これまでオーディオケーブル自体に目を向けてきました。最後にお届けするのは、オーディオケーブルの端子についてです。ケーブルの効果を最大限に引き出すには高い導通を実現する、高精度な端子が必要になります。オーディオライターの炭山アキラさんにRCA端子の「コレットチャック」方式やスピーカーケーブルの「バナナプラグ」や「Yラグ」、電源ケーブルの「IECインレット」や「メガネ型」など、音質にかかわるポイントと合わせて紹介いただきました。

RCA端子の導通を高める工夫から生まれた「コレットチャック」方式

プレーヤーとアンプなどの間をつなぐインターコネクト・ケーブルで、最も一般的なものはRCAタイプです。オーディオ業界ではこう呼ばれますが、一般的にはこの形式のケーブル全体をピンケーブル、あるいはピンコード、両端のプラグのことをピンプラグともいいますね。

以前解説した通り、RCAタイプのプラグは1芯の同軸線と相似形で、中心部の信号が通るホット端子と、周縁部のアース端子で構成されています。ごく簡易な構造ながらノイズの飛び込みを抑え、低コストに量産できることから、デファクトスタンダードになったものと推測されます。

「ケーブルで音が変わる」といわれ始める前から広く使われていたRCAケーブルは、いざ音の違いが注目される時代になると、プラグ部にさまざまな問題を抱えていることが分かりました。

まず当時の、というか現在でも廉価な一般的RCAケーブルのプラグは、簡易なプレス構造で中心/周縁とも導体が構成されています。それゆえ廉価に作ることがかなっているともいえるのですが、特に周縁の花びら型導体は、抜き差しを繰り返すと徐々に花びらが開いていき、導通が悪くなっていきます。

さらに悪いことは、それでもプレス導体の持つバネ性で、何とか音が出る状態を保ちやすいことです。音楽が途切れないという意味では優れた方式といえるかもしれませんが、そんな不安定な状態で良い音が出るはずはありません。具体的には、スピーカーからの振動がごく微弱にでも伝わると、その僅かな導通の面積が振動で刻一刻と変わり、音をおかしくしてしまうのです。

それでRCAプラグは、導通を改善するためにいろいろな工夫が凝らされてきました。それが結果的に高音質化をもたらした、という側面も大きなものがありますし、高音質を目指して考案された方式もあります。

最も早くから試行錯誤されたのは、プラグ電極の高品位化です。具体的には、真鍮を削り出して製作したり、一般的なニッケルメッキを金などの貴金属メッキにしたり、という方策を挙げることができます。

RCAプラグを削り出しで製作すると、精度を極めて高く取っていなければ、プレスの電極よりもむしろ導通が悪くなったり、あるいは刺さらなかったり、刺さっても強い力を要した結果機器のジャックを傷めてしまったり、ということになりかねません。いや、実は40年くらい前のプラグでは、そう珍しくない事態だったのです。

そんな精度の問題を解決する手段として、高級RCAプラグに多く用いられるようになったのが、「コレットチャック」と呼ばれる方式です。スリーブの部分がネジで回るようになっていて、回転させることで万力の要領でプラグのアース側端子が締まり、ガッチリすき間なく固定されるというものです。

RCA端子の導通を高める工夫から生まれた「コレットチャック」方式

とはいえ、これもプラグのメーカーによって結構精度にバラつきがあり、特に普及し始めた20世紀終わり頃には、せっかくコレットチャックなのに、スリーブのネジ精度が悪くてしっかり締まらない、あるいは精度が悪くてスリーブをどんなに締め込んでも全然アース側端子が締まらない、などというプラグも散見されましたが、今はほとんどそういう商品は見られなくなりました。

思えば、あの頃に比べてオーディオケーブルは本当に進歩したものだなと、感慨深いものがあります。例えば廉価なRCAケーブルでも、見た目はいかにも頼りないプラグが意外なほどきちんと精度を詰めてあって、先に説明した通り導体や構造の知見も積み重なっていますから、本当にしっかりした音を奏でてくれる製品が多くなったものです。

スピーカーケーブルの端子は「バナナプラグ」より「Yラグ」が導通で有利

XLRケーブルのプラグは、「キャノンプラグ」という愛称の元となったITTキャノン社の製品と、XLRに限らず業務用プラグ・コネクター類の圧倒的大手ノイトリック社製のものが2大巨頭というイメージです。

そんな中、ごく限られたメーカーの輝けるハイエンドXLRケーブルに、オリジナルの高精度プラグが採用されています。市販プラグで世界の “超高級” へ採用されるプラグには、台湾フルテック社の製品があります。

スピーカーケーブルは、ほんの10〜20年前まで先端の芯線をそのままアンプやスピーカーの端子へ取り付けていましたが、現在はすっかり両端に端子を取り付けた「完成品」ケーブルが増えました。もちろん、まだまだ切り売りケーブルもたくさん売っていますけどね。

