この広い地球には、旅好きしか知らない、ならぬ、音好きしか知らないローカルな場所がある。そこからは、その都市や街の有り様と現在地が独特なビートとともに見えてくる。
音好きたちの仕事、生活、ライフスタイルに根ざす地元スポットから、地球のリアルないまと歩き方を探っていこう。今回は、シンガポールのシンガポールへ。
Uncool Pop Music。かっこよくないポップ・ミュージック。2017年にデビューし、駆け足でアジアから米国のインディーポップに花を咲かせるバンドSobsの出身地であり拠点地、シンガポールのシンガポール(シンガポール全体が1つの国であり、1つの都市)。新しいアルバムを制作中だという彼らの真夏の果実のように甘酸っぱいサウンドが作られる地元の街と音楽生活から、シンガポールのリアルな歩き方を覗こう。
シンガポールは夜10時。金曜の夜遅くからありがとうございます。
Raphael:ジャーン。(Audio-Technicaのレコードプレーヤーのカバーを見せる)
おお、Audio-Tehnicaユーザー!
Raphael:メンバーはみんなAduio-Technicaのヘッドフォンを使っているよ。
最高の出だし。みなさん、シンガポール生まれ?
Sobs:うん。みんな、そう。
生まれも育ちもシンガポール。メンバー同士の出会いを教えてください。
Raphael:まずCelineが、自分の音楽活動で協働してくれるプロデューサーやバンドを探していて、オンラインの音楽フォーラムでJaredに会った。それで二人はエレクトロポップなんかを作っていてね。次第に、常にバンドでギターをやりたいと思っていたJaredがギターベースの音楽を作るようになっていった。そんなときCHVRCHES(チャーチズ、英バンド)のコンサートで僕とJaredが出会って、音楽友だちになり、バンド活動にくわわることになったんだ。
オンラインとオフラインで出会ったんですね。いま、みんなバンド以外にも仕事を?
Celine:ヨガスタジオの受付をしている。朝6時半に起きることもあるよ。
Raphael:うわぁ6時半…。僕はフリーランスのデザイナー。(Sobsも所属している)レーベル「Middle Class Cigars(ミドル・クラス・シガーズ)」も運営している。Jaredは、いま…。
Jared:僕は、いま軍隊で勤務している。シンガポールには、兵役制度があるから。
そうか、兵役があるのか。それでも音楽活動は続けられる?
Jared:うん、ラッキーなことに、オフィス勤務なんだ。
Raphael:僕も前、軍隊にいたんだけど、兵役制度が、音楽活動の障壁になることもある。ツアーに出ることも大変だし。
みんなのスケジュールがバラバラななか、普段、曲作りはどうやってやっているんですか。
Celine:最初はみんなでアイデアを出しあって、実際に会ってつなぎ合わせている。
Jared:コロナ前は、もっとライブがあったから、ライブの前に2、3回落ち合って練習していた。
決まってここで練習する、という場所は?
Raphael:アメリカとかのバンドだと、自分たちの家に地下スタジオとかあると思うんだけど、ここ(シンガポール)ではスタジオを借りるしかない。日本と似ているのかも。
Celine:これが高いんだよね。
Raphael:だいたい1時間で30ドルくらい。2時間練習するとなったら、60ドル。高い。
Jared:だからライブがあるときだけ、スタジオをレンタルして練習して…。それ以外の主な作曲プロセスは、ほとんどインターネット。
Celine:Raphaelは、午前3時から8時くらいにメッセしてくる。
夜型だね。よく演奏したり、遊びに行ったりするライブハウスはどこでしょうか。
Celine:White Label Recordsというレコードバーは、イベントもよくやっていて、友だちとふらっと遊びに行ける場所だったんだけど、クローズしちゃったんだ。
Raphael:たくさんのライブベニューが閉まっちゃったよね。コロナだけでなく家賃高騰や警察によるシャットダウン、騒音などが原因。シンガポールには、ライブベニューが足りないよ。そういえば、僕たち、White Label Recordsで、クリスマスライブやったよね?
Celine&Jared:そうだ、やったわ。
Raphael:30人くらいのチルなライブになるのかと思ったら、ベニューの建物をぐるっと囲むほど列ができて(笑)。
Jared:80人くらいいたよね。
他にライブしたことあるベニューは? あと、いまもあるライブハウスで、好きなところ。
Celine:The Projectorっていう、インディペンデント映画シアター。シンガポールや外国のインディー映画を上映しているところだね。
いまもあるライブハウスで、好きなとこは?
Raphael:Lithe Houseとか?
