オーディオ機器と設置面の間に入れる「インシュレーター」、使っていますか? インシュレーターには不要な振動を抑えたり、機器そのものを支えたりする役割があり、硬貨のような身近なものでも音の違いやその効果を実感できます。オーディオライターの炭山アキラさんが紹介するポイントを参考に、スピーカーの音質を飛躍的に高めてみませんか?
音質を変える鍵は「接点」にあり
スピーカーで音楽を楽しんでいらっしゃるそこのあなた、ひょっとしてスピーカースタンドやサイドボードの上なんかへ、直接スピーカーを設置していませんか?
もちろん、そのままでも普通に音は出ますし、支障がないといえばその通りです。しかし、そこに一工夫加えることで、音楽の聴こえ方がグッと良くなるとしたら、どうです、やってみたくなりませんか。
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具体的には、インシュレーターを使うのです。インシュレーターって一体何だ、というと、詳しい歴史から話し始めると長くなりますが、手短にいうなら、オーディオ機器とラック、スピーカーとスタンドや置台との間へ挟み、振動の伝わりを遮ったり、機器をよりしっかり支えたりするための、一種の “脚” です。
スピーカーシステムに用いるインシュレーターには、面で支えるタイプと、スパイクと呼ばれる下側へ向かって鋭い先端を持つタイプがあります。まず、面で支えるタイプから話していきましょうか。
硬貨でも効果を期待できる、面で支えるインシュレーター
このタイプのインシュレーターは、メーカー製品も数え切れないほど売られていますが、その効果を試す最も簡単な実験として、硬貨を使ってみるのがよいでしょう。1円玉、5円玉、10円玉など、同じ硬貨を6~8枚用意して、スピーカーとスタンドの間に挟んでみるのです。
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1本のスピーカーに3個挟む、いわゆる3点支持は原理的にガタつきが起こらないのが利点ですが、四隅を支えるよりどうしても不安定になります。ですから本来は4点支持をお薦めしたいところですが、こちらはこちらでガタ取りをしっかりしないと、1個の脚が浮いた極めて不安定な3点支持となり、ビリつきをはじめとする音質劣化の原因となるので、注意が必要です。
サイドボードなどの上へスピーカーを置いている人は、この実験を始める前に、その台が丈夫なものかを確認して下さい。拳で軽く叩いてみてポコポコ鳴るようなら論外、ある程度の強度がありそうでも、コツコツではなくボンボンと響きが後を引くようなら、丈夫な板を1枚スピーカーとの間に敷いてやるとよいでしょう。
さて、それではスピーカーと置台の間に硬貨を挟んでみましょう。最初はスピーカーの隅を支える位置に挟んでみて下さい。どうでしょう、音楽が軽々とあなたの方まで飛んでくるようになりませんか。
それでは、硬貨をスピーカーの奥の方、底板へ大きくかかるくらいのところへ挟んでみて下さい。最初の実験より、音が前へ飛んでこないようにならないですか。インシュレーターを挟む前と隅に挟んだ時の、ちょうど中間的な音の出方に感じられる人もおいででしょう。
それぞれの音質そのものがいい悪いということは、好みもありますから断言しませんが、私個人はスピーカーを隅で支えた状態が、最もスピーカーの実力を出し切っているのではないかと感じています。
これは一体どうして起こる現象なのか。体験的な印象ですが、スピーカーの底板へピッタリとスタンドや置台の面が密着すると、他の面と比べて底板が振動しにくくなり、キャビネットの振動モードがおかしくなって、スピーカーの鳴り方が変わってしまうのではないか、ということがまず挙げられます。
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キャビネットは振動しない方がいいんじゃないの?とお思いの人もおられるでしょう。それはある面では正解なのですが、どんなに頑丈に作ってもキャビネットは振動するもので、その振動はできるだけ妨げず自然にしてやった方が、スピーカー全体の鳴りっぷりが向上するということがあるのだろうと、私は考えています。
