アナログ製品を選ぶ際、どのようなポイントをチェックしていますか?製品のカタログやウェブページには、必ず「スペック(テクニカルデータ)」が記載されていますが、並んだ項目や数値の意味がわからず、戸惑った経験がある方も多いのではないでしょうか。そこで、オーディオライターの炭山アキラさんが、意外と知らない「スペック」の読み方をカテゴリ別に詳しく解説していただきました。

今回は、レコードの音を本来の録音バランスで楽しむために欠かせない存在である「フォノイコライザー」編です。

目次
入力インピーダンス
入力感度
定格出力
ゲイン
SN比
RIAA偏差
サブソニックフィルター

入力インピーダンス

電気回路に交流電流を流したときに生じる抵抗成分のこと。単位はΩ(オーム)。

入力インピーダンス 電気回路に交流電流を流したときに生じる抵抗成分のこと。単位はΩ(オーム)。

「負荷インピーダンス」「受けインピーダンス」とも呼称します。オーディオテクニカのフォノイコライザー『AT-PEQ30』はMM型とMC型の両カートリッジに対応していますが、入力インピーダンスはMM型が47kΩ、MC型が120Ωで固定されています。これで大部分のカートリッジは再生可能です。

さらにこだわりたい人は、インピーダンスを使用するカートリッジの内部インピーダンスに応じた値に整えてやった方が、帯域バランスが向上してよりカートリッジの実力を発揮させやすくなります。例えば、Accuphaseのハイエンドフォノイコライザー C-47なら、MC型は10Ω、30Ω、100Ω、200Ω、300Ω、1kΩの6段階、MM型でも1kΩ、47kΩ、100kΩの3段階に入力インピーダンスを切り替えることができます。

「あれ、MM型は47kΩで受けるんじゃないの?」とお思いの人もおいでかと思いますが、残りの2ポジションには結構大きな意味が隠されています。100kΩはごく少数のMM系カートリッジが要求する値で、47kΩではピラミッド型の分厚い表現*が、100kΩになると高域方向がスッキリと抜け、意外な現代性を持つカートリッジであったことが分かります。

1kΩは、いわゆる高出力MCカートリッジを受けるためにとても有効です。高出力のMC型はもともとMCポジションを持たないアンプをお使いのユーザーにも使用してもらうため、MMポジションで十分な出力電圧を持つように設計されたものですが、それらは内部インピーダンス100~200Ωのものが多く、それくらいだと47kΩでは受けインピーダンスがいささか高すぎるように感ずることがあるのです。

具体的には、47kΩで受けた際にやや薄味で低域の馬力に欠けるなと思っていた高出力MCが、1kΩで受けると一気にパワフルなサウンドになったりすることがあります。こういう条件が実験できる環境にある人は、一度やってみて下さい。100%ではありませんが、上手くハマるとサウンドが大化けしますよ。

*ピラミッド型の分厚い表現:低域方向に雄大なエネルギー感や豊かさを持ち、それに比べて高域方向はフラットか若干耳当たりが穏やかになったような傾向の音。低音の周波数特性を持ち上げてそうしているわけではないことが多い。

入力感度

カートリッジから入力される信号の大きさに対応する値のこと。

入力感度 カートリッジから入力される信号の大きさに対応する値のこと。

例えばオーディオテクニカAT-PEQ30では、MMが4.5mV、MCが0.28mVとなっています。この数値に近い出力電圧を持つカートリッジが、最も実力を発揮させやすいということではありますが、あくまで目安程度のものと考えて差し支えありません。

もっとも、入力感度に対してあまりにも出力電圧の低いカートリッジを接続すると、相対的にノイズ感が高まってSN比に問題が出ることがあります。また、入力感度の値よりも遥かに高い出力電圧を持つカートリッジを接続すると、増幅回路の上限に達して音が歪む(サチュレーション=飽和する→サチるという言い方をします)ことがあります。

そのため高級フォノイコライザーには、ゲイン(後述)が選択できるものがあります。ゲインが2倍になれば入力感度は半分になる、つまりより出力電圧の低いカートリッジでもしっかり増幅できるようになるということです。

