デジタルメディアの進化に伴い、ポッドキャストは誰でも手軽に始められる音声メディアとして注目を集めている。そんな中、2024年4月に原宿・神宮前交差点にオープンした商業施設、東急プラザ原宿「ハラカド」の3Fには、ラジオ局J-WAVEが手がける音声収録専用スタジオ「J-WAVE ARRTSIDE CAST」が誕生した。
プロ仕様の音質を実現しながら、初心者でも簡単に収録できる環境を提供するこのスタジオの中心に採用されたのが、オーディオテクニカのダイナミックマイク『AT2040』だ。なぜこのマイクが採用されたのか、スタジオにはどのようなこだわりが込められているのか。J-WAVEの渡邉岳史さん、室﨑光さん、新井康哲さんに話を聞くとともに、実際に利用するモデル事務所ナンバーエイトの岡根拓哉さんとKAIOさんの声を通じて、ポッドキャスト市場の現状とその魅力、そして現場で活躍する機材の実力に迫る。
ポッドキャストの魅力と可能性──新たな発信拠点の誕生


原宿という街に、J-WAVE がポッドキャスト収録に特化したスタジオをオープンされましたが、まずはその経緯からお伺いできますでしょうか?
渡邉:J-WAVE ARRTSIDE CASTは、「クリエイターズ・プラットフォーム」をコンセプトに掲げる原宿の複合施設「ハラカド」内に誕生しました。J-WAVEは開局以来ずっと新しい音楽やカルチャーを発信し続けてきましたが、デジタルメディアの発展によって、表現のスタイルがどんどん多様化しています。特にポッドキャストは、手軽に始められるうえに熱量の高いリスナーを獲得しやすいメディアとして、大きな可能性を感じていました。そこで、新たに発信を考えているクリエイターの方々が集まるこの場所に拠点をつくり、J-WAVE ARRTSIDE CASTが才能を育むプラットフォームになれば、と思ったのがきっかけです。
音声収録に特化した、一般ユーザー向けのスタジオは珍しいですよね。
渡邉:都内には音響設備の整ったスタジオがたくさんありますが、料金が高かったり、プロ仕様すぎて使いづらかったりと、アマチュアの方が気軽に利用できる場所は少ないんですよね。そこで、J-WAVE ARRTSIDE CASTでは、最新の機材を揃えつつ、操作はシンプルにして、価格もリーズナブルに設定することで、誰もが気軽に発信できる場所を目指しました。J-WAVEが長年培ってきたノウハウを活かしながら、ラジオの枠にとらわれない自由な発想で、新しい才能をサポートしたいという思いもあります。
日本におけるポッドキャスト市場の現状について、どのような印象をお持ちですか?
渡邉:日本のポッドキャスト市場は、海外に比べてまだまだ発展途上だと感じています。だからこそ、まだ開拓されていない領域が多く、さまざまな可能性を秘めているとも思っています。
こういった施設があることで、これからポッドキャスト配信に挑戦したいという人も増えそうですね。ポッドキャストならではの魅力について改めて教えてください。
渡邉:配信者の方に聞くと、「手軽にできるのが良い」という声が特に多いですね。映像コンテンツは準備や編集に大きな労力がかかりますし、YouTubeは頻繁に更新しないと効果が出にくい。しかも数字が見えてしまうので、気を遣うことも多いですよね。その点、ポッドキャストは身だしなみを気にする必要もなく、動画編集のような手間もかかりません。気軽にパーソナルな部分を出せるという点が、今の時代に合っているんだと思います。
企業も個人も、初心者が気軽に始められる配信環境

J-WAVE ARRTSIDE CASTは、どのような方が利用されていますか?
室﨑:比較的若い方が多いですが、個人でポッドキャストを配信している方、企業で情報発信をされている方、YouTuberの方まで、さまざまですね。海外の方もいらっしゃいます。
配信に興味はあるけど、ハードルが高いと感じている方も多いと思います。利用者の中には初心者の方もいらっしゃいますか?
室﨑:はい、たくさんいらっしゃいます。機材の操作方法や編集のサポートも行っているので、ポッドキャストに初めて挑戦する方でも、安心してコンテンツ制作に取り組めます。「機材も何もわからないけど、ここなら何とかなりそう」と来られる方も多く、そういった方こそ、私たちがしっかりサポートしていきたいと考えています。実際に、ここで初めてポッドキャストを制作して配信デビューを果たした方もいれば、企業の方が社内向けの会議を録音し、情報共有に活用するケースもあります。
まったく知識がなくても、手ぶらで来ても大丈夫なのは安心ですね。
室﨑:友達同士でふらっと立ち寄って、飲み屋で話す感覚で1時間くらい話して「めっちゃ楽しかったね、またやろう」と、そこから毎週収録を続けている方もいます。意外とそういうところから面白いものが生まれるかもしれないのが、ポッドキャストの魅力でもあるんですよね。
AT2040で実現するプロフェッショナルな収録

