日常的にマイクを使う機会が増えてきた。良い音で聴きたいと思うのと同じように、良い音で録りたいと思っても、いざマイクを使おうとなると、たくさんの種類があって、選ぶだけでも途方に暮れてしまう。話すのか、歌うのか、楽器を演奏するのか、使う人のシチュエーションもさまざまだ。
そこで、オーディオテクニカ「アストロスタジオ」のスタジオマネージャーが、マイクの基礎や使用方法、目的に合ったマイク選びを、簡単、簡潔に徹底解説。これでもうマイク選びには迷わない!
(第8回はこちら)
▼第9回
「ボーカルのためのATM98 前編」
音の「被り」を抑える
今回のATM98は、ボーカルマイクですね。
はい、迫力のあるとても頑丈で扱いやすくてノイズの少ない、スタンダードで単一指向性のダイナミックマイクとして、お勧めです。
これまで取り上げたマイクと違い、プロフェッショナル仕様ですが、特徴から教えてください。
特徴としては単一指向性で、サイドからの音の被りを抑えられます。構造は複雑になっていますが、AT2020がサイド、リアを切っていたように、ATM98に関してもサイドを切って、そこに音がうまく入らない構造になっています。なので、より中心に寄って、すごくパワフルに、かつ頑丈に音が出ます。
ということは、どういう録音に向いているのでしょうか?
何に向いてるのかは、音の「被り」の話になってきます。例えば、ギターと後ろにギターアンプがあって、隣にボーカルがいて、コーラスもいて、というセッションがある中で、ボーカルがギターも弾きながらやっているとすると、色々な音がマイクに入ってきます。ボーカルの人は自分の音を聞けなくなるので、「被り」を極限に抑えたいと思っているんです。その時にATM98が一番適したマイクになります。あとは、声が細い女性や、声量を少なめにイントネーションで静かに歌いたいときにも、このマイクがすごく向いてると思います。
ライブの過酷な環境で使えるマイク
ATM98の商品説明では「ライブステージ専用設計」とありますが、ライブ向きなんでしょうか?
そうですね。ライブは過酷なモニター環境、今はイヤモニ(イン・イヤー・モニター)もするんですけど、ライブハウスなどはモニターが狭い空間にいっぱいあります。その環境下ではハウリングマージンを取りきれなかったりします。色々なマイクが増える分、ハウリングを起こしやすいんです。例えば、スピーカー近くにマイクを置かなくてはいけないとか、そういうシチュエーションでも、ATM98は圧倒的にハウリングマージンを確保できるマイクになります。ライブステージというよりは、過酷なモニター環境に向いているという意味ですね。
ATM98は、ライヴ演奏でよく見るし、テレビでもよく見かける馴染みがあるマイクの形ですね。それだけに、ATM98が秀でている点が気になります。
テレビで聞いてるシチュエーションで、キンキンしたりすることがありませんか?
はい。時にあります。
キンキンしたり、耳に付くような感じの音は、高域が伸びていると起こります。スピーカーの特性もあるので一概には言えないですけど、バランスよく中音域に特化して、他のマイクと比較してもキンキンするような音が出てこないというのが、ATM98の特徴ですね。低域はしっかり前に出るし、中域はニュアンスの違いをちゃんと出せるし、かつ高域はシャウトしたり、ガーって歌っても、耳が痛くなりません。
繊細に録音するのとは別のニーズにも応えるマイクですね。
ポップスや色々なジャンルがありますけど、ジャンルごとにマイクは重要になってきます。シャウト系、ラウド系、ハードコア系と言われるジャンルでは、シャウトの表現が大事で、それも音の一部ですよね。それをパワフルにダイナミックに録れるマイクでもあります。