1877年にエジソンがグラモフォンを開発して以降、音響機器は時代が進むにつれてどんどん便利に、どんどん小型になっています。1950年代には大型だった音響機器の小型化が進み、レコードは家庭の娯楽として広まりました。そして1980年代にCDやMDといったソフトを移動中に視聴できる小型のプレーヤーが登場した後、さらにコンパクトかつ大容量に音楽を持ち運べるプレーヤーとして2000年代に台頭したのが、SONYのメモリー型ウォークマンやAppleのiPodを代表とするMP3の再生プレーヤーです。
そこから2010年代には音にこだわったポータブルオーディオプレーヤーが爆発的に増え、それが「DAP」と呼ばれるようになりました。今回はこの「DAP」について、音楽家、録音エンジニア、オーディオ評論家の生形三郎さんに解説していただきました。
DAPって何?MP3プレーヤーとどう違うの?
DAPは「Digital Audio Player」の略で、MP3プレーヤーとDAPの大きな違いは高音質なフォーマットの音源を再生できること。同じポータブルオーディオプレーヤーですが、DAPは音楽再生に特化した機器として設計されています。イヤホンやヘッドホンを高音質に鳴らせるヘッドホンアンプを内蔵しているほか、バランス接続やバランス駆動といったヘッドホンやイヤホンをより高音質に楽しむことが出来る機種もあります。
データの保存形式は「圧縮音源」と「非圧縮音源」に大別される
レコードもCDもスマホもDAPも、何かしらの形式で音楽をデータとして保存し、聴くときはそれを再生します。例えばレコードであれば、音の振動を溝として円盤に刻み、データとして記録していますよね。
DAPでは「MicroSDカード」や本体内のストレージに音楽ファイルを保存します。後述しますが、ストリーミング再生に対応したモデルでは、音源データをMicroSDカードや本体にコピーするなどのファイル操作なしに、手軽に音楽を楽しむことも出来ます。
レコードは物理的に音楽の情報を保存することができますが、CDやDAPのような媒体では音源をデジタルデータとして保存しなければなりません。音のデータは大きなファイルサイズになるので、容量を確保するためにデータを圧縮する必要があります。ポータブルオーディオプレーヤー全般に使われている音楽ファイル形式はいくつかありますが、大きく「圧縮音源」と「非圧縮音源」に分かれます。
「圧縮音源」はなるべく音質を損なわないようにファイルサイズを小さくした形式で、代表的なものがMP3やAACです。また、圧縮音源でも、『可逆圧縮』と『非可逆圧縮』に分けられます。
『可逆圧縮』とはデータを圧縮する際に元の情報を完全に保持し、再生時に元のデータを100%復元できる圧縮技術です。圧縮する前のデータに戻すことが可能なため、音質が損なわれません。代表例がFLACやALACです。それに対して『非可逆圧縮』は圧縮前の状態に完全に戻せない圧縮方法で、MP3やAACがその代表。一般的な音声圧縮形式は、ファイルサイズを軽くできる非可逆圧縮を採用しています。
一方の「非圧縮音源」とは文字通り圧縮しない形式のことを指します。音質はオリジナルクオリティを保つことが可能で、WAVやAIFFが代表例です。また、これらとは全く方式の異なる非圧縮音源として「DSD形式」があります。レコードやテープなどアナログ音源に近い質感が楽しめると評価されており、一般的にはDAPのみが対応する形式です。ファイル形式はDSFやDFFです。
ちなみに最近話題の「ロスレス」や「ハイレゾ」といった高音質な音源は、非圧縮音源を指します。オリジナルデータを変質させる圧縮処理を経ていないため、音質が良いのです。ただし、その分MP3などの圧縮音源に比べてファイルサイズが大きくなり、一般的なMP3とCD音質のWAVを比べると、WAVはおよそ10倍ほどのサイズになります。
最近のDAP事情
デジタルオーディオが登場してからおよそ四半世紀、DAPの性能は大きく向上しています。例えばイヤホンやヘッドホンとの接続は有線だけでなくワイヤレス接続にも対応するものが一般的で、高音質な再生が可能なBluetoothのコーデック*に対応している機器では無線接続でハイレゾ相当の音質を楽しむことができます。さまざまな高音質音源の再生に対応するほか、インターネットに接続することでストリーミング再生に対応したりと、DAP単体での音楽再生のみでなく、音楽コンテンツのフォーマットや配信サービス、そして無線技術のコーデックなど、音楽再生を取り巻く状況とともに大きく進化してきました。
*コーデック:データを圧縮したり復元する技術のこと。映像や音声などのデータを効率的に伝送するために、様々なコーデックが存在しています。
価格は1万円程度のものから数十万円といったハイエンドモデルまで、実に多くの機器があります。国内モデルではソニーのウォークマンシリーズが高いシェアを持つ他、ハイエンド機では韓国のiRiverによるHi-Fi向けブランドのAstel&Kernなどが有名です。また、近年、OEM開発などで技術を磨いた中国企業の独自ブランドの躍進も目覚ましく、FiiOやShanlingといった中国初のブランドがコストパフォーマンスに優れたモデルを多く展開しています。
DAPのメリット・デメリット
高音質な音楽再生に特化しているので、DAP1台で手軽に良い音を楽しめるのが最大のメリットです。据え置き型のオーディオ機器(アンプやDAC、アクティブスピーカー)にデジタルやアナログで接続して使うことも出来るので、出先でのポータブル使用だけでなく、自宅での据え置き用途として使える守備範囲の広さも魅力ですね。 ただ、持ち歩きをする場合はスマホのバッテリーを気にしなくて良い反面、携行する機器が増えたり、別途購入する費用がかかるなどのデメリットもあります。
なお、先にも述べたように、一般的には高音質な音楽再生に特化した音楽再生専用機をDAPと呼びますが、スマートフォンの電話機能を使用せずにプレーヤーとして使っているという場合も、広義ではDAPと呼べるでしょう。
音質の良い音を聴くには、モニターヘッドホンがおすすめ
DAPで良い音を楽しむなら、ぜひとも良質なヘッドホンやイヤホンを使用してください。中でも、アーティストやエンジニアが実際に音楽制作で使用しているモニターヘッドホンを使って聴いてみると、また違った世界が拓けることでしょう。
オーディオテクニカの密閉型モニターヘッドホン、Mシリーズは、世界的にも人気のシリーズで、海外のミュージシャンやエンジニアにも広く採用されていることで有名です。M20xからM70xまで幅広いラインアップがありますが、M50xがとくにオススメです。ぜひとも一度その音を聴いてみてください。
ATH-M50x
プロフェッショナルモニターヘッドホン
Words:Saburo Ubukata
Edit:May Mochizuki