「レコードは音質がいい」「レコードの音には温かみがある」とはよく耳にしますが、いまの令和の時代において発売されたレコード、その音質はいかに?ここではクラシックからジャズ、フュージョン、ロックやJ-POPなど、ジャンルや年代を超えて日々さまざまな音楽と向き合うオーディオ評論家の小原由夫さんに、最近<音がいいにもほどがある!>と感じた一枚をご紹介いただきます。
『スター・ウォーズ』、『ジュラシック・パーク』、『ハリー・ポッター』など、数多くの名曲を生み出した映画音楽の巨匠
約30年ぶりに来日し、長野県松本市や東京のサントリーホールで「サイトウ・キネン・オーケストラ」を指揮するコンサートを行なった米ハリウッド映画界の巨匠ジョン・ウィリアムズ(John Williams)。
御歳92という年齢が信じられないほど精力的に活動し、サントリーホールではライブ録音盤も残していった。 それが今回採り上げた『John Williams in Tokyo』だ。 本盤の演奏は、ドイツ・グラモフォン社創立125周年記念の特別公演という冠が付けられており、ジョンが指揮した名門楽団との共演アルバムとしては、ウィーン・フィル、ベルリン・フィルに次いで3作目となる。
演目は1970年代から今日まで、ジョンが作曲を手掛けた米ハリウッド映画や英国作品のテーマ曲や挿入歌。 作曲者自身の指揮による、まさしく選りすぐり楽曲ということになる。 LPは2枚組4面の180g重量盤。 その録音とミキシングを担当したのは、NHK出身のミキシングエンジニア 深田晃氏。 サ イトウ・キネン・オーケストラの録音には長年に渡って携わってきたベテラン技師で、もちろんサントリーホールの響きも熟知されているし、自身が考案したマイクアレンジで世界的にも知られる音のマイスターである。
深田氏の録音の特質か、あるいはサイトウ・キネン・オーケストラの持味か、それともサントリーホール固有の響きの特性なのか、はたまたそれらの総合的成果なのかはわからないが、前記した楽団との共演盤に比べて、演目がほぼ共通しているにも関わらず、本LPの音は実にまろやかで柔らかく、繊細な響きに感じられるのがたいへん興味深い。 特に弦のしなやかさと滑らかさは特筆したいところで、そこに金管群の合奏が加わると、ゴージャスでたいそう重厚な雰囲気が増強されるイメージだ。 ステージの奥行きと見晴らしも素晴らしく、ステレオイメージは視界良好という感じである。
スーパーマンの「スーパーマン・マーチ」やスター・ウォーズの「帝国のマーチ」、「シンドラーのリストのテーマ」やハリー・ポッターの劇中音楽など、お馴染みの楽曲が次々と演奏されるが、個人的に最も感慨深いのが、D面1曲目に収録されたハリソン・フォードのヒットシリーズ、インディ・ジョーンズの「レイダース・マーチ」である。
メロディを思わず口ずさみたくなるあのテーマは、トランペットの音階の跳躍や、ホルンの存在感が特徴的。 スネアドラムのロールもたいへん印象的で、背面のスナッピーの震えが再生音からイメージできそうなリアリティだ。 素晴らしいオーケストレーションによって、主人公インディが危機を脱出する起死回生シーンの数々が脳裏に浮かび上がってくる。 聴いた後には活力をもらえたような不思議な高揚感がある演奏、再生音なのだ。
ちなみに本公演は、ここで紹介したLPの他にCDやSACD、Blu-Rayもリリースされているが、それらと本LPを聴き比べても、音がいいにもほどがある!
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Words:Yoshio Obara