Celine:そうだね、バンドがライブもできて、スタジオとしてジャムもできる場所。よくエモやハードコアシーンのローカルバンドのライブもやっているよ。すっごい小さいの。とにかく人がぎゅうぎゅう詰めで、入るのも大変だし、とにかく暑い。でも、そこにいるみんなが友だち、みたいな気分にさせてくれる。
Raphael:このベニューがあるのは、リトル・インディアの古いショップハウス(店舗付き住宅)。隣にはコンビニがあって、ここのトイレによく行く。
有益なお役立ち情報です(笑)
Celine:Lithe Houseのトイレは、バンドが演奏している後ろにあるから(人がぎゅうぎゅう詰めだと)行けないから、隣のコンビニのトイレを借りるっていうわけ。
地元の人にしかわからない裏技だ。
Celine:とにかくここは狭いから、チケットを買って中に入らなくても、みんな外でたむろしている感じ。ビールを飲みながら。
Raphael:隣のコンビニで買ったビールね。昔からやっているオーナーがいて…。
Jared:もういまは、あのオーナーいないよ。
Raphael:オー、メーン…。まあ、そんな感じ。あと、ここは「Museum of Independent Music」とも呼ばれている。だよね?
Sobs:(みんなで苦笑い)ミュージアムというか、なんというか、ね。
Raphael:ベニューの外に、1990年代、2000年代にそこでプレイしたバンドのポスターやギターなどが飾られているんだ。あと、警察もよく見回りに来る。
Celine:警察はどこにでも来るよ。
バンドの練習や、ライブ終わりによく行く場所はありますか?
Raphael:「BK Eating House」。クラークキーというナイトライフが盛んな街の中心地の、川沿いにある店。なぜだか、みんなここに集まるよね。ここの麺がおいしい。
どんな麺メニューがおすすめ?
Celine:ひき肉とか、フィッシュボール(つみれ)とかが入った麺。揚げ麺もうまいよ。
メニューの看板を見る感じ、素朴なお店。
Raphael:シンガポールには、「ホーカーズ」や「コピティアム」と呼ばれる屋外にあるフードコート(屋台街)があるんだ。
BK Eating Houseもコピティアムのなかにあるのか。
Celine:コピティアムは、全然オシャレでもないし、まったくもって気取ってない。シンガポールではお酒が高いから、みんなバーには行かないで、セブンイレブンやコピティアムで安いビールを買って、そこで飲んだりもするんだ。
どんな銘柄のビールをよく買うの?
Raphael:Anchorっていうブランド! シンガポールのミュージックシーンにいる人たちはこのビールが好きだよね。安いし、よく売っているから。このビールについてを歌った『Anchor Forever』という曲を出した地元バンドがいるくらい(笑)
地元ミュージシャンの寵愛がすさまじい。安いビールと、あとコピティアムの好きなところは?
Raphael:若者やキッズだけじゃなくて、60歳くらいのおじさんたちもたむろしていること。中国の地元の方言で喋っていたりね。僕たちに話しかけてくることもある。
Celine:私たちがリハーサルのあとに行くと、ライブ終わりの友だちが来ていたりクラブ帰りの知り合いがいたり。イベントのあとに、みんなふらっと来る感じ。24時間営業しているから、朝の2、3時までいることが多いよ。
夜のコピティアムに行けば、知った顔がちらほらいるんだ。ホッとしますね。sobsの、ここに行けば必ず誰かに会える、他には?
Raphael:Esplanadeかな。シンガポール随一のコンサートホールで、コロナ前は、毎年地元のアーティストをフィーチャーした音楽フェスもやっていた。このホールでインディーバンドのライブがあると、いつも同じようなメンツと会うよ。あと、会場内にあるThe Analog Vaultというレコードストアにはジャズやアンビエント、ローカルのレコードが取り揃えてある。DJセットのイベントもできるし、実際、僕たちもライブをしたことがある。
馴染みの店の馴染みの人、もやっぱりいるよね? 名物店長とか。
Raphael:Red Point Record Warehouseの店主、ミスター・オンだ。ここのレコードストアは工場団地のなかにある、“巨大なレコード倉庫”という感じで、中国や台湾、香港、日本など、アジアから輸入したレコードのコレクションがすごくいいんだ。多くのレコードが1960年代のユーズドで、いつも新しい音楽を発掘できる。この前も、シンガポールにいる鳥のサウンドを集めたレアなレコードを発掘したよ。ミスター・オンは、音楽についていろいろ教えてくれる人で、たとえば「80年代の中国のパンクレコードを探している」というと、おすすめをチョイスしてくれるんだ。
Celine:私は、BK(Eating House)のおばさんと顔見知り!通勤途中にあるから毎日コーヒーを買いに行くから。
三人ともシンガポールで生まれ育ったとのこと。ティーンエージャーの頃にはどういうところに行ってた?
