炭山アキラ氏がオーディオケーブルにまつわる話しをお届けする『ディープすぎるオーディオケーブルの世界』。 これまでは「ケーブルで音が変わるという発見」や「銅導体」について語っていただきました。 今回は、さらにディープな「銀」と「アルミニウム」という、銅以外の導体について紹介してくれました。

銅以外でよく使われる「銀導体」、当初は普及しなかった

一般的な電線というと、ほぼ例外なく銅が導体として用いられますが、オーディオの世界では他の材質が使われることもあります。 銅以外で最も一般的な導体は、銀です。

銀のケーブルというと、「ケーブルで音が変わる!」ということが認知され始めたごく初期、1980年代の初頭から、レコード・カートリッジのシェルリード線に、商品が登場していたと記憶しています。 調べてみると、過去にオーディオテクニカにAT609という銀線リードワイヤーが存在していましたね。

何といっても銀は銅とは比べ物にならないほど高価な金属で、電気抵抗は銀の方が若干低く、同じ断面積なら電気を多く通しますが、かかるコストは比較になりません。 しかも、銅に比べて銀は素材として固いせいか、音楽信号を流すと帯域バランスが銅とずいぶん違い、何となくハイ上がりで明るいけれど色彩感に欠ける音、という印象を持つケーブルが多いものでした。

銅以外で最も一般的な導体は、銀

それで、ごく限られた製品を除いて銀導体を持つケーブルは普及しなかったのですが、ここにも銅と同じブレークスルーが訪れます。

超高純度な「銀導体」が登場。 クールで伸びやかな音色は欧州で人気

前述の銀線リードワイヤーは99.9%純度ですから3N*ということになります。 一方、1980年代の終わり頃に開発された導体の高純度化技術で、6N銅線が登場したという話は前回にしましたが、同じ技術で6N銀線も登場したのです。 6N化された銀線は、3Nや4Nとは比較にならないくらい柔らかくしなやかな導体となりました。 そのせいか、情報量が多くクールで伸びやかな、銅線とはまた違う世界観を提示してくれるようになりました。

*N:主金属材料の純度を表すときに用いられる表記。 純度99.9%の場合、9(Nine)が3つ続くので「3N純度」と表すことがあります。 4Nや6Nなど数字が大きいほど、他の物質が少なく金属の純度がより高いことを意味します。

6N銀線は地金の単価と精錬費用でかなり高価なものとなりますから、その後5N純度の銀線が出たり、純度だけではなく構造に凝ったりして、銀線は特に高度なマニアへ向けて、広く普及していきます。

中でも日本より海外、とりわけ欧州のメーカーで、銀を導体に使うケーブルメーカーが多いように感じられます。 「欧州人の耳の特性では、銅線よりも銀線の方が自然に聴こえている」という説がありますが、確たるところは分かりません。

短命だったのが惜しまれる「アルミニウム導体」

ともあれ、世界から多くの個性を持つケーブルが日本へ集まってきており、ご自分の装置を躾ける一助として、それらがとても有用な存在であることは、間違いありません。

千葉工大の大野教授が発明された連続鋳造法で製作されたオーディオケーブルは、銅線だけではありませんでした。 アルミニウムのOCC線、AL OCCと呼ばれるものが、銅線のPC OCCとほぼ同時期に発表されたものです。 オーディオテクニカ製品でもこれらが応用されたものはいくつかあり、例えばシェルリード線『AT6100』にはAL OCCが採用されていました。

AL OCCは比較的短期間に発売が終了してしまい、私も「そのうち試そう」と思っていたら、いつの間にかなくなっていてガッカリしたものです。 OCCそのものが生産されなくなった現在では絵空事になってしまいますが、ケーブルが花盛りの現代にこの素材があったら、ひょっとすると見逃せない勢力になっていたかもしれないな、などと夢想することがあります。

Words:Akira Sumiyama
Edit: Kosuke Kusano

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