この広い地球には、旅好きしか知らない、ならぬ、音好きしか知らないローカルな場所がある。そこからは、その都市や街の有り様と現在地が独特なビートとともに見えてくる。
音好きたちの仕事、生活、ライフスタイルに根ざす地元スポットから、地球のもうひとつのリアルないまと歩き方を探っていこう。今回は、インドネシアのジョグジャカルタへ。
インディーポップ・インディーロックと称されることの多い彼ら、キュートでカラフル、エネルギッシュ、そしてパンク精神満載。インドネシアのインディーバンドGrrrl Gang(ガール・ギャング)。
2016年、ジョグジャカルタを拠点に大学で結成した3人組は、これまでバンコク、シンガポール、マニラなど東南アジアの都市をツアーしてきた。そんな実力派バンドは「やっぱり地元でのショーが一番!」ときっぱり。地元の街と彼の音楽生活から、ジョグジャカルタのリアルな歩き方を覗いてみたい。
ジョグジャカルタは朝10時。早くからありがとうございます。Edo、眠そう。
Edo:うん。さっき起きた(笑)
Akbar:午後はやることが多いから、取材は午前中に受けるようにしてるんだ。
やること?
Akbar:次のアルバム制作に取り掛かっているんだ。ミュージックビデオ撮影もある。10月にリリース予定だから、チェックよろしくね(取材時は2022年8月)。
忙しい中、時間ありがとうね。
Akbar:僕らにとってもありがたい機会だよ。そういえば来週シンガポールに行くんだけど、Sobsに会うよ。
わお。このシリーズの第1回を飾ってくれたシンガポールの3人組インディーバンドです。仲良いの?
Akbar:うん。最初はオンラインで繋がって、2018年には実際に会ったよ。同年代だしやってる音楽も似てるし仲良いんだ。
繋がりますねぇ。じゃあさっそくバンド紹介いってみよう。Grrrl Gangは2016年に結成した、ジョグジャカルタ拠点の3人組インディーポップ・ロックバンド。みんな生まれも育ちもジョグジャカルタ?
Akbar:ジョグジャ出身なのはEdoだけ。僕とAngeeは進学で引っ越してきたんだ。ジョグジャに住んで7年。
(ジョグジャカルタのこと、ジョグジャって略すんだ…)
Angee:バンドを結成したのは大学時代。当時、AkbarとEdoがやってたコレクティブに私が参加してはじまったんだ。
Grrrl Gangの「Grrrl」は、Riot Grrrlの「Grrrl」と同じ綴り。Riot Grrrlといえば、いち早く音楽×フェミニズム×政治のムーブメントを巻き起こしたパンク・バンドですね。どんな意味を込めてこのバンド名に?
Angee:いや、それが、ただ可愛いなって(笑)。生意気な感じで響きもいいしね。深い意味はないよ。一応、他にいいアイデアがないかバンド名ジェネレーター(ランダムにバンド名を生成してくれるサイト)で調べたんだけど、しっくりくるものがなくて。AkbarとEdoも私の命名に「了解〜」って感じだった。
てっきりフェミニズムを意識して名付けたのかと思って、そこらへんの質問も用意してました(笑)
Angee:はは(笑)。フェミニズムについて歌った曲ならあるけど、自分たちをフェミニストバンドだとは思ってないんだ。
いまはわざわざ「フェミニストバンド」と名乗ったり自負しなくても、ありかたの前提に世代の価値観が流れていて、そういった曲をつくったり歌詞に入っていたりする気がします。男性ふたりに、女性ひとりのバンドで「Grrrl Gang」というバンド名を選ぶというところが、自然でいいですね。
3人とも、英語がとても流暢ですね。歌詞もぜんぶ英語。
Edo:大学で国際関係学を勉強してたからかな?
Angee:国際関係学の授業はぜ〜んぶ英語だったもんね。
IGでは、地元の言語で会話してる投稿も見ましたよ。
Edo:会話の中で2 、3言語が飛び交うことはざらにあるよね。インドネシア語とかジャワ語とか。
Akbar:インドネシアにはたくさんの文化と言語が存在するから、より多くの人たちと繋がれるように、意識的に多言語を話すようにしてる。英語を話すのは、インドネシア国外の人にも僕らの音楽を届けるため。
Angee:ここインドネシアでは、英語を話せるって、特権だと思う。
3人はどんな音楽を聞いて育った?
