新しくオーディオ機器を購入した際に「エージング」をしていますか?エージングとは、機器が使用を重ねることで音質が変わる現象を指します。時間が経過するにつれてオーディオには一体どのような変化が起きているのか、オーディオライターの炭山アキラさんに伺いました。

音の変化に耳を傾けよう

スピーカーでもアンプでもプレーヤー類でも、新しいオーディオ機器を購入したら、最初の一音でその製品を判断してはいけません。そのコンポーネントは、鳴らし始めよりも1時間後、1週間後、1カ月後と音質がどんどん変わっていくからです。

この現象を、「エージング」といいます。直訳すれば「老化」ですが、時間をかけてバリを取り、摺り合わせていく作業です。

一体なぜこういうことが起こるのか。スピーカーを例に取るなら、スピーカーユニットは振動することで音波を発します。作られてすぐのスピーカーユニットは、未だ振動系が動きにくく、時間をかけて鳴らし込んでいくうちにどんどん動きやすくなり、本来の性能に近づいていくのです。

作られてすぐのスピーカーユニットは、未だ振動系が動きにくく、時間をかけて鳴らし込んでいくうちにどんどん動きやすくなり、本来の性能に近づいていく

また、キャビネットも製作される際に強い力がかかっており、それが歪みとして板材やつなぎ目に溜まっています。それらは時間とともに少しずつなじんでいき、それに伴って肩の凝ったような音が滑らかになっていったりするものです。

ウーファーとトゥイーターなど、再生帯域の違うユニットへ向けて音を分割するクロスオーバー・ネットワーク素子も、鳴らしているうちにどんどん音の違和感がほぐれ、聴きやすい音になっていきます。

私が現在リファレンスとして愛用しているバックロードホーンスピーカーの「ハシビロコウ」には、ホーン型のトゥイーターを載せていて、メインのフルレンジはそのまま鳴らし、トゥイーターへコンデンサー1発のみのネットワーク素子を挿入しています。

現在使っているトゥイーターは、絶対的な性能は極めて高いものの、フルレンジより少々音が冷たく、キツめに鳴ってしまう傾向があり、それでほんの僅か音を緩めるために、「オイルコンデンサー」と呼ばれるものを使っています。

オイルコンデンサーは、エージングに時間がかかることで知られています

オイルコンデンサーは、エージングに時間がかかることで知られています。私が使っている個体も、最初は何とも不自然な音に閉口したものですが、そこをガマンと聴き続けたら、何と2年ほどもたって音がこなれ、今ではトゥイーターを載せていることが分からないくらい、フルレンジと完璧になじんでいます。

もっとも、一般的なフィルムコンデンサーや電解コンデンサーでは、これほど時間がかかることはありません。極端な例の一つとお考えいただいていいと思います。

アンプやデジタルプレーヤーなども、内部に使われているコンデンサーや抵抗器などが、通電されることにより音質が向上する、というより設計時の値を発揮することができるようになる、と考えられます。スピーカーよりも素子の数が飛躍的に多いことから、その分時間がかかることも考えられますが、スピーカーはスピーカーで振動系のエージングに費やされる時間がありますから、そう大きな差はないと考えてよいのではないでしょうか。

内部に使われているコンデンサーや抵抗器などが、通電されることにより音質が向上する、というより設計時の値を発揮することができるようになる

アクセサリー類も「エージング」で音質向上することがある

ここまでは、明確に理由の分かるエージングですが、オーディオアクセサリー群には、なぜだか分からないけれど明確にエージングで音質が向上するものがあります。一番顕著なのはケーブル類で、鳴らしているうちにどんどんレンジが広がり、解像度もアップしていくことが分かります。

また、これもオカルトめいた話になりますが、オーディオ装置の置き方を変えると、音がなじむまでに最低1日くらいかかることがあります。これは、機器の筐体と設置した床や棚板などに平面性の差があり、それによって生ずる僅かなガタつきが、重力によって両者がしない合うことにより、密着度が高まってガタつきが減るせいだと、個人的には考えています。

同じように、脚の下へインシュレーターを挟んだりした場合も、音がなじむまでにある程度の時間がかかると思った方がよいでしょう。面白いことに、本来ならガタつきが原理的に起こらないはずの、ソフトなインシュレーターの方が、むしろなじむ前となじんだ後の音質差が大きいように感じることがあります。

AT6902BR

スパイクベースインシュレーター

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もう一つ、これもエージングといっていいのかどうか分かりませんが、「機器の音質に持ち主が慣れる」ということもあるのではないかと考えています。

新しく購入したコンポーネントが、これまで使っていたものと全然表現の方向性が違っていた時、多くの人は強い違和感を生ずるのではないですか。しかし、時間がたつに連れてその違和感は解消していくことが多いものです。

それは、あるいは機器自身がエージングで音質変化していくことによって、リスナーの耳になじんでいくこともあるでしょう。しかし、リスナー自身が新しい機器の音に新たな魅力を発見し、それを積極的に好み始める、という現象も往々にして起こっているのではないか。私にはそう感じられてならないのです。

40年以上前、私にも音の好みが劇的に変化した瞬間が訪れたことがあります

40年以上前、私にも音の好みが劇的に変化した瞬間が訪れたことがあります。それまで、今から思えばかなりナマクラな30cmのウーファーを用いた2ウェイ・スピーカーを使っていた私はある日、今でいうホームセンターのような店の工房脇で、自作スピーカーの大御所というべきオーディオ評論家の故・長岡鉄男さんのバックロードホーンスピーカーが鳴っているのに遭遇します。

最初は「何だか乱暴な音のスピーカーだな」と感じましたが、その音がなぜだか耳にこびりついて離れず、その後何度かその店へわざわざ音を聴きに行ったりしたものです。

そんなある時、突然「あ、これがハイスピードな音というものなのか」と、ストンと腑に落ちたような気がして、それ以来私はフルレンジスピーカーとバックロードホーンの虜になりました。

オーディオマニアの中には、これと見込んで買ったコンポーネントでも、自宅へ搬入されて音を出した瞬間「あぁ、これは失敗だ」と早速手放される、という人がおいでです。個人的には、せめてエージングが終わるまで、できたらご自分が「腑に落ちる」瞬間が訪れるまで、新しい相棒と付き合ってみるのもいいんじゃないかと思うのですが、まぁこれは人それぞれですかね。

私たち人間だって、スポーツの前には準備運動・柔軟体操を行ったりしないと、思わぬ肉離れなどに襲われがちです。オーディオ機器も、少し長い目で “育てて” いってあげて下さいね。

Words:Akira Sumiyama
Edit: Kosuke Kusano

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