レコードの回転数を表す「RPM」。よく耳にするこの言葉ですが、その意味や違いを詳しく知っていますか?この記事では、RPMの基本的な解説から、回転数による音質の違いや正しい再生方法、さらには稀少な78rpmレコードの話まで、レコードにまつわる興味深い知識を、オーディオライターの炭山アキラさんに掘り下げて解説いただきました。

そもそも「RPM」って何?

RPM(rpmとも表記します)とは「Round Per Minute」、つまり1分間に何回転するかを表す単位です。自動車のエンジン回転数を示す単位にも使われていますね。

現在流通しているほとんどのレコードは「33rpm*」か「45rpm」となっています。これは、レコードの歴史の記事で解説しましたが、アメリカのコロムビア社が1948年に直径30cmのLPレコードを開発した際に、回転数を33rpmと定め、同国のRCAビクター社が1949年に直径17cmのシングル・レコードを開発した時に回転数を45rpmとしたのが、その始まりです。

*正確には33 1/3rpmですが、この記事では33rpmと書いております。

33rpmと45rpmはどうやって見分けるの?

お手持ちのレコードが33rpmと45rpmのどちらか、分からなくなることはあるのでしょうか。ほとんどの場合、レコードそれぞれの回転数は盤面の中心部に張り付けられたレーベル面や、レコード・ジャケット、ライナーノーツのどこかに書いてあるものです。

33rpmと45rpmはどうやって見分けるの?

私が所有している数百枚のレコードの中で1枚だけ、どこを探しても回転数の書いていない盤があって、しかもそれはよく分からない即興ものの現代音楽で、33rpmでも45rpmでも普通に聴けてしまうという、まったく困ったレコードです。しかし、それはもう例外中の例外です。まず表示がなくて困ることはないでしょう。

少し話は脱線しますが、レコードにはA面とB面がある、ということはご存じだと思います。日本盤にはまずないことですが、輸入盤の中にはレーベルのどこを探してもA/B面の表示がない盤というのを、たまに見かけます。そういう時は、音楽が終わって最終の無音溝へ音溝が向かう前の空いたスペースに、針で引っかいた落書きのように何か書いてあって、その末尾に「−A」「−B」などと書き加えられていることがあります。困った時は参考にして下さい。

音楽が終わって最終の無音溝へ音溝が向かう前の空いたスペースに、針で引っかいた落書きのように何か書いてあって、その末尾に「−A」「−B」などと書き加えられていることがあります

もしも回転数を間違えて再生したらどうなる?

現代のレコードプレーヤーは、ほぼ全数が33rpmと45rpmを切り替えられますが、回転数の切り替えを間違えたら、どういうことになるでしょう。33rpmのレコードを45rpmでかけてしまったら、音楽のテンポが猛烈に速くなり、歌が金切り声になって耳を襲います。その逆は、女性ボーカルがゆっくり歌う太ったオジサンの胴間声のようになってしまうのです。回転数の切り替えには、注意したいものですね。ちなみに、回転数を間違えても正しく再生されていればレコード盤や針が傷つくことはありませんので、ご安心ください。

45rpmの方が音が良いっていうけど、実際のところどのくらい違うの?

33rpmで回すより45rpmの方が、針先は一定時間内に長い距離の音溝を通ることができます。つまり、それだけたくさんの情報を拾うことができる、すなわち音が良いということです。

それで、1980年代の初頭頃からだったか、12インチ・シングルと呼ばれるレコードが登場するようになりました。12インチ≒30cmのLPレコードサイズながら45rpmで回し、収録時間は短くなりますが、その分ヒット・シングル曲を片面1曲だけというように、贅沢な収録の仕方をしたものです。

本格的なオーディオならともかく、12インチ・シングルへ収められた曲とLPや17cmのシングル盤に収められた同じ曲との音質の差はBluetoothで聴いても分かるくらい違うの?と疑問に思われる人もおいででしょう。わが家にはアース・ウィンド・アンド・ファイアー(Earth, Wind & Fire)の「Let’s Groove」を収録したLP『Raise!(邦題:天空の女神)』と12インチ・シングルがありますが、もうまったく比較にならないくらい、12インチ・シングルの音は素晴らしいですよ。おそらくですが、どんな再生装置でも違いははっきり分かることでしょう。

ときどき目にする78rpmのレコードって何?今でも流通しているの?

