オーディオを語る上で、外せないのが取り替えるだけで音を変化させることができるケーブルです。『ディープすぎるオーディオケーブルの世界』ではこれまで、炭山アキラ氏にオーディオケーブルと音の関係や導体について紹介してもらいました。今回取り上げるのは、何本もの芯線を束ねて撚り合わせた「撚り線」と、芯線を覆う「絶縁体」です。それぞれ、音に影響する要素や特徴について解説してくれました。

力強い音の「単線」に対して、「撚り線」は優しく繊細な音が特徴

導体の素材について、これまで述べてきました。確かにケーブルの音質を左右する要素としては、非常に大きなものですが、ケーブルの音決めに関与する要因は、まだまだいろいろあります。

導体は、材質の違いだけではなく、「単線」か「撚り線」か、撚り線なら1本あたりの芯線が太いか細いか、何本撚ってあるか、どんな形状に撚られているかで、音質は大きく違ってきます。単線と撚り線の違いは、音のピントがピシリと合って、力強くストレートに音が伸びる単線、肌合いが優しく中間調を細やかに出す撚り線といった違いを聴き取ることができます。

また、同じ撚り線でも、太い芯線を少数撚り合わせたものと、細い芯線を多数撚り合わせたものとでは、また明らかに表現が違ってきます。前者に近づくほど音は単線の持ち味に近くなり、後者は一段と穏やかで繊細な方向性の音質を獲得することが多いようです。

力強い音の「単線」に対して、「撚り線」は優しく繊細な音が特徴

中には、太い芯線と細い芯線をハイブリッドにした撚り線構造のケーブルも見受けることができます。本当にきめ細やかな開発が進められているのですね。

撚り線では、撚り方も音質を左右するポイントです。一般的な撚り方に加え、細い撚り線を複数作ってさらにその束を撚り合わせる、通称「ロープ撚り」という方法があります。一般的な撚り方よりも全体の強度が上がり、芯線が擦れ合ってノイズを発生したりする可能性が減るものと思われます。

芯線を覆う「絶縁体」は、素材の性質が音に違いを生む

芯線を覆う「絶縁体」は、素材の性質が音に違いを生む

芯線を覆う「絶縁体」は、一義的にはその名の通り、プラス(+)とマイナス(−)の導体が混じり合わないように絶縁するためのものですが、その性質がまたケーブルの音質に大きな影響を与えます。最も一般的な絶縁体は塩化ビニール(PVC)で、いわゆるオーディオ用以外のケーブルは、その大半に用いられていますし、オーディオ用でも廉価クラスからかなり高いものまで、採用例があります。

絶縁体には、他にポリエチレン(PE)、ポリオレフィン(PO)といった高分子素材がよく用いられます。PEやPVCには、電子線を照射したり薬剤を添加したりして強度を高めた素材もよく用いられます。それらは「架橋PE」、「架橋PVC」と呼ばれます。絶縁特性が良く、産業用の電線にも採用される素材です。オーディオテクニカでも、高級ケーブルFLUAT(フリュエット)シリーズには、架橋PEの絶縁体が用いられています。

FLUATの構造

またPEでは、樹脂を発泡させた素材も絶縁体に用いられます。空気というのは最も理想的な絶縁体として知られる素材だから、絶縁体としてより優れた特性になるためです。

他の要素も大幅に関わってくるものですから、一概にいうことは危険ですが、割合ざっくりした質感のPVCに対してキリッと引き締まってやや明るめのPE、少ししっとりした質感のPOという印象を持っています。

同じような樹脂に見えて、実はよりハイテクな素材も絶縁体には使われています。アメリカのDuPont(デュポン)社が発明したフッ素樹脂がその代表で、PTFEやFEPといった素材が用いられていますが、それらはフライパンのこびりつき防止にコーティングされているテフロンとほぼ同じものです。

フッ素樹脂は絶縁性が高く、比誘電率(余分な電気を溜め込んで信号の流れを阻害する要素)にも優れており、理想的な絶縁体といってよいものですが、応分にコストがかかることと、最も特性の良いPTFEは硬く加工性に劣るなど、万能とも言い切れない部分があります。

フッ素樹脂は絶縁性が高く、比誘電率(余分な電気を溜め込んで信号の流れを阻害する要素)にも優れており、理想的な絶縁体

フッ素樹脂は、音質的に雑味が少なく通りが良い感じで、さすがハイテク素材と膝を打たせるものがあります。しかし、私自身もやったことがありますが、とても硬くて導体を露出させるのに苦労しました。

オーディオテクニカの最高峰Audio-Technica Excllenceシリーズのケーブルでは、絶縁体として何とフッ素樹脂のテープを巻き付けているとか。円筒状に導体を覆う通常の絶縁体よりも、導体への機械的なストレスが少なく、大変な手間はかかるけれどメリットの大きな方式だそうです。

Excllenceシリーズのケーブルの構造

Words:Akira Sumiyama
Edit: Kosuke Kusano

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