アンプのツマミやスイッチの基礎をひととおり押さえた方は、次はもう少し踏み込んだ使い方も試してみたくなるかもしれません。最近はカセットテープやレコードなど、アナログ再生の良さが改めて見直されつつあり、それらの機器の接続に関する機能にも注目が集まっています。実際、録音デッキを切り替えるためのスイッチやレコード再生専用の「Phono」端子が、今でもしっかり装備されているアンプは意外と多いのです。後編では、こうしたアナログ再生ならではの細かな調整ポイントや、デジタル機器と共存させるうえで意識したいポイントなどをオーディオライターの炭山アキラさんに紹介いただきました。アンプの奥深い世界をいっそう楽しんでみませんか。
時代を超えてテープを楽しむ機能の使い方
最近はアンプに録音機が接続されることがめっきり少なくなったせいか、省略されたり簡略化されたりした個体が増えましたが、テープレコーダーの切り替えツイッチ、あるいはツマミの装備されたアンプはまだまだ結構ありますね。OFFとONは録音機の入力へつなぐためのREC OUT端子へソース信号を出力するかどうか、他に3ヘッドのテープデッキなどのために、録音状況をリアルタイムで聴くことができる「モニター(Monitor)」ポジションが設けられたものがあります。
カセットデッキの全盛期には、2台のテープデッキをつなぐことができ、ソース機器から別の音楽を流しながら、AデッキからBデッキへ、あるいはその逆にもダビングが可能、という機能を備えたアンプが珍しくありませんでした。もっとも、実際にそういうことをしたら、ソース機器から「クロストーク」と呼ばれる現象で、ダビングされたテープにソース機器の音楽信号が小さく紛れ込んでしまい、元の音楽を濁すばかりか、ダビングされた音楽の曲間などに小さくソース機器の音楽が聴こえてしまう、ということになりがちでしたがね。
テープデッキ時代の裏ワザとして、デッキ用のPB(PLAY BACK)端子は他の入力端子よりもパワーアンプへ近い位置に配されており、音が良いというものがありました。わざわざセレクターにCDポジションの装備されたアンプであっても、初めて買ったCDプレーヤーをそこへつないでいた、というマニアが相当数に及んだものです。
レコードプレーヤー用の「Phono」は注意すべき点が多い
セレクターに「Phono」(フォノ入力)と書かれたポジションがあれば、20世紀にはほぼ全数がフォノイコライザー内蔵、つまりレコードプレーヤーがそのまま接続できるものでした。現在は「フォノイコライザーを接続するための端子」という意味で用いられることがありますから、注意が必要です。
また、フォノイコライザー内蔵のアンプの中で高度な製品は、カートリッジのMMとMCのポジションを切り替えることが可能です。ただしこの切り替えスイッチはフロントパネルにあるとは限らず、リアパネルに装着されているものもありますから、注意が必要です。
さらに高度な個体になると、MCの負荷インピーダンスやMMの負荷容量、果てはイコライズ・カーブまでを切り替えるスイッチ、あるいはツマミを持つアンプもありますが、これはかなり高級な単体プリアンプにほぼ限られるでしょうね。私が使っているプリアンプも相当の上級品ですが、MCの負荷インピーダンス切り替えのみ対応しています。
あえて変換回路を使わないという選択もある
最近はデジタル信号をアナログ信号に変換することができる「D/Aコンバーター(DAC)」を内蔵したアンプも増えました。CD初期などとは比べ物にならないほど、最近のオーディオ機器はデジタル信号につきものの、そしてアナログの音楽信号には有害な、高周波ノイズを上手く遮蔽することができています。しかし、それでも僅かに残る悪影響を断ち切るため、D/AコンバーターのOFFモードが搭載されているアンプも多くなりました。特にレコードを聴いている時、このスイッチを使ってみると、音にまとわりついていた僅かなバリが取れ、音楽が耳当たり良く聴こえるようになることが分かると思います。
トーンコントロールもD/AコンバーターもOFFスイッチがあると述べましたが、その他の余計な回路もすべて飛び越え、セレクターとボリュームを通った音楽信号を直接パワーアンプへ送り込む「ソースダイレクト(Source Direct)」と呼ばれるスイッチも、多くのアンプへ搭載されています。
これもよく効くスイッチとして名高い機能ですが、ずっとONにし続けるのも少々考えものです。信号が通る経路のみエージングが進んでいき、置き去りにされた回路は一向に音が洗練されず、Directと一般モードの音質差がどんどん拡大していくことになりかねないのです。
私が愛用しているディスクプレーヤーにもよく似た機能が入っていて、当初は結構な音質差が感じられたものだからDirectで使っていたのですが、ディスプレイが消えてしまうなどの使い勝手の悪さもあり、少々の音質はガマンして通常モードで使うことも増えてきました。そうしたら、何とDirect機能のON/OFFでさほど音が変わらなくなってしまったのです。回路全体のエージングが進んだからそうなった、と推測しています。
スピーカー切り替えで生まれる意外な効果とは?
ほか、プリメインアンプとパワーアンプの一部には、スピーカーA/B切り替えがついていることがありますね。多くはAとB、A+B、そしてOFFを選ぶことができるようです。スピーカーを2セット使っている人以外に関係ない機能かというと、意外な活用法があります。スピーカー切り替えの装備されたアンプには、もちろん必ずスピーカー出力端子もA/Bの2系統あります。その両方にスピーカーケーブルをつなぎ、A+Bポジションで音楽を聴くのです。
そうやってつなぐと、アンプ内部の配線や端子の抵抗が半分に下がりますから、僅かなことではありますが、音質アップが体感できる可能性があります。
ここまで書いたアンプのツマミ・スイッチ類を、すべて活用しているという人は極めて少数だと思います。ということは、大半の皆さんはまだまだお手持ちのアンプで “遊べる” ということです。せっかくいろいろついている機能ですもの、積極的に使いこなしていきましょうよ。
Words:Akira Sumiyama
Edit: Kosuke Kusano