音楽を聴いているとき「もう少し低音を強調したい」とか、「高音を抑えたい」と思うことはありませんか? オーディオアンプには、そんな要望に応えてくれるツマミやスイッチが備わっています。調整次第で曲の印象をガラリと変えたり、環境に合わせて最適な音を作り出したりと、音の個性を操ってオーディオの奥深さを存分に味わうことが可能です。そこで、オーディオライターの炭山アキラさんに、アンプが備える、つまみやスイッチの基本的な役割や調整のポイントを解説してもらいました。音質をイメージどおりに調整する方法をマスターして、あなたのオーディオ体験をもっと豊かに彩りましょう。

「ボリューム」と「セレクター」が果たすシンプルで重要な役割

プリメインアンプ、あるいはその「音量調節」と「交通整理」の役割だけ独立させたプリアンプは、それこそ音量調節と交通整理さえできれば、最小限の用は足ります。音量調節はご存じの通り「ボリューム(Volume)」が、そして交通整理と喩えましたが、CDプレーヤーや放送受信用のチューナーなど(一般にソース機器と呼びます)を一度にアンプへつなぎ、聴きたい機器を選ぶための「セレクター」が、その役割を務めます。

聴きたい機器を選ぶための「セレクター」

世の中には、本当に電源スイッチとボリューム、セレクターだけが装備された、究極のシンプル構成というべきアンプが、実際に販売されています。これは何も、コストを削減するために外されてしまったのではありません。余分な回路を通るたびに大切な音楽信号が傷つき、鈍ってしまうから、信号経路は必要最小限に、という理想主義的な考え方によるものです。

でも、例えばちょっと低音が足りないなと思ったら、少し足すことができたり、高音がうるさいなと思ったら、少し減らすことができたりすると、音楽はもっと積極的に楽しめるじゃないですか。そういう時、大いに役立つのが「トーンコントロール(Tone Control)」のツマミです。大半のアンプでは、ベース(Bass、低音)とトレブル(Treble、高音)の2つのツマミがついていますが、それに中音調整の加えられた3バンド、あるいは低音、中低音、中高音、高音の4バンドになったものも存在します。

「トーンコントロール(Tone Control)」のツマミ

「グラフィックイコライザー」から広がる音作りの楽しさ

それをさらに発展させ、たくさんのバンドに分けて縦型のスライド式ツマミをずらりと並べたのが「グラフィックイコライザー」です。スライドツマミの位置が、即ち調整している周波数特性の図と近似するので、「グラフィック」と呼ばれます。

グラフィックイコライザーは、40年ほど前に突然大ブームとなり、ミニコンポやラジカセにまで装備された頃がありますが、今はずいぶん下火になってしまいましたね。今でもスタジオなど、フラットな特性が求められるプロフェッショナルの環境では、単品コンポーネントのグラフィックイコライザーが活用されているようです。プロ用は1/3オクターブ単位で33素子の製品が主流ですから、それはもう大変なものです。

たくさんのバンドに分けて縦型のスライド式ツマミをずらりと並べたのが「グラフィックイコライザー」

グラフィックイコライザーを解説したついでに、もう一つのイコライザーも取り上げておきましょうか。一般的なアンプにはまず搭載されていないので、本稿の主題からは外れてしまうのですが、「パラメトリックイコライザー」というものがあります。補正したい周波数を選び、山谷の高さだけではなく、どのくらい急に変化するかを選ぶこともできるというイコライザーです。中低域に不自然な膨らみや、あるいはエネルギーの痩せた部分が気になる場合、これを使ってそこをフラットへ近づけることが可能です。

「トーンコントロール」や「ラウドネス」を使いこなすコツ

トーンコントロールを搭載すると、常にトーン回路に音楽信号が通って音質が劣化してしまう。こういう不安をお持ちになる人もおられるでしょう。それで、多くのアンプにはトーンコントロールのON/OFFスイッチが装備されています。「トーン・ディフィート(Tone Defeat)」スイッチとも呼ばれますね。