オーディオテクニカには、切り売りと完成品のスピーカーケーブルが両方存在しています。完成品は同じ長さで考えると桁違いの価格になりますが、それだけコストがかかり複雑な構造の、言い換えれば切り売りにはあまり適さないケーブル部に、とても上質な端子を1品ずつ取り付けているのだから、どうしてもコストがかかってしまうのです。

スピーカーケーブルの両端には、多くが「バナナプラグ」あるいは「Yラグ」と呼ばれる端子が取り付けられます。前者バナナプラグはスピーカー端子の中心部にある穴へ押し込むだけで接続完了なので非常に手軽に扱える端子である一方、Yラグは端子へネジ留めしなければならないので一手間加わりますが、導通がしっかりしているのはYラグの方といってよいでしょうね。

細長いのがバナナプラグ、手前がYラグ
細長いのがバナナプラグ、手前がYラグ

もっとも、昨今の高級ケーブルに装着されているバナナプラグは、真鍮削り出しに上質の貴金属メッキが施されたものが大半で、グラグラしたり導通に問題があったりするようなものは、ほとんど存在しないといっていいでしょう。

バナナプラグといえば、ちょっと前まで板バネを数枚合わせて細長いマユ型にした通称「樽型」、円筒の芯から細い板バネをグルリと取り付けて外側へ丸く膨らませた「提灯型」が主力でしたが、もうだいぶ前から完成品の高級ケーブルには、銅合金削り出しのバナナプラグがごく普通に使われていますし、プラグ本体に装着されたネジを締めることにより、バナナの先端が開いてよりガッチリと固定されるものも、ハイエンド製品には採用されていることがあります。

また、自作する際に用いるパーツとしてのバナナプラグも、樽型や提灯型に加え、「クレープ型」と通称される、薄い銅合金の板をくるりと丸めた形状のものが、新興勢力として製品数を増やしています。

電源ケーブルの端子にも「IECインレット」や「メガネ型」がある

電源ケーブルは、20〜30年くらい前まで機器から直出しされたものが圧倒的多数でしたが、昨今は普及クラス・コンポーネンツ以外で直出しを見かけることは、めっきり少なくなりました。いわゆるピュアオーディオ機器なら、3ピンのIECインレット端子が装着されていることが多く、普及クラスのオーディオビジュアル機器などには、メガネタイプと通称される2ピン端子が用いられることが多いようです。

IECインレット・タイプは、ホット/コールド/アースの3ピンが装備されているので、コンセント側のプラグも3ピンとして、もちろんケーブルも3芯のものを使うのが一般的ですが、中にはコンセント側を2ピン・プラグとして、ケーブルも2芯タイプを用いたものがあります。まだまだご家庭のコンセントは2ピンが圧倒的に多いから、という配慮でしょうね。オーディオテクニカでは、FLUATシリーズのAT-AC500がそのタイプです。

AT-AC500

パワーケーブル

AT-AC500

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機器側のIECジャックも、中心のアース・ピンを省略した2ピン構成のものがあります。自宅リファレンスのディスクプレーヤーがそれで、知らずに購入し、気づいた時は驚きました。

一昔前まで、「メガネ型」の電源ケーブルはあまり音質的にこだわった製品は多くありませんでしたが、近年になって結構な製品が登場してくるようになりました。ただし、メガネ型は電源極性を合わせづらいので、注意して下さい。

メガネケーブルの例
メガネケーブルの例

もっとも、メガネ型が採用されているコンポーネントの大半は内部の電源がスイッチング方式で、その多くは電源極性へ神経質にならなくてもよい、という説もあります。してみると、ケーブルそのものの交換による音質変化の方が大きいのかもしれませんね。

インコネでもスピーカーでも電源でも、オーディオ用プラグの電極はその大半に貴金属のメッキが施されています。多くは金メッキですが、上級製品にはロジウムという金属のメッキが多くなるようです。それぞれに音質の傾向があり、分厚く輝かしい金メッキと、クールで伸びやかなロジウムという印象です。

電源プラグには、より高度なパラジウムやルテニウムといったメッキの製品もありますが、希少金属だけにかなり高価となってしまうことは避けられません。それぞれに音質は飛び抜けた特徴がありますから、その音質へ共鳴した人はコストをかけるに値するでしょう。

また、電源プラグに限り、「無メッキ」という製品もあります。非常に素直な鳴りっぷりで、私も好きな導体なのですが、残念ながらというか当然のことにというか、無メッキの銅合金は容易く錆びますから、マメな手入れが必要になります。

どのジャンルでも普及クラスのプラグには、ニッケルメッキが施されていることが多いものです。電気的には決して褒められた特性ではない素材なのですが、これが意外と素直な音だと評価する向きがあり、好んで使っているメーカーもあるから、面白いものです。

Words:Akira Sumiyama
Edit: Kosuke Kusano

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