スピーカーは置き方ひとつで、音楽の聴こえ方が変わります。でも、部屋によってリスニング環境はまちまち。どう置いたらよいのか一概に言えません。そこで、オーディオライターの炭山アキラさんに、ご家庭でも簡単に実践できるスピーカーセッティングのコツを教えてもらいました。あなたの空間にぴったりのセッティング方法を見つけてみませんか。

スピーカー設置の基本は、丈夫なベース作りから

スピーカーのセッティングについては詳しく書き始めると本が1冊書けるくらいの量になってしまうので、サラッと読んでもらえる範囲で解説していきましょう。

スピーカーを置くに当たって、最も理想的な台は「地球」です。私たちが触れられるものの中で、最も質量が大きく、安定した物体ですからね。実際に、それとできるだけ近づけるため、リスニングルームの床を大地からコンクリート打ちにしている人も結構おられるくらいです。

普通のご家庭で、ましてマンションなどでオーディオを楽しんでいらっしゃる人には、もちろんこれをそのままお薦めするわけにはいきません。こういう場合はどうすればよいのか。それにはまず、スピーカーを置くための丈夫なベースを作るところから、始めたいところです。

特にマンションでは階下へ足音などが響かないよう、構造材から床が浮かされていることが多いものですが、そういう場合は、その床の上へ板を敷いてしまうのがよいと考えます。むき出しのベニヤ板を置いてしまうのは、外観上大いに問題でしょうし、フローリング材を1枚ずつバラ売りしているホームセンターがありますから、必要な枚数だけ購入してお使いになるのがよいのではないかと思います。

フローリング材を1枚ずつバラ売りしているホームセンターがありますから、必要な枚数だけ購入してお使いになるのがよいのではないか

ちなみに私は、11mm厚のOSBと呼ばれる目の粗いチップボードを2枚重ねにし、その上から無垢のフローリング材を、奥から手前に向かって木目が通るように敷き詰め、そこへスピーカーとオーディオラックを置いています。無垢の床材を使うなら、木目の方向に音が飛びやすい、という話を聞いたので試してみたのですが、なかなかいい感じです。

一方、一般的なフローリング材は、薄い板を90度ずつ木目をずらして交互に張り合わせた、いわゆるベニヤ板に表面仕上げしたものですから、音が飛ぶ方向性はあまりないのではないかと推測しています。

普通のフローリング材は12mm厚ですから、強度的には十分といいかねるものがあります。下にベニヤやMDFなどの板材を重ねるのは、有効な補強策でしょう。

フローリング材を1枚ずつバラ売りしているホームセンターがありますから、必要な枚数だけ購入してお使いになるのがよいのではないか

もちろん、オーディオアクセサリー・メーカーが発売しているオーディオボードなどを用いれば、より高い効果が得られることは保証できますが、そこへ至る道のりの第一歩としては、前述の対策は悪くないと思うのです。

床の養生が上手くいったら、いよいよスピーカーをどう置くかにかかりましょう。現在主流となっているブックシェルフ型のスピーカーは、そんな置き方をしている人がそう多いとは考えられませんが、くれぐれも床に直置きしてはいけません。ああいうスピーカーは、ある程度周囲に空間を確保した状態で、上手く鳴るように設計されているのです。

そんなスピーカーを床へベタ置きしたり、背後や左右の壁ギリギリにセットしたりしたら、どんなことになってしまうのか。広い空間の真ん中でスピーカーを鳴らしたときと比べて、床へベタ置きしたら空間は半分になってしまいます。さらに背後の壁へくっつけたら1/4、横の壁にも密着させると1/8の空間しか残されていないことになります。

そうなったら、特に低音は本来全周囲に広がるはずなのに壁に遮られ、ブヨブヨと膨らみ濁った、不自然極まりない再生音になってしまいます。

スピーカーの高さや壁との距離で音質はどう変わる?

そういう場合にはどうすればよいかといえば、まず床から持ち上げるためにスピーカースタンドを導入しましょう。これは床からの距離を取って低域の余分な膨らみを軽減すると同時に、スピーカーユニットが耳の高さへ近づいて、よりユニットの好ましい特性が耳へ届くようになる、という利点もあります。

スピーカーの高さや壁との距離で音質はどう変わる?

よく「スピーカーは、2ウェイならウーファーとトゥイーターの、3ウェイならスコーカーとトゥイーターの中間点を、耳に高さへ合わせるのが良い」といわれますが、実際にその高さまでスピーカーを上げてしまうと、人によってはスピーカーの位置が高すぎて圧迫感を覚える人もおいででしょう。個人的には、スピーカーの天板が僅かに見えるくらいの高さでも、構わないと考えています。

スピーカーをスタンドで床から上げると、かなりスッキリした音になることが分かると思います。しかし、背後や左右の壁へ近接していたら、やはり空間が足りず低音は膨らんでしまいますし、これは床も同じことですが、中〜高音も余分な反射が増えて音が濁り、何だかとても嫌な音で音楽が再生されてしまいます。

皆さんも、一度部屋の隅っこギリギリに立ちながら、喋ってみて下さい。自分の声がどれほど不自然に聴こえるか、驚かれると思いますよ。スピーカーだって同じこと、壁は近づけば近づくほど、影響が大きくなるのです。

