるのがよいかを表した数値です。

一例を挙げるなら、私が愛用している『AT-ART9XA』の推奨負荷抵抗は「100Ω以上(ヘッドアンプ接続時)」と表記されていますが、私は200Ωで受けています。内部インピーダンスの数倍〜数十倍くらいの範囲で、ご自分の耳へ最も快い音になる値に合わせるのがお薦めです。


オーディオテクニカ製品のスペックは、製品ページ内「テクニカルデータ」よりご確認いただけます。
ただし、これはハイゲイン・イコライザーやヘッドアンプを用いたタイプのフォノイコライザーの話で、昇圧トランス*を使用している場合はまた少し違ってきます。こちらは概してカートリッジの内部インピーダンスと同じ値か、昇圧トランスの方がやや高めのインピーダンスが表示されているのがよいとされています。

メーカーによっては、コイルインピーダンスを「内部インピーダンス」、推奨負荷抵抗を「負荷インピーダンス」と表記してあったりするところもありますが、ほぼ同じものだと考えてよいでしょう。

*昇圧トランス:2対の巻き線コイルの巻き線数の違いを利用して、MCカートリッジの小さな出力電圧を大きくするための装置。

出力電圧

カートリッジの針先が音溝を走ることによって振動し、発電回路によって生成された音楽信号の電圧の大きさを表す値です。


先出の『AT-ART9XA』の場合、製品のテクニカルデータには「出力電圧0.2mV(1kHz、5cm/sec.)」と記載されています。このカッコの中の(1kHz、5cm/sec.)というのは、測定条件を表しています。このデータはオーディオテクニカのものですが、カートリッジのメーカーによってこの条件は違うことがありますから、複数メーカー間の絶対比較というより、目安程度に見られることを薦めます。


大体MM型のカートリッジとその仲間たちの出力電圧は2〜10mV、MC型は0.1〜0.5mVくらいが多いものです。このような違いがあるので、『AT-PEQ30』のようにMM/MCカートリッジに対応するフォノイコライザーを使用されている場合は、スイッチを切り替える必要があります。一方で、MM型のみ対応のフォノイコライザーでMC型を使うには「昇圧トランス」か「ヘッドアンプ」と呼ばれる機器が必要になります。

また、出力電圧1〜2mVくらいのMC型もあり、それらは俗に「高出力MC」と呼ばれます。MMポジションへつないでもそこそこの音量が取れて、かつMC型の音質傾向を楽しめることから一時期は結構商品数がありましたが、現在もいくつかの製品を数えることができます。

負荷容量

MMやVMなどのカートリッジを使う際に、適切な値に合わせないと中高音が張って耳障りな音になったり、逆に中高音が痩せて勢いのない音になったりしてしまう特性のこと。


負荷インピーダンスは主にMC型で大切な数値でしたが、こちらはMM型とその仲間専用の項目です。「容量」というのは、直流を通しにくく、交流を通しやすくする性質です。その数値が大きくなるほど交流の低い周波数まで通しやすくなり、小さくなるほど高い周波数まで通しにくくなります。

MM型カートリッジは古今東西たくさんのメーカーが設計・製造しており、会社により、また世代によって適正な負荷容量の値は違ってきます。だったら、それぞれのカートリッジごとに表示された負荷容量値を、そのままフォノイコライザーへ設定してやればいいのかというと、そうとは限らないのが厄介なところです。前述した通り、機器の内部やケーブルでも容量性は付加されていますし、それがケース・バイ・ケースでどれくらい付加されているかが分からないときているのですから。

というような次第で、お使いのフォノイコライザーが詳細な設定に対応しているなら、まずは適正容量-100pFくらいに設定し、音を聴きながら容量を上下させて、あなたの耳で最も音楽が聴きやすいところを選ぶのが正解です。

再生周波数範囲

「周波数」とは1秒間に繰り返す音の波の回数を指し、単位はHz(ヘルツ)で表します。そして「再生周波数範囲」とは、カートリッジで再生できるレコードの周波数の範囲のこと。


「再生周波数帯域」や「周波数特性」と書かれることもありますが、ほぼ同じものと見てよいでしょう。文字通り、そのカートリッジが低音から高音まで、どれくらい再生できるかという数値ですが、現在市場を流れているカートリッジでこの値が不足するものはほとんどなくなったので、数十年前と比べると現在ではさほど重要な値ではなくなりました。

チャンネルセパレーション

左右の音楽信号がどれくらいしっかりと独立しているか、混じり合っていないかを表す数値です。


V字型の断面を持つ溝の片面ごとに左右の信号を刻んでいるステレオレコードは、完璧に左右の信号を分けることが原理的に難しいものですが、マグネットから左右独立した、オーディオテクニカが特許を有する発電回路(VM型)は、この項目を得意にしています。

出力バランス

左右チャンネルの音量差がどれくらいかを表す数値です。「dB(デシベル)」という単位で表記されます。


オーディオテクニカ製品でいうと、ビギナー向けの『AT-VM95C』で2.5dB、上級者向けの『AT-ART20』で0.5dBとなっています。2.5dBといえば最大で1対1.2くらい音量が違うことになり、ものによっては少しポップス系のボーカルなどでセンター定位が不安定になるか、ほとんど分からないかという数値ですが、これはあくまで「最悪でもここ以下に収まっている」という値です。

Words:Akira Sumiyama

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