Celine:ティーンエージャーっていったら、モール。15、16歳のときに、Cathay Cineleisure Orchardというモールによく行っていた。ここ、もういまじゃ誰も行かないけどね。
Jared:2000年代中盤に、政府が若者向けの施設の建設に力を入れていたんだ。キッズの“ハングアウト・スポット”として、スケートパークなんかもできた。
Celine:シンガポールは街自体狭いし、外もとにかく暑いから、結局エアコンがきいているモールに行くしかなかったんだよね。公園にいても暑いし。
オフのときにリラックスしに公園に行く、なんてこともなし?
Sobs:ないよね、なんでだろう。あとビーチもあるけど、行かないし。
シンガポールといえば、中国系からマレー系、インド系、アラブ系、欧米人までさまざまな移住者が住む他民族都市ですが、シンガポールっぽいなと思うところって、どんなとこ?
Celine:すでにいろんなカルチャーが混じり合っているよね。
Raphael:政府もきちんと考えていて、公営団地にしても、すべての住民を一つの民族、たとえばすべて中国系だけ、とせず、いろいろな民族を混ぜているんだ。シンガポールは全体的に、民族や文化の境がないよ。
シンガポールのどんなところが好き?
Raphael:安全な国だから、夜外に出ていてもそこまで心配しなくてもいいんだ。あとは、食べ物が安くて、どこにでも入れるところ。徒歩圏内で5ドル以下のおいしいものが食べられる。僕の行きつけは、近所の「Beauty WorldCentre」という古いモールの屋上にある「Top 1 Home Made Noodle」という麺屋さん。
いい国ですね! じゃあたとえば他の国や都市に行っていたとして、「シンガポールに戻ってきたな〜」という気持ちにさせてくれる場所は?
Sobs:空港。
これまた予想外の答え。
Raphael:シンガポール空港は、すごく快適。やばすぎるくらい良い。シンガポールに戻ってきたときに飛行機の窓から見えるビーチや、街のスカイライン、Singapore Flyerなどが見えるのが、いいんだよね。
都会っ子だ。あれ、もう23時過ぎちゃいましたね。
Raphael:これからここで曲作りを進めるんだよ。
そこの部屋、スタジオにもなってるんだ。
Raphael:ここは僕の部屋でホームスタジオ。もうすぐ完成予定の曲もここで演奏したんだよ。
もうご飯はすんだ?
Raphael:このインタビューの前に、Jaredと近所のご飯屋「Karu’s Indian Banana Leaf Restaurant」に行ったんだ。インディアン・バナナ・リーフというバナナの葉の上に、ライスや肉、野菜を乗っけて食べる。食べすぎちゃったよ。24時間営業なのがいいよね。
Sobsにも『Breakfast』という曲がありますが、明日の朝は、なにを食べましょう。
Sobs:まただけど、コピティアム(笑)
Celine:カヤ・トースト(カヤ・ジャムと厚く切ったバターを挟んだシンガポール名物トースト)。ふっくらと焼いた卵。プラスチックの袋に入ったコーヒー。
Raphael:コーヒーは、長い注ぎ口の大きなやかんで淹れてくれる。フィルターの代わりに大きな靴下みたいな布で濾してね。
Jared:バターが山のように積まれている店もあるよね。
Raphael:シンガポールのいいところは、いつでもどこでもいい感じのコピティアムがあるところ。
Celine:曲作りの合間もコピティアム。いろんなことがコピティアムで起こっているよ。
Sobs/ソブス
インターネットを通じて知り合った3人組、Celine Autumn(セリーヌ・オータム)、Jared Lim(ジャレッド・リム)、Raphael Ong(ラファエル・オン)の三人組で結成。2017年にデビューし、駆け足でアジアから米国のインディーポップにまで花を咲かせる。ファーストEP『Catflap』の後、18年にはファーストアルバム『Telltale Signs』をリリース。白昼夢を見ているかのような風船色のサウンドが気持ちいい『Astronomy』や、90年代なノスタルジー・ドリームポップの残り香が鼓膜をくすぐる『Telltale Signs』など、ふんわり甘いのにふっとどこかに消えていってしまうような儚さを持つ曲がいい。アジアのみならず、米国のメディアでも高い評価を得ている。
Eyecatch Image via Sobs
Words: HEAPS