Angee:私はロック! 父が好きだったイングランド出身のハードロック・バンドDeep Purpleをよく聴いていた。
Akbar:中学、高校時代はひたすらハードコアやパンクを聴いてたなあ。高校生になってからライブに行き出して、アングラシーンでどんなムーブメントが起きてるのかとか、音楽は時に政治的メッセージにもなり得ると気づいていって、サブカルにハマった。
インドネシアといえば、バリ島が有名。一方ジョグジャは、首都ジャカルタとバリ島の真ん中に位置する古都。3人からみたジョグジャって、どんな都市?
Angee:進学で引っ越してきた私からすると、ジョグジャは大学生にぴったりの都市って感じ! 食べ物が安いし、カルチャーが豊かだし。
音楽シーンはどう?
Edo:パンクシーンにテクノシーン、ポップシーンだったりなんでもあるねえ。
Grrrl gangのスタイルでもある、インディーポップ・インディーロックシーンも気になる。
Akbar:若いバンドや音楽コレクティブがたくさんいるよ。さっきAngeeも言ってたけど、ジョグジャは大学生が多い都市。ニューヨークみたいに毎年進学でやって来る子が絶えないから、比例して新しく誕生するバンドの数も絶えない。特にここ数年はイケてるバンドが多い。
Akbar:ジョグジャでは大学生が主催する大学でのショーやフェスが多くて、インディーポップ、インディーロックをやるのが当たり前って感じ。大企業がスポンサーになることもあるんじゃないかな?
じゃあ、べニューやライブハウスも多い?
Akbar:そこがジョグジャの難点。実はあんまりないんだよね。正確にはインディーバンドがやるような、小規模ライブを開催できるところがない。
大規模なコンサート用ホールしかないってこと?
Akbar:小規模用べニューもゼロではないけど、極めて少ない。ジョグジャには多くのバンドや音楽コレクティブがいるから(それ用の施設が多く)、僕らみたいな大きな収益を生み出せないインディーバンドは、そういったべニューを借りるのがなかなか難しい。
Edo:政府が資金提供する「Taman Kuliner Wonosari」という巨大スペースみたいなのもあるんだけど、ライブするにはもろもろの審査や時間管理が必要で大変。
となると、いつもどこでライブしてるの?
Akbar:よくライブするのは、友だちの家のリビングルーム。あとはコーヒーショップとか。
リビングルーム! 穴場かつホットな地元ベニューを聞けるかと思ったけれど、その答えは…
Akbar:リビングルーム!
Edo:べニューでライブするのとはバイブスが全然違うよ。それに入場料は無料。遊びに来るのはみんな友だち。
ベッドルームならうぬ、リビングルーム・ミュージシャン。週末に友だちの家でやるホームパーティーみたいなノリ?
全員 : まさにそんな感じ!