部屋の隅っこギリギリに立ちながら、喋ってみて下さい。自分の声がどれほど不自然に聴こえるか、驚かれると思います

先程も解説した通り、壁にかけて使うことを想定しているような製品を除いて、大部分のスピーカーは開放空間で上手く鳴るように設計されています。しかし、本当に広大な空間へポツンと置いたスピーカーが帯域バランス良く鳴るかというと、実のところそうでもありません。特に小型スピーカーは大半の場合、低音不足になってしまうことが多いものです。

それは皆さんのお部屋でも同じことで、お使いのスピーカーへ低域の量感をもっと増やしたいなと思われたら、ある程度はセッティングで補うことが可能です。何のことはない、これまで解説した逆を行えばよいのです。壁に近づければ、低音の量感は増えますからね。

スピーカーを壁から離すほど、音はクリアになり解像度も高くなりますが、低音の量感は減っていきます。ですから、再生音の向上と低域の量感がちょうど程良い中間点となるセッティング場所を探し出すことができれば、そこはおそらくあなたのスピーカーにとって安住の地となることでしょう。

再生音が不自然にならない範囲で壁に近づけても、低音不足が治らないということなら、アンプのトーンコントロールで、低音を適度に持ち上げてやるのもよいでしょう。

“持たざる者”でも工夫次第でスピーカー本来の音を引き出せる

スピーカーのセッティングでは、さらに上級者メニューとして、左右それぞれスピーカーと壁との距離をぴったり同じにして、部屋の鏡面対称にスピーカーを設置するという項目がありますが、これは専用のリスニングルームをお持ちの人以外には、なかなか実現の難しい対策でしょうね。

いや、他人事みたいにいっている私だって、リビングルーム兼用のリスニングルームがL字型の変形で、どうやっても左右対称のスピーカー・セッティングなんてできるわけないんですけどね。私たち “持たざる者” は、与えられた条件の中で最善を尽くしましょう。

例えば、床からスタンドを介して置くことが叶わず、サイドボードの上にスピーカーを置いているとしましょうか。そういう場合、サイドボードの天板がペコペコと強度の足りない材質だったり、フカフカと柔らかいものだったりすると、スピーカーの実力を発揮することはできません。

そんな時は、サイドボードとスピーカーの間に丈夫な板を敷いてやると、スピーカーはずっと安定し、音質は大幅に向上することでしょう。また、スピーカーは見た目の安定を損なわない範囲で、できるだけサイドボードの前縁へ近づけてセットするのがよいでしょう。そうしてやれば、スピーカーの音がサイドボードの天板に反射して、音を濁す可能性が低くなりますからね。

サイドボードとスピーカーの間に丈夫な板を敷いてやると、スピーカーはずっと安定し、音質は大幅に向上する

ブックシェルフ型ならスタンドやボードの上に、フロア型なら床へ直接、設置する際には何らかのインシュレーターを使いたいところです。というか、少数の例外を除き、必須条件といってしまってもいいでしょう。

しかし、インシュレーターには膨大な種類がありますし、用途と効き目の違う方式もいろいろとありますから、ここですべてを述べるのは不可能です。そんな次第ですから、本稿ではごく簡単な入門編を解説しましょう。まず、ブックシェルフ型ならスタンドと底板の間に、硬貨で構いませんから前2点、後ろ1点の3点支持で挟んでみて下さい。この時、できるだけ隅を支えることがコツになります。

この対策を行うと、スタンドにベタ置きするのに比べ、音に開放感が増し、伸びのび、楽々と音が出てくるような感じになりませんか。これは、底板を伝わってスピーカーのエネルギーがスタンドへ逃げ、音が痩せてしまうと同時に、キャビネットの底板がスタンドに圧迫され、自由に振動できなくなってしまうのを解放したため、と考えられます。

オーディオテクニカのスピーカー『AT-SP3X』をはじめ、一部のスピーカーにはあらかじめ脚が備わっていることがあります。本文で解説した、硬貨による簡易インシュレーターの効果を、既に獲得しているということです。
オーディオテクニカのスピーカー『AT-SP3X』をはじめ、一部のスピーカーにはあらかじめ脚が備わっていることがあります。本文で解説した、硬貨による簡易インシュレーターの効果を、既に獲得しているということです。

フロア型に関していうと、底板にハカマが装着されているタイプは、インシュレーターを挿入しても、ブックシェルフ型ほど大きく音は変わらないことが多いものです。

一方、フロア型には脚が装着されていて、その先端がスパイクになっている製品が少なくありません。スパイクは、適切な受けを使わないと、何より床に回復不能の傷を付けてしまうので要注意ですが、音質的にも適切な受けを用いなければ、低域がスパッとなくなってしまったり、支えの足りない弱々しい音になったりしてしまいがちです。

少なくとも、標準でスパイク受けが付属している製品なら必ずそれを使い、中古購入などで受けが入っていなかったら、できるだけ頑丈な受けで支えてあげて下さい。そうすれば、あなたのスピーカーは本来の性能を取り戻してくれることでしょう。

AT6902ST

スパイクベースインシュレーター

AT6902ST

製品の詳細を見る

もっとも、華奢なスピーカーとスパイクに、100kg以上の耐荷重がある受けを使ったりすると、その豪壮な受けにエネルギーを吸われ、スピーカーの音が痩せてしまうこともありますから、何事も程々が大切なものではありますがね。

冒頭に申し上げた通り、スピーカー・セッティングというのは挙げればいくらでも項目の出てくるものですが、とりあえずここまでしっかり詰めておけば、ほとんどのスピーカーでそこそこ以上の音が発揮できていることでしょう。あなたの健闘を祈ります。

Words:Akira Sumiyama
Edit: Kosuke Kusano

SNS SHARE