続いて、J-WAVE ARRTSIDE CASTの設備について、コンセプトやこだわりを教えてください。
新井:ポッドキャストスタジオということで、従来のラジオスタジオとは異なる新しい試みを取り入れています。従来はミキサー卓があり、トーク用のスタジオとコントロールルームが分かれているのが一般的でしたが、今回は一つの部屋で完結する構成にしました。ミキサーはPCベースでタッチパネルモニターで操作をするWaves Audio社のSoundGridというシステムを採用しています。
従来のような大きな卓を設置せずに運用できる点は、これまでになかったところですね。
確かに、想像よりコンパクトにまとまっている印象があります。機材のこだわりについても教えていただけますか?
新井:映像設備も充実させていますが、ポッドキャストは耳で聴くメディアなので、やはり音質にはこだわっています。オーディオインターフェイスにはDiGiCo社製プリアンプを搭載したWaves Audioのものを採用。そしてマイクはオーディオテクニカのダイナミックマイクAT2040を導入しています。


デスク上に4台セッティングされていますね。なぜAT2040を選んだのですか?
新井:本社スタジオでは、音質や耐久性が優れているオーディオテクニカの『AE4100』というモデルを使っているのですが、メーカーを統一してJ-WAVEの音のトーンを近づけたいと考え、オーディオテクニカ製品の中でこのスタジオに合う製品を検討しました。
ここがポッドキャスト配信に特化したスタジオということもあり、AT2040はトーク収録において非常に相性が良かったため採用しました。指向特性がハイパーカーディオイドなので、周囲の音を拾いにくく、クリアな音声を収音できます。あとは、やはりビジュアルもポイントですね。このマイク、思わず喋りたくなりませんか?マイクやスピーカー、ヘッドホンなど、常に目に入る機材は見た目も重要だと思っています。AT2040は、塗装やグリルなど、製品としてのデザイン性が非常に高い。「よし、喋ろう」と思わせてくれる、その高揚感も配信においては重要な要素です。それでいて、価格も手頃でコストパフォーマンスに優れている点も魅力ですね。

確かに、AT2040は個人の方でも手が出しやすい価格帯の製品ですよね。自宅での配信にもおすすめできますか?
新井:もちろんです。プロの現場で使えるレベルのものが、この値段で買えちゃっていいんですかって思います(笑)。個人で自宅配信をされる方の中には、スマートフォンのマイクで済ませる方もいらっしゃるかもしれませんが、ぜひマイクにこだわっていただきたいですね。別の部屋の音やパソコンのファンノイズなど、自宅には意外と余計な音が多いんです。ビジュアル面でコンデンサーマイクを選びたい方もいるかもしれませんが、配信においては不要な音を拾わないという点で、ダイナミックマイクのAT2040に優位性があると思います。マイクは種類も価格も様々ですが、高価なものを選べば良いというわけではなく、ご自身のスタイルに合わせて選ぶことが大切です。
スタジオを利用した方から、マイクについて何か反響はありましたか?
新井:ここで収録した音を聴いてもらうと、「J-WAVEっぽい音がする」と言われることが多いですね。特に初めて利用される方は、「自分の声がこんなにクリアに聞こえるんだ」と驚かれます。もちろん、録音後にノイズ除去や音量調整などの細かい処理は行いますが、肝心の音声入力となるマイクが本社と同じオーディオテクニカ製品であるため、皆さんが普段聴いているJ-WAVEのサウンドに近いと感じていただけるんだと思います。
J-WAVE ARRTSIDE CASTがクリエイターとともに創る“面白い”未来