もう一つ、これはスタンドや置台が重く頑丈なものである場合に起こりやすい現象ですが、スピーカーと置台が密着していると、置台の方にスピーカーのエネルギーが大きく吸収され、肝心の再生音が寂しく物足りないものになってしまう、ということがあります。頑丈な置台は、本来スピーカーを支えるのに適したものということができますから、しっかりとインシュレーターでその悪影響を抑え、好ましい部分だけを生かせるように工夫したいものです。
こういう実験を行っていると、硬貨の種類によって、再生音が大きく違うことに気付きます。これは簡単に実験できることですから、私が実験した時の音の印象を述べることは控えることにします。また、さらに実験精神旺盛な人の中には、種類の違う硬貨2枚を両面テープで張り付けて、音質チューニングすることで好結果を得ている人もおいでです。皆さんもいろいろ試して、お気に入りの硬貨を見つけて下さいね。
この硬貨による音質の違いと同種のものと、それらに特有のキャラクターを伸ばしたり抑えたりすることで、世の中に膨大な数ある商品としてのインシュレーターの大半が成り立っています。高価な商品の中には、内部に異種素材を仕込んで音質を高めているものもいろいろとありますが、スピーカー用インシュレーターの “基本” はここにある、といってよいでしょう。
鮮度と精度を引き出す、点で支えるスパイクタイプのインシュレーター
一方、いわゆるスパイク・タイプのインシュレーターは、キャビネットの不要な振動を速やかに置台へ逃がすことで、余分な付帯音をなくして再生音の鮮度と精度、スピード感を向上させるものと考えられます。スパイクは面で支えるタイプよりさらにガタつきを嫌いますから、3点支持で用いられることが多いようですね。
スパイクはその先端を支えるための「スパイク受け」と呼ばれるパーツと、必ず一緒に用いなければなりません。受けを使わずにセットすると、その鋭い先端が置台に深い傷を負わせてしまいますし、音質も何やら腰の定まらない、低域不足、情報量不足の再現になりがちです。
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スパイクの先端は点に近いものですから、たとえかなりしっかりした素材でもその点を支え切れず、面で支えるインシュレーターをフカフカの台の上へ置いたのと、相対的には同じようなことになり、それで足元のしっかりしない音になるのではないか。これは私の仮説ですが、そう間違ってはいないと考えています。
もっとも、スパイクの形状にはかなりバリエーションもあって、先端がケガをしそうなくらい尖ったものと、それほどでもなく僅かに丸められているものがあります。どれくらい丸められているかといえば、半径1mmに満たない球形から、半径数十cmはありそうな球のごく一部を切り取ったような形状まであります。後者のことを、俗に「ソフトスパイク」と呼んだりします。ここまで丸い先端だと、普通に置台の面で受けても傷はつかないし、これまで実験した限りでは、音質的にも問題ないようです。
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スパイクは、斜面の角度や材質も大きな音質の違いを生みます。先端は鋭く、角度は急峻で、材質は一般に硬い方がスパイク本来の持ち味に近づきますが、そこで先端の鋭さをどうするか、斜面角度はどれくらいにするか、素材に何を採用するかが、メーカーのエンジニアが腕を振るう場所といってよいでしょう。
面で受けるインシュレーターはできるだけキャビネットの隅を支えてやりたいと述べましたが、面白いことにスパイクは、キャビネットを底板で支えても大きな音質的支障をきたすことがありません。あまり内側を支えると不安定になりますから注意が必要ですが、あまりギリギリの隅を狙うのも、ちょっとした地震などがあってスパイクが受けから外れたら、周辺に大きな傷をつけてしまいかねませんから、一番安定するポイントを探して、設置してあげるのが正解でしょう。
インシュレーターは、適切な使い方をすれば、あなたのスピーカーを大きく飛躍させてくれます。まだお使いになっていない人は、まず硬貨の実験から始められてみてはいかがでしょう。
Words:Akira Sumiyama
Edit: Kosuke Kusano