定格出力

フォノイコライザーの出力端子から、どれくらいの強さの音楽信号が出ているかを表す数値。

定格出力 フォノイコライザーの出力端子から、どれくらいの強さの音楽信号が出ているかを表す数値。

カタログを見比べると、メーカーによってずいぶん数値がバラついていて驚かされます。ほとんどのカタログに記載はありませんが、おそらく測定条件がかなり違っているものと推測されます。

ただし、これまで数え切れないほどのフォノイコライザーと接してきましたが、個人的には出力電圧が高すぎるな、あるいは低すぎるなと感じたことは一度もありませんでした。CDプレーヤーなどと同じ、いわゆるLINEレベルの信号になっていることは、どの製品も間違いありません。

ゲイン

カートリッジから入ってきた音の信号の大きさを調整するもの。楽曲によって音量が異なるため、繋げる曲同士で音量のバランスを整えるために必要。音のボリュームは、ゲインで調整した信号の大きさを決めるものになります。

ゲイン カートリッジから入ってきた音の信号の大きさを調整するもの。

一般には電圧の高さの比で表します。AT-PEQ30ではMMが35dB、MCが59dBとなっています。デシベル表示は6dB増えるごとに大きさが2倍になりますから、35dBなら約60倍、59dBなら約970倍ということになります。自分で計算してみてもビックリしたほど大きな違いですが、MCカートリッジの増幅はそれだけ難しいと考えて間違いないでしょう。

SN比

「S/N比」や「S/N」などとも表記されます。「Signal to Noise ratio」の略で、再生できる最も大きな音とノイズの大きさを比較した数値です。数値が大きいほど良いとされます。

SN比 「Signal to Noise ratio」の略で、再生できる最も大きな音とノイズの大きさを比較した数値です。

再生できる最大の音楽信号と、この場合はフォノイコライザー固有の残留ノイズとの比ということになります。概してMM型よりMC型が低いものですが、AT-PEQ30を例に取ると、MC型の方がMM型の16倍も大きく増幅しているからです。

ちなみにMM型とMC型で、SN比の差は26dB、ゲインの差は24dBとなっており、非常によく対応しています。2dBの違いといえば1.1倍強ですからね。この数値も、メーカー各社で測定条件が違いますから、機器同士の絶対比較へ用いるのは適切ではありません。目安程度とお考えになるとよいでしょう。

RIAA偏差

RIAA*規格で定められた特性に対する誤差を示す数値。

RIAA偏差 RIAA規格で定められた特性に対する誤差を示す数値。

レコードは収録時に低音を少なく、高音を多くすることで、収録できる時間を伸ばし、耳障りなノイズを減らしています。そのカーブは、現在はRIAAという特性に統一されています。それをフォノイコライザーで元の特性に戻して出力するのですが、その際に元の特性とどれくらいの誤差があるかを示すのがこの数値です。

こちらはほとんど気にする必要のない数値でしょうね。AT-PEQ30は±0.5dBとありますが、0.5dBといったら1.03倍です。しかも、それが「個体差の中で最も偏差が大きかった時でもここまで」と保証されているようなものですから、ほぼゼロといってよいでしょう。

*RIAA:アール・アイ・エー・エー、一般体にリアと読まれることが多いです。詳細は以下を参照。
フォノイコライザーとは?レコード再生に欠かせない仕組みと役割を徹底解説

サブソニックフィルター

特定の周波数以下の音をカットするフィルター。

サブソニックフィルター 特定の周波数以下の音をカットするフィルター。

レコードが反っていると、それをカートリッジが再生してしまい、大音量で再生するとウーファーが大きく揺れることになってしまいます。それを防止するため、耳には聴こえないとされる20Hz以下をカットするための装置がサブソニックフィルターです。

フォノイコライザーは個別で「何Hzから」「どれくらいの急峻さで」カットするかが違っていて、カタログにそれを表示してある製品が多いものです。あまり高い周波数からカットすると聴感にも影響が出てしまいますが、低い周波数で急峻なスロープを用いてカットすると、今度は回路が複雑になって音質にダメージが及びかねません。難しいものです。

Words:Akira Sumiyama

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