「トーン・ディフィート(Tone Defeat)」スイッチ

音量をあまり上げられない時、声はきれいに聴こえても、バスドラムやベースが寂しくなってしまったと感じることはないですか。これは人間の耳が音が小さい時に、低音と少しだけ高音も聴き取りづらくなるという特性を持っているためです。

そういう聴こえ方を補正するため、多くのアンプには「ラウドネス(Loudness)」と呼ばれるスイッチが装備されています。主に低域を少し持ち上げてやるスイッチです。ショボくれた感じに聴こえていた小音量の音楽を、一気に蘇らせるスイッチといってよいでしょう。

「ラウドネス(Loudness)」と呼ばれるスイッチ

とはいえ、ご家族やご近所を気にしてせっかく音量を絞ったのに、ラウドネスをONにしたら低音は大きくなってしまいます。特にマンションの階下などへは、ドラムスのドンドンいう音などが伝わりやすいので、ご使用は慎重に、とお勧めしておきます。

ラウドネスとは逆に、再生音量を一時的に小さくする「ミューティング(Muting)」機能が盛り込まれたアンプもあります。突然電話がかかってきた時などは便利な機能ですが、くれぐれもミューティング・スイッチをONにしたことを忘れ、ボリュームをグイっと上げて音楽を聴かれませんように。多くのミューティングは凝った回路が搭載されているわけではなく、固定抵抗に毛が生えた程度のものですから、ONにしたまま同じ音量までボリュームを上げても、同じ音には決してならないのです。

再生音量を一時的に小さくする「ミューティング(Muting)」

「バランスコントロール」と故障診断で知っておきたいこと

多くのアンプへ搭載されているのに、私の知る限りあまり活用されていないのが、「バランスコントロール(Balance Control)」、あるいは「バランスボリューム(Balance Volume)」と呼ばれるツマミでしょうか。ステレオの左右チャンネルを音量調整するためのツマミなのですが、例えばポップスのボーカルがセンターから大きく外れて再生された場合、(もともとそういう風に収録された音源を除いて)それはバランスコントロールで補正するよりも、機器の故障を疑うべきです。

まずアンプの電源を落とし、ボリュームとセレクター、バランスのツマミをグリグリと左右いっぱいまで何度も回してやります。それでも直らなかったら、接続ケーブルの接点を掃除してやりましょう。高度なクリーニング液やキットもありますが、簡易的には無水アルコールを綿棒につけて接点を磨いてやるのがよいでしょう。

「バランスコントロール(Balance Control)」、あるいは「バランスボリューム(Balance Volume)」

それで直らなかったら、機器の故障です。まずソース機器をセレクターで切り替え、特定の機器で左右バランスが悪いなら、まず異常のない機器と接続ケーブルを取り替えてみましょう。それで症状が変わらなければ機器のせい、バランスが正しくなったらケーブルのせいです。

どれを聴いても同じようにバランスが悪いなら、次にスピーカーのケーブルを左右逆につないでみましょう。それで音量バランスが左右逆転したらアンプのせい、しなかったらスピーカーかスピーカーケーブルのせいということになります。右と左のスピーカーケーブルをそっくりつなぎ替えてやって、バランスが変わらなければスピーカーのせい、変わればケーブルのせいです。

というような次第で、不具合を起こした機器を補正するためにバランスコントロールを使うことは、あまりお薦めできません。私がこれを使うのは、モノラルの音源を聴く時、左右どちらかの音量を絞り切ってスピーカー1本で聴く場合だけです。モノラル音源をスピーカー2本で聴いても決して悪くはないけれど、1本で聴くとちょっと質感が違って聴こえます。簡単にできる実験ですから、一度試してみられることを薦めます。

後編はこちら

Words:Akira Sumiyama
Edit:Kosuke Kusano

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