回転数が33rpmと45rpmに決まる前、1950〜60年代初頭頃までのSPレコードの時代は78rpmが主流でした。SPというか、円盤レコードの初期にはさまざまな回転数のレコードがあって、それらが長い時間を経るうちに、78rpmへ統一されていったようです。

それでは「今はもう78rpmのレコードは流通していないの?」と、気になる方もおいでかと思います。何と、つい先日まで新品で購入できた78rpmレコードが存在します。ただし、SP盤と違って材質はLPと同じヴァイナルですけどね。

それは、ジャズピアニスト小川理子の「バルーション78RPM」です。オーディオ評論家の麻倉怜士さんと潮晴男さんが、最高音質のレコードを作ろうと試行錯誤を重ね、たどり着いたのが78rpmのレコードでした。残念ながらあっという間に売り切れてしまったようですが、こういう試みがいろいろなところでなされると、楽しいじゃないですか。

なぜ33rpmと45rpmに決まったの?例えば50rpmはできないの?

もうずいぶん昔に、業界の大先輩から聞いた話なので、エヴィデンスはないのですが、特に33rpmはなぜこんな不思議な回転数に決められたのか、調べても分からなかったとか。3分で100回転ということですが、別にモーターの回転と歯車の比が作りやすい、といったこともないのだそうです。

50rpmのレコードがないのは、単に50rpmの定速で回せるレコードプレーヤーが、世の中に存在しないからでしょう。フォーマットというのはそういうものです。

プレーヤーの劣化で回転が遅くなってしまうことはある?

それは「単に遅くなるだけではなく、回転が不安定になることがあります」というのが解答です。プラッターやモーターの軸がメンテナンス不足で傷んでしまったら、摩擦が激増してベルトドライブならゴム製のベルトが引っ張られて伸び、強い力でプラッターを回して、回り過ぎたら今度は縮み、という動作を繰り返し、車酔いしそうなワウ*が発生することがあります。

*ワウ:例えばレコードプレーヤーやテープデッキなど、アナログの音楽再生機器の回転が不安定になることを「ワウフラッター」という。プラッターやモーターの回転が低い周期で変調されて再生音が揺らぐことを「ワウ」といい、高い周期で変調されて音が濁ることを「フラッター」という。

正確無比の回転を誇る「クォーツロック・ダイレクトドライブ方式」のプレーヤーも、経年劣化でクオーツがロックしなくなると、ものによってはプラッターが猛スピードで回ってしまったりもします。

どちらの場合も、こうなってしまったら小手先では直りません。比較的新しい製品ならメーカーへ送り返し、ヴィンテージのプレーヤーなら信頼できる修理職人へ任せましょう。

自分のレコードプレーヤーがきちんと回っているか、どうやったらわかる?

自分のプレーヤーがちゃんと33rpmや45rpmで回っているか、回転は正確か。気になる人もおいででしょう。オーディオテクニカの『AT-LP120XBT-USB』をはじめ、いわゆるDJ用のプレーヤーは、プラッターの縁にストロボと呼ばれるギザギザが切られていて、一定周期で明滅する(速すぎて目には見えません)光を当てることで、正確に回転しているとストロボのギザギザが静止して見え、回転が速いと左、遅いと右にギザギザが流れて見えるようになります。

プラッターの縁にストロボと呼ばれるギザギザが切られていて、一定周期で明滅する(速すぎて目には見えません)光を当てることで、正確に回転しているとストロボのギザギザが静止して見え、回転が速いと左、遅いと右にギザギザが流れて見えるようになります

そういう機構が付属していないプレーヤーで、回転の正確さを確かめるには、「ストロボスコープ」と呼ばれる道具を使います。オーディオテクニカにも、廉価なところで『AT6180a』があります。回転中に盤面へ刻まれている縞模様が静止して見えたら、あなたのプレーヤーは正確に回転しているということなのですが、これは50Hzや60Hzの交流で明滅する、白熱電灯などの光を当ててやらないと縞模様が見えません。

AT6180a

ストロボスコープ

AT6180a

製品の詳細を見る

ご自宅の照明がLEDやインバーター蛍光灯ばかりだという人は、AT6180aより少し値は張りますが、『AT6181DL』なら明滅するランプまで付属していますから、どんな照明下でもストロボの縞模様が浮き上がります。これで万事解決ですね。

AT6181DL

ストロボスコープキット

AT6181DL

製品の詳細を見る

Words:Akira Sumiyama
Edit: Kosuke Kusano

SNS SHARE