2芯ケーブルと4芯ケーブルにはそれぞれ特長があり、用途や設計次第で性能が大きく変わります。2芯ケーブルはシンプルで振動に強く、コストパフォーマンスに優れる一方、4芯ケーブルは接続方法によって振動抑制やシールド性能を高められます。この違いについて、オーディオライターの炭山アキラさんが2芯と4芯のキャブタイヤケーブルで試した実体験を交えて語ってくれました。

「キャブタイヤケーブル」の体験談で制振性の重要さを知る

前回のコラムで「スピーカーケーブルは、2芯と4芯のケーブルが圧倒的多数」であること、「4芯ケーブルで芯線が撚り合わされたスターカッド接続だと、編組で覆わなくても一定のシールド効果が得られ、外部ノイズに強い」ことを紹介しました。それでは、2芯のケーブルは4芯よりもコストが低いだけで劣っているものなのかというと、そんなことはありません。2芯ケーブルでも撚り合わせることで軽いシールド効果が生じますし、構造がシンプルな分、同じ素材を使うなら振動には強くなる傾向があるのです。

貧乏なマニアだった青少年の頃の私は、亡くなられたオーディオ評論家の長岡鉄男さんが推奨されていた電力線の「キャブタイヤケーブル」をスピーカーケーブルとして使い、さまざまな実験を繰り返していました。このケーブルは1メートルあたり高くても数百円で買えたので、実験好きの若者には本当にありがたかったものです。

その頃、こちらも亡くなられた実験派オーディオ評論家の大御所・江川三郎さんが「スターカッド接続」の優位性について述べられていて、私もそれに共鳴し、結構長く2スケア4芯のVCTFキャブタイヤを、スターカッド接続にして使っていました。

「キャブタイヤケーブル」の体験談で制振性の重要さを知る

しかし、長岡さんはご自分の装置でずっと2芯のVCTキャブタイヤをお使いだったので、こっちも使ってみようと3.5スケア2芯のVCTケーブルを買ってきて、スピーカーにつなぎました。

芯線の断面積では2スケア4芯の方が上ですから、当初の予測ではそちらへ軍配が挙がるだろうと考えていましたが、3.5スケア2芯のケーブルをつないだ時の音の変化には、思わず言葉を失ったものです。

まず、圧倒的に音楽がどっしりと安定し、音の見晴らしがスッと広がって、品位が数段上がった感じです。高級ケーブルをいろいろ使っている現在から振り返れば、それはまだまだ初歩的な音の違いを聴いているに過ぎなかったわけですが、それで2芯ケーブルの優位性をうっかり確信してしまった私は、以来ずいぶん長く2芯ケーブルを使い続けることになります。

今から思えば、あの時の音の違いは、2芯と4芯という要素以外も大きかったものです。まず、私が最初に使っていた4芯ケーブルはVCTFという規格のもので、3.5スケアの2芯ケーブルは、長岡さんがお使いになっていたものと同じVCT規格のものでした。

2芯と4芯という要素以外も大きい

この両者、どちらも絶縁体の外側へ直接シースがかかり、その両方がPVCという非常にシンプルな構造なのですが、シースの太さが全然違い、VCTFは300V、VCTは600V(ともに交流)という耐圧が定められています。VCTの方がずっとヘビーデューティな仕様なのですね。

ということはつまり、シースによる制振の効果は圧倒的にVCTの方が上ということになります。加えて、VCTFは4芯を使っていたのだから、さらにシースの制振効果は相対的に減ずることとなってしまいます。江川さんによると、スターカッドはプラス/マイナスの対角接続により、力学的にも振動を打ち消し合うということでしたが、やはり介在やシースによる制振も大切だ、ということが分かります。

それでは、若者の頃の私が一旦捨ててしまった4芯スターカッド線は、本当に2芯よりも音が悪かったのかといえば、全然そんなことはありません。私が実験の条件をそろえられなかったことが、音に差が出た最大の原因です。

具体的には、4芯にするなら相応の制振効果を有するシースを用意せねば、2芯との公平な比較はできなかったのに、よりにもよって私はその時、4芯の方にシースの薄いVCTFを使っていたのですから、そんなものハンデがあるのは当たり前です。せめて2スケア4芯のVCTケーブルを買い、それで比較すべきだったと反省しています。

その点、ちゃんとしたオーディオメーカー、あるいはアクセサリーメーカー製のケーブルは、そういうところに遺漏のあるわけはありません。2芯でも4芯でも、平行線でも撚り合わせ線でも、そこは安心して購入なさってよいでしょう。

3芯ケーブルの対称性は?

オーディオ業界の電源ケーブルは、この20年でホット、コールド、アースの3ピン接続がずいぶん普及しました。普通の2ピン・コンセントを3ピンのオーディオグレード品へ取り替えることは、音質向上へ劇的な効果をもたらすので大いに薦められるものですが、アース線を引き込む工事まで依頼すると結構な費用もかかりますから、簡易的に済ますなら導通は2ピンのままで、コンセントのみオーディオグレードへ交換するのもお薦めです。

こうして3ピンのコンセントと電源ケーブルが普及していった結果、電源ケーブルも芯線は3芯のものが圧倒的多数となりました。まぁ当然の結果ですよね。

しかし、前述した「ケーブル断面の対称性」という意味合いからは、3芯ケーブルはほんの若干ではありますが、対称性に破れが生じます。アース線との3本で見ればしっかり安定した三つ巴なのですが、主に電力が流れる≒振動源となるホットとコールドの線が中心軸からずれてしまい、アース導体を持たない2芯ケーブルの完全な対称性にはかなわないな、と感じることがあるのです。

それで、電源ケーブルを開発する社の中には、細いアース線を2本配して対称性を確保したケーブルや、2芯ケーブルの外側にシールドとドレーン線を配し、アースの導通をシールドで取るように考えられた製品も存在します。

オーディオテクニカFLUATシリーズの『AT-AC700』はさらに高度な電源ケーブルで、6N-OFCとPCUHD、HYPER OFCをハイブリッドにした電力を通す芯線がプラスとマイナスで2本ずつ、そこへさらにHYPER OFCのアース線を配し、編組とアルミテープによる二重シールドも施した5芯シールド線となっています。

AT-AC700

パワーケーブル

AT-AC700

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Words:Akira Sumiyama
Edit: Kosuke Kusano

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