アナログ製品を選ぶ際、どのようなポイントをチェックしていますか?製品のカタログやウェブページには、必ず「スペック(テクニカルデータ)」が記載されていますが、並んだ項目や数値の意味がわからず、戸惑った経験がある方も多いのではないでしょうか。そこで、オーディオライターの炭山アキラさんが、意外と知らない「スペック」の読み方をカテゴリ別に詳しく解説していただきました。
今回はレコードプレーヤー編の前編。エジソンの発明から150年以上にわたる長い歴史の中で、同じものが異なる用語で表現されたり、1つの用語が異なる意味で用いられていたりすることもあるため、注意が必要です。
目次
駆動方式
モーター形式
回転数
ターンテーブル(プラッター)材質
駆動方式
ターンテーブルのプラッターを回転させるフォノモーターの駆動形式のこと。「ベルトドライブ方式」「ダイレクトドライブ方式」の2つに大別されます。

現在はダイレクトドライブとベルトドライブが圧倒的な主流ですが、かつてはアイドラードライブ、あるいはリムドライブと呼ばれる製品も、一定の勢力を有していました。
駆動モーター
ターンテーブルを回転させるためのモーターの形式のこと。DC(Direct Current=直流)電源で動作する「DCモーター」とAC(Alternate Current=交流)電源で動作する「ACモーター」があります。

レコードプレーヤーにはベルトドライブやダイレクトドライブなど、いろいろな駆動系式がありますが、駆動モーターの形式はDCモーターの一種である「DCサーボモーター」が圧倒的な主流となっています。
「サーボモーター」というのは回転数を見守る装置を備えたモーターのことで、少し規定速度を上回ったら速度を落とし、下回ったらスピードを上げることにより、回転数を一定に保つ働きを持っています。DCモーターは回転数を上下させやすいので、サーボモーターに向いているのです。
ダイレクトドライブが登場した最初の頃は、サーボをかける、つまり回転を調整する間隔が実にまばらで、データ的には優れたプレーヤーでも、何となく音が浮ついた感じで安定しない、あるいは余韻が若干濁るという事態が発生しているものもありました。それを解決したのが水晶発振素子を利用した「クオーツロック方式」で、プラッター1周当たり1,000回以上のサーボをかけるプレーヤーも珍しくなくなり、音質がずいぶん改善したものです。現在のプレーヤー用DCサーボモーターは、ごく特殊なものを除き、この方式が採用されているようです。
一方、少数ではありますが、主にベルトドライブでACモーターを搭載したレコードプレーヤーも存在します。ACモーターは基本的に商用電源の周波数に応じ、一定のスピードで回り続けるモーターですから、多くのACモーター採用プレーヤーは、回転数を変更する際に何らかの方法で径の違うモータープーリーにベルトをかけ替えなければなりません。その点、DCサーボモーターは回転数の変更が容易です。

しかし、「サーボをかけていないからこそ、ACモーターからは純粋な音楽が聴こえる」と考えるエンジニアは1人や2人ではなく、今もACモーターによる高音質プレーヤーは開発されています。
高級プレーヤーの中には、プレーヤーの、あるいはドライブモーターの中に小型のアンプを備え、水晶精度の発振器でサインウェーブを発信・増幅することで、それを電源としてACモーターを正確に駆動させるという、非常に高度なACモータードライブのプレーヤーが存在します。
またそういうプレーヤーの中には、発振器の周波数を細かく制御することでサーボをかけることも可能にした、非常に凝ったACサーボモーターを備えたものもあります。
回転数
ターンテーブルが1分間に回転する数値。33、45回転(SP盤は78回転)に分かれ、「RPM」とも表記されます。

ご存じのように、第二次世界大戦後に登場したLPは33回転(正しくは33 1/3回転)、シングル盤やEP盤は45回転ですが、それらが登場する前のレコード、俗にいうSP盤は78回転でした。
SP盤は1960年代の初頭までで、少なくとも世界の主要なレコード会社は生産を終了しました。それ以降に生産されたレコードプレーヤーは、大半が33回転と45回転の2スピード対応となっていて、それは今もそう大きくは変わっていません。
しかし、ここ数年は新製品のレコードプレーヤーに78回転も回せる3スピード対応のものが増えてきたような印象があります。オーディオテクニカでは、『AT-LP120XBT-USB』と『AT-LP8X』が78回転に対応しています。アナログレコードの復権が顕著になったのはここ10年ほどですが、いわゆるヴァイナルの誕生以前に長い間生産されていたSPレコードの、音楽的資産価値が多くの人へ認識されるようになってきたとするならば、それはとても喜ばしいことです。
なお、78回転でSP盤を再生するには、SP専用の針先を持つカートリッジが必要となりますが、AT-LP120XBT-USBとAT-LP8Xの付属カートリッジ『AT-VM95E』には、SPに対応できる交換針がありますから、針先を交換するだけでとりあえずSPを再生することができるようになります。
ターンテーブル(プラッター)材質
レコードプレーヤーのレコードを載せて回転させる部分の材質は、アルミやアクリルなどが使われます。

メーカーによって、また雑誌やウェブマガジンなどのメディアによって、レコードを載せて回転する円盤のことを「ターンテーブル」と呼ぶところと「プラッター」と呼ぶところに分かれます。一つには、「ターンテーブル」という呼称がいろいろな意味に用いられるため、「プラッター」とあえて呼ぶようにしていることもあるようです。
「ターンテーブル」というと、トーンアームが付属していない、いわゆるアームレスのプレーヤーを指すことがありますし、DJ志向の人たちの間では、オーディオの世界でいうところのプレーヤーそのものを指すこともあります。DJを楽器演奏者になぞらえて、「ターンテーブルプレイヤー」と呼称することもありますよね。
プラッターの材質は、アルミ合金のダイカストや削り出しが圧倒的な多数派ですが、アナログ全盛期を終えてから、ここ30年くらいで大幅に製品数を増した素材にアクリルがあります。ほか、ガラスやアクリル以外の樹脂製も結構な数がありますが、樹脂に関しては簡易な成型ものから高度なエンジニアリング・プラスチックの削り出しまで幅が広く、音質傾向も大きく違います。
オーディオテクニカのプレーヤーは大半がアルミ製ですが、『AT-LP2022(生産完了)』がアクリル製、『AT-LP7』がエンジニアリング・プラスチックのPOM(ポリオキシメチレン)製となっています。
Words:Akira Sumiyama