最後に、J-WAVE ARRTSIDE CASTは、今後どのような展開を考えていますか?
渡邉:渋谷の新たなカルチャーの発信拠点として、まだまだ面白いことができると考えています。現在は、近隣施設との連携による音楽をテーマにした企画や、収録映像の外部配信など、様々な取り組みを検討しています。路面店ではなくビルの3階にスタジオを構えたのも、既存のサテライトスタジオとは異なる価値を提供したいという思いからです。生放送はもちろん、生放送では実現できない、より面白い企画を創造できる場所として、利用者の方々と共に、このスタジオの新たな可能性を切り拓いていきたいですね。

普段聴くラジオと同じクオリティで配信できる!スタジオ利用企業にインタビュー
モデル事務所ナンバーエイトが、個性豊かなモデルたちの魅力を最大限に引き出すため、J-WAVE ARRTSIDE CASTで毎週配信を行っている。企業として配信を始めたきっかけや、スタジオならではの音のクオリティについて、パーソナリティを務めるお二人に利用者としての率直な声を伺った。


まずは、番組を始めたきっかけからお聞かせいただけますか?
岡根:元々、事務所に所属しているモデルたちは個性的な子が多いんです。でも、普段話す機会ってあまりない。モデルの仕事だけでは、どうしてもビジュアル以外の魅力を発信する機会が少ないと感じていました。それなら、ポッドキャストを使ってラジオ感覚で自由に話してもらう場を作ろうと思ったんです。
KAIO:僕自身、ラジオが好きでよく聴いていたこともきっかけの一つですね。芸人さんのラジオって、テレビでは聞けないような裏話とか、面白い話がたくさんあるじゃないですか。モデルの個性豊かな一面を配信で引き出せたら、面白いコンテンツになるのではないかと考えました。
どんな内容の番組なんですか?
岡根:「ナンバーエイトのスケジュールお預かりします」という番組で、毎回、事務所に所属しているモデルをゲストに呼んで、私たちがMCを務め、ゲストのモデルたちが自由にトークを繰り広げる番組です。モデルになったきっかけや、普段話せないようなことを話してもらう場ですね。
番組を始めてから、何か変化はありましたか?
KAIO:社内での評判がすごく良くて、ちゃんとモデルたちの自己表現の場になっていると感じています。番組出演をきっかけに、オーディションで自信を持って自己アピールできるようになったという声も聞くようになり、手応えを感じています。
J-WAVE ARRTSIDE CASTでの収録について、率直な感想をお聞かせください。
KAIO:初めて収録した音を聴いたときは、本当にびっくりしました。こんなに良い音で録れるのかと。
岡根:正直なところ、音を録るだけなら自宅でもスマホやレコーダーを使って簡単にできると思っていましたが、実際にJ-WAVE ARRTSIDE CASTで収録した音を聴いたらめちゃくちゃ良くて。このマイク、すごいなと感激しました。
KAIO:普段聴いているラジオ番組と遜色のないクオリティで、自分たちがトークしていることに感動しましたね。
岡根:音の良さがモチベーションを上げてくれますよね。このマイクのおかげでここまで続けられていると言っても過言ではないです(笑)。

AT2040について、具体的にどのようなところが他と違うと感じましたか?
KAIO:このマイクは余計な雑音を拾わず、狙ったところの音をしっかり捉えてくれるので、配信にすごく向いていると思います。
岡根:確かに、ちょっとマイクと違う方向を向いて話すと、音が変わる感じがしますね。
KAIO:そうなんですよ。音を拾う範囲がしっかり決まってるので、余計な音を入れたくない人には特におすすめですね。僕もゲストと話すときは、マイクを正面に置いて、ちゃんとその方向を向いて喋るように意識しています。
岡根:まさに配信する人にとって最適なマイクですね。
KAIO:周りで配信をやっている人たちは、10万円近い高価なマイクを使ってる人が多いんですよ。それで配信向けのマイクは価格が高いっていうイメージが強かったんです。AT2040を使ってみて、マイク選びは価格ではないんだということを実感しました。

最後に、今後の展望についてお聞かせください。
岡根:まずは、今年の6月で番組開始から1年を迎えるので、そこまでは確実に続けたいと思っています。その後は、僕はもう降板だという話も出ているので…
KAIO:それは岡根さんが勝手に言っているだけです(笑)! まずは、1周年を目標に、引き続き聴いてくださる皆さんに楽しんでいただけるよう頑張っていきたいと思います。
ありがとうございました。今後の番組の展開を楽しみにしています!
Words:Tom Tanaka
Photos:Hinano Kimoto
Cooperation:Enban Sukiko