アナログ製品を選ぶ際、どのようなポイントをチェックしていますか?製品のカタログやウェブページには、必ず「スペック(テクニカルデータ)」が記載されていますが、並んだ項目や数値の意味がわからず、戸惑った経験がある方も多いのではないでしょうか。そこで、オーディオライターの炭山アキラさんが、意外と知らない「スペック」の読み方をカテゴリ別に詳しく解説していただきました。

今回はレコードプレーヤーの「ヘッドホン/イヤホン」編です。ヘッドホン/イヤホンのスペックは、メーカーによって書き方や取り上げている項目が異なります。ここでは、オーディオテクニカのテクニカルデータを元に見ていきます。

目次
形式
ドライバー
出力音圧レベル
再生周波数帯域
最大入力
インピーダンス
入力端子

形式

ドライバーを支えるハウジング周辺の形状と、ドライバーそのものの発音形式。

形式 ドライバーを支えるハウジング周辺の形状と、ドライバーそのものの発音形式。

ハウジングには大きく分けて「密閉型」と「開放型」があります。開放型はオープンエアー型やオープンバック型とも呼ばれます。主にオーバーイヤー型(オーバーヘッド型)とオンイヤー型について用いられる用語です。

発音形式はほとんどの場合、フレミングの左手の法則を動作原理としたダイナミック型(動電型)が採用されていますが、極めて高度なインイヤー型にはダイナミック型を高度に洗練したバランスド・アーマチュア型が採用されているものもあります。

また、極めて少数ですが、高分子の薄膜を高電圧の音楽信号で振るわせる「静電型」が用いられているヘッドホンもあります。静電型はコンデンサー型、またエレクトロスタチック型とも呼称されます。専用のヘッドホンアンプが必要になるため、高価な製品が多いのは仕方ありませんが、「これでなければ!」とこだわるマニアが多い動作方式でもあります。

ハウジングの形状と発音形式については、以下の記事でまとめているので参照してみて下さい。

ドライバー

音を鳴らすための機構をドライバーユニットと呼び、ドライバーの項にはその口径(大きさ)の数値が記されています。

ドライバー 音を鳴らすための機構をドライバーユニットと呼び、ドライバーの項にはその口径(大きさ)の数値が記されています。

例えばカナルタイプのイヤホンの『ATH-CKS1100X』は直径φ11mm、インナーイヤータイプのイヤホン『ATH-CM2000Ti』はφ15.4mm、オーバーヘッドタイプの『ATH-ADX3000』はφ58㎜とずいぶん大きさが違いますが、それぞれタイプによってドライバーユニットから鼓膜までの距離が全然違うことや、開発コンセプトによって適した口径が選ばれていると考えてよいでしょう。

出力音圧レベル

DAPやヘッドホンアンプからヘッドホンやイヤホンに1mWの信号を送った時、鼓膜へどれくらいの大きさの音が届くかを表した数値。

出力音圧レベル DAPやヘッドホンアンプからヘッドホンやイヤホンに1mWの信号を送った時、鼓膜へどれくらいの大きさの音が届くかを表した数値。

dB(デシベル)は非常に大きな違いを表しやすくするための単位で、一般的には6dB増えるごとに2倍となりますが、電力(W)は電圧(V)と電流(A)をかけ合わせたものですから、3dBで2倍違うことになります。

具体的な製品で例を挙げると、インナーイヤー型のATH-CM2000Tiは102dB/mW、カナル型のATH-CKS1100Xは106dB/mWですから、約3.2倍の音量が届いていることになります。さらにオーバーヘッドタイプのオープンエアー型ATH-ADX3000は98dB/mWですから、ATH-CM2000Tiの方がさらに2.5倍、ATH-CKS1100Xと比べたら8倍の音量差ということになります。

なぜそういうことになるのかというと、振動板の面積、振動する部分の実効質量、振動板の大きさに対するマグネットによる磁気の相対的な強さなど、多くの要素が関わってくるので一概には言えない項目なのですが、大きな要素の一つとして「振動板と鼓膜との距離」を挙げてよいのではないかと考えています。カナル型は耳穴へギュッと押し込む形状ですから、際立って鼓膜へ効率良く音波が届けられるのではないか、と推測されるのです。

それでは、この数値が大きいほど大きな音が出せるのかというと、そう簡単にいきません。後述する「最大入力」と「インピーダンス」も、どれくらいの音量を鼓膜へ届けることができるかを左右する、大きな項目となってきます。