楽しそう! Grrrl Gangといえば最初のシングル『Bathroom』や、一昨年にリリースした『Honey, Baby』といったミドルテンポの歌メロが人気ですね。個人的には『5 AM in Boston Street』が特に好きです。あのヤングパンク感。イントロから歌い初めまでのメロディーの変化が気持ちよく、歌詞も強い。「His dad is a lawyer, well my dad is a goddamn loser(彼の父親は弁護士、うちの親父は負け犬)」の歌詞、痛烈ですね。
Angee:ありがとう。私が歌詞を書いたんだ。英国のバーミンガムにあるストリートなんだけど、ちょうど大学の交換留学プログラムで住んでた寮がBoston streetにあったから、そのままタイトルにしたんだ。
ジョグジャではいつも何して遊んでる? 世界遺産ボロブドゥ-ル遺跡やプランバナン寺院群など、古都ならではの観光スポットが多いけど、普段そういうところへ遊びに…
Angee:行かないね。
そうだよね。
Akbar:よく遊びに行くのは「JRNY Coffee & Records」。僕らの友人がレコードのセレクションを担当しているレコ屋。友人は1996年からジョグジャの音楽シーンにいるから、よく相談に乗ってもらってる。「JRNY Coffee & Records」でお目当てのレコードが見つからなかったら「Mantrino Records」に行く。ここはエクスペリメンタル・ロックやヴィンテージ・ハウス、テクノなんかが豊富。ちなみにCDやカセットはなく、レコードオンリー。
いまIGのアカウントを見てるけど、両レコ屋ともにいいね。
Akbar:ちなみに、バンドがショーをする際に物販するのって普通じゃん? でもジョグジャでは、その日にショーを演奏してないバンドもブースを出してグッズを売るのが一般的なんだ。だから「レコードを売るためにレコ屋にもちゃんと通う」とかは、特にしてないんだ。
Angee:私がメンバーや友だちとよく行くのは、食事も提供するレストラン的スペース「Tio Ciu Seafood & Chinese Food」。熱々のフライパンに乗ってくるチキンが絶品。もしジョグジャにくる予定があるなら行った方がいい。 煙ですんごい暑いけど(笑)
郷土料理のナシゴレン、食べてます?
Akbar:自分で作る人が圧倒的に多いと思うから、わざわざレストランでは食べない気がするなあ。Edoは料理が上手いから、美味しいナシゴレンを作りそう。
Edo:僕的にナシゴレンは屋台のが一番美味しいと思ってる。「DAB」とか、僕が通ってた高校の前にあった「Nasi Goreng Sapi Padmanaba」とか。
レストランで食べるより安い?
Edo:もちろん。1ドル(約143円)とかで買えちゃうよ。
なんと! 他に地元といえばの食べ物は?
Akbar:それぞれの都市にそれぞれの郷土料理があって、ジョグジャといえば「グドゥッ(gudeg)」。えーと、なんて説明したらいいんだろう、誰かわかる?
Angee:説明が難しいな…。
Edo:うーん…。
Angee:辛いソースにディップするクラッカー、みたいな?
Akbar:ジャックフルーツだ、ジャックフルーツ!
ググってみます(笑)。えーと「グドゥッとはジョグジャとジャワ州の伝統的料理で、若いジャックフルーツをココナッツミルクと赤砂糖で煮込んだもの」。Akbarが正解。ちなみにジャワ料理は甘くて、バリ料理は塩辛いって聞きました。
(取材も終盤。ここで、実はひっそり取材に参加していたドラマー君が初めて口を開く。正式メンバーではなく、今回臨時でドラムを担当しているため紹介は割愛とのこと)
臨時ドラマー:そうそう、そうなんだ。だから同じナシゴレンでも、ジャワ島で食べるナシゴレンは甘みが強かったりするよ。
これまでバンコク、シンガポール、マニラなど東南アジアの都市をツアーしてきたGrrrl Gangですが、一番好きなのは故郷でするライブだそうでね。あるホテルのバーでは60代のまったく違う世代が泥酔して最高に盛り上がってくれたことなど、そういった喜びを語っていましたね。
様々な東南アジアのベニューやカルチャーを見てきたわけだけど、やっぱり地元が一番いい?
Akbar:ジョグジャではたくさんのことを学び、たくさんの友だちができたから。みんなが見にきてくれると、いつでも大学時代を思い出すんだ。だから、地元でのショーが一番!
Grrrl Gang/ガール・ギャング
2016年に大学で結成した3人組インディーポップ・ロックバンド。拠点はインドネシアのジョグジャカルタ。メンバーはAngee Sentana(ボーカル)、Edo Alventa(ギター)、Akbar Rumandung(ベース)。大学の裏庭でのギグや首都ジャカルタでのショーなどを経て、2021年にオンライン開催したSXSWに出演。またバンコク、シンガポール、マニラなど東南アジアの都市でツアーをこなす実力派だ。現在は10月リリース予定のニュー・アルバム制作に尽力する。
All Image by Tiny Studio
Words: Yu Takamichi(HEAPS)