オーディオケーブルの奥深い世界を炭山アキラ氏が語る本企画。4回目も引き続き導体について取り上げます。これまで、「銅」「銀」「アルミニウム」と続けて紹介してきましたが、今回はいよいよ「金」や「プラチナ」にも話しが及びます。しかし、純度が高い導体素材はどうしても高価になってしまいます。導体の素材による特性を活かし、価格を抑える手段に複数の導体を組み合わせたケーブルが登場するのですが、一体どのようなものなのでしょうか。
「金」や「プラチナ」を配合し個性あるサウンドを実現したケーブルも存在する
ごく稀にではありますが、「金」も導体として用いられることがあります。最もよく使われるのは、そのしなやかさと延伸性の良さを活かしたMCカートリッジのコイルですが、ケーブルでもハイブリッド線の構成要素として見かけることがあります。
とてもマニアックなオリジナル製品を製作し、お客様に好評を博しているある販売店では、14カラットの金を導体にして、シェルリード線を作っています。24カラットが純金ですから、14カラットは約6割が金という、ある種の合金素材ですが、非常に柔らかく曲げやすいという金の印象からするとかなり固く、しなやかさを残しながらかなりしっかりした導体という印象でした。
一般に金属は、合金にすると導通が下がり、また概して固く脆くなりがちなので、あまり導体として用いられることはないのですが、ごく限られた存在として合金線があります。金と銀、そして時にプラチナも配合した武藤製作所のオーグライン線が有名ですが、他にもかつてFostexが意欲的に開発した銅銀のAGC線、AETのアース線など、本当に僅かな例ですが、際立った個性を聴かせる名プレーヤーがそろっています。
6N銅線などの高純度導体は、音質の優位性は大いに認めるけれど、それを100%で使ってケーブルを製作すると、どうしても高価な製品になってしまう。そこで、高純度銅の好ましさを活かしつつ、他の導体をいくつかブレンドしてバランスを整えた、いわゆるハイブリッド線というものも、昨今徐々に採用する社が増え、存在感を高めてきました。中には、高純度導体のキャラクターを超え、より好ましい表現を求めて非常に複雑なブレンドを行う社もあり、高音質ケーブルの見逃せない勢力となっています。
オーディオテクニカでも、例えばハイエンドオーディオケーブルのFLUAT(フリュエット)700シリーズでは、高純度の6N銅導体をベースとして、PCUHDとHYPER OFCという、製法の違う高品位無酸素銅をハイブリッドにした導体が用いられています。
太さの異なるケーブルを組み合わせて「自社の音」を作る世界もある
私のように、ホームセンターで買ってきた電力線でいろいろケーブルについて実験している者でも、細い線は低域が寂しく高域が伸びやかで、線が太くなるほど低域の量感が増していくものの、今度は高域の抜けが悪くなってくる、という現象を確認することができます。
それで自分でも以前、極太の電力線へタコ糸のように細い電力線を這わせ、その両方を両端プラグへ導通させた電源ケーブルを、自作したことがあります。全体的な音の品位という面では、いわゆるオーディオ用の高品位ケーブルには、とてもかなうものではありませんが、高域/低域ともよく周波数特性が伸びた、なかなか好ましい音を聴くことができました。現在も愛用のパワーアンプは、この自作電源ケーブルで給電しています。
これもごく初歩的なハイブリッド・ケーブルといってよいでしょうけれど、専門メーカーのブレンド技術はもちろん全く比較にならないものです。極太のケーブルからでもきらびやかな、あるいは自然によく伸びた高域を引き出し、全体としては「自社の音」をしっかりと確立する。私たちのようなケーブル自作派には、とてもたどり着けない各社ケーブル職人の境地があります。
江川三郎氏の理論を基に複数の素材を組み合わせた「PC−Triple C/EX」が登場
ブレンドとも合金とも違いますが、複数の導体素材を使う方法があります。導体の中心部へPC−Triple C銅線を、その外皮部分に5N純度の高品位な銀を配した導体があります。断面形状が同心円になっており、内側がPC−Triple C、外側が5N銀という格好ですね。この導体を「PC−Triple C/EX」といいます。
なぜこういう構造が導き出されたかというと、江川三郎さんが発見なさった「音声帯域にも有効な表皮効果」の理論を基に、高域方向へ伸びやかな銀素材で、導体の周縁を通る高域信号の流路を広げ、中心部を通る中〜低域は力強く明るく音楽を伝えるPC−Triple Cに受け持たせる、という考えからです。
おそらく銀の厚みなどが大いに吟味された結果でしょう、PC−Triple C/EXは、驚異的なワイドレンジと全域に渡る抜けの良さを有していながら、異種素材の混合による違和感のようなものが耳へほとんど届かない、非常に有望な素材に仕上がっていると感じられます。
また、アルミの心材に銅を薄くかぶせ、原子レベルで密着させるクラッド(clad)という加工を施された導体もあります。アルミは軽量だけれど酸素と結合しやすく、またハンダが乗りにくいという難点があり、そのため銅を表面に薄くかぶせることで、作業性と信頼性を向上させたものです。
この導体をCCAW(Copper-Clad Aluminum Wire)と呼び、特に平たい帯状に加工されたものは、高級スピーカーのボイスコイルに採用されています。帯状にするのは、その方がよりボイスコイルを高密度に巻くことができるからです。
帯状に加工された線は、オーディオケーブルでも採用されることがあります。丸型断面の一般的な導体よりも振動を抑えやすい、というのが採用の大きな理由の一つとなっています。
ほか、正方形断面の導体を採用する社もあります。これはCCAWボイスコイルと同様、ケーブル内の導体の密度(充填率)を高めることができるからでしょうね。いずれにせよ、一般にはあまり生産されていない形状ですから、かなり凝った高級ケーブルメーカーによって用いられることが多い素材、といって間違いないでしょう。
次回は絶縁体や被覆、介在、シールドなど、ケーブルの構造について解説していきましょう。
Words:Akira Sumiyama
Edit: Kosuke Kusano