再生周波数帯域

ヘッドホンやイヤホンが最低域から最高域まで、どれくらいのワイドさで再生できるかを示す数値。

再生周波数帯域 ヘッドホンやイヤホンが最低域から最高域まで、どれくらいのワイドさで再生できるかを示す数値。

人間の耳は20Hz~20kHzの帯域が聴こえるとされていますが、大半のヘッドホンはそれよりずっと幅広い帯域が再生可能になっています。一見ムダのようにも感じられますが、可聴範囲を存分に、あるいは余裕たっぷりに鳴らそうと思えば、両端へかけて1オクターブは広げておきたいものなのです。スピーカーでは、特に低い周波数帯域でそれは大変難しいことですが、ヘッドホンやイヤホンは耳から至近距離にドライバーがあることも手伝って、それが可能になっているのです。

最大入力

ドライバーが傷まない範囲で、DAPやヘッドホンアンプから入力することのできる、最も大きな信号の値を示します。

最大入力 ドライバーが傷まない範囲で、DAPやヘッドホンアンプから入力することのできる、最も大きな信号の値を示します。

最大入力は、振動板の口径や振動板の振幅の大きさ、振動板を駆動するボイスコイルの太さ・長さなどによって決まります。

出力音圧レベルではカナル型やインナーイヤー型にかなわないオーバーヘッド型ですが、最大入力はATH-CKS1100XやATH-CM2000Tiが100mWのところ、ATH-ADX3000は700mWですから、7倍の信号の大きさまで耐えられるということですね。

インピーダンス

交流の電気が流れる際の抵抗を表した数値で、数値が高くなるほどヘッドホンアンプなどからの音楽信号が流れにくくなります。インピーダンスが2倍になれば、流れる音楽信号は半分になります。

インピーダンス 交流の電気が流れる際の抵抗を表した数値

プロ用の高級ヘッドホンは、DAPなどへ直接つなぐとボリュームをいっぱいまで上げても満足な音量へ達しないことがありますが、それはヘッドホンのインピーダンスが高いせいだと考えてよいでしょう。一般的な民生用のヘッドホンやイヤホンは10~30Ω台の製品が多いものですが、プロ用は400~600Ωの製品が多く、つまり音楽信号が10分の1以下しか流れない、ということになってしまうためです。

ならばなぜ、プロ用ヘッドホンはインピーダンスの高い製品が多いのでしょうか。録音やコンサートやイベントの音響では、1箇所にじっとしている業務ばかりではなく、いろいろな機材を操作するために動き回らなければならない場合があります。そんな時は、家庭ではまず使う必要のない長いケーブルを使わざるを得なくなりますが、そんな時にインピーダンスの高いヘッドホンは、ケーブルを延長した悪影響が音に乗りにくく、音の鮮明さを保ちやすいものなのです。

ですから、このような高級モニター機をお使いになりたい人は、家庭内ならしっかりとしたヘッドホンアンプ、屋外で使うならDAPにポータブル・ヘッドホンアンプ(ポタアン)を組み合わせることを薦めます。

入力端子

ヘッドホンやイヤホンに音声信号を供給するための接続部のこと。

入力端子 ヘッドホンやイヤホンに音声信号を供給するための接続部のこと。

これは有線のヘッドホンやイヤホンの、それも中〜高級機に限ったものですが、昨今の製品はその多くがケーブルを取り替えられるようになりました。もちろん、ケーブル部分が傷んでしまった時に純正品へ交換することをまず考えた結果の装備でしょうけれど、そこに目をつけたアクセサリーメーカーが交換用の「リケーブル」を発売するようになりました。

数多くのヘッドホンやイヤホンのメーカーがケーブルの着脱式を採用する一方、端子はメーカーによって、また製品によってまちまちという状況なのですが、昨今はオーディオテクニカが開発したA2DC端子を採用するメーカーが少しずつ増えてきました。

その一方、オーディオテクニカでもモニターヘッドホンは直径3.5mmの、いわゆるステレオミニプラグ/ジャックが用いられています。これは主にリケーブルの需要ではなく、ケーブルが邪魔にならないカールコードと、広い場所で作業する際のストレート長尺ケーブルを取り替えるために装備されているものです。

Words:Akira Sumiyama

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