レコードの音質を左右する重要な要素のひとつが、カートリッジの「針先(スタイラス)」です。針の種類によって、繊細な高音が際立つものや、迫力のある低音を再現するものなど、音楽の楽しみ方も変わってきます…と言われても、どの針を選べばいいのか、針の種類で音にどのような違いが出るのか、ピンとこない人も多いのではないでしょうか。そこで今回は、レコード針の代表的な形状とそれぞれの音の違い、針先タイプごとのおすすめの音楽ジャンルについて、オーディオライターの炭山アキラさんに教えていただきました。

単純に高価であれば音質がアップする、ということではない?

オーディオテクニカのVM型カートリッジAT-VM95シリーズとVMシリーズは、交換針をいろいろ変えられるということをご存じでしょうか?SPレコードを再生する時の交換針を除いて、それらには同一シリーズ内で厳密な互換性があり、さらにVMシリーズの交換針は、それ以前のAT100シリーズなどの交換針としても使えます。

しかし、これだけいろいろな交換針があって、「何が違うんだろう?」と不思議に思ってらっしゃる人はおられませんか。あるいは、「高い交換針でないと、いい音は聴けないのか?」とお思いの人も。はっきり申し上げて、高価な交換針にそれだけの価値があることは間違いないのですが、ただ価格順に音質がアップする、ということでは必ずしもありません。

針先の形状や接合/無垢の違いなどは、前に詳しくまとめたページがありますから、よろしかったらそちらも参照して下さいね。

交換針で一番廉価なグレードは、「接合丸針」が装着されているものです。クラシックの、とりわけ情報量が多い優秀録音盤*などをかけると、高域方向が早めにダラ下がりとなっていて、全体的な情報量ももう少し出てほしいように感じることがあります。

しかし、1950~60年代のジャズや、ポップスの中でも少々泥くさい昔のブルース、アメリカ中南部のサザンロックなどを歌わせると、このタイプは本領を発揮します。具体的には、どっしりと太くパワフルで、落ち着いた風合いの中に活発さと熱気を吹き込んでくれる、そんな印象を持っています。

*優秀録音盤:優秀な録音環境で収録され、熟練のエンジニアが微調整した、高音質で自然な聴き心地の良いレコードやCDなどの音楽メディア。


オーディオテクニカでは、接合丸針の次のグレードは「接合楕円針」となります。これで前述の優秀録音盤を聴くと、そう大きな不満はありませんが、若干ステージ上の演奏者の遠近がつかみづらくなり、広大なホールを満たした空気の容量を感じ取ることが少し難しくなる、という感じです。

一方、ロックやアップテンポのポップスなどをかけると、特に『VM520EB』はボーカリストもバックメンバーも「俺が、俺が!」と耳へ殺到するような活気とパワフルさを聴くことができます。『AT-VM95E』はもう少し穏やかで緊張を緩めた質感ですが、やはりその片鱗を濃厚に宿します。こればかりは世界の高級カートリッジにも出せない味わいだ、と個人的には確信しています。


接合と無垢の違い

同じ楕円の針先で、接合と無垢にどれほどの違いがあるというのか、と疑問にお思いの人もおいででしょう。実際に聴き比べてみると、この両者にはとても同じカートリッジで聴いているとは思えないくらいの差があります。

具体的には、無垢は音が全体的に磨き上げられ、細かな情報がつぶれることなく耳へ届くようになります。特に優秀録音盤をかけると、呆気にとられるくらい情報量が違って聴こえるものですよ。

接合楕円針
無垢角柱楕円針
接合楕円針(左)と無垢角柱楕円針(右)

その代わりといっては何ですが、接合楕円針ととても相性の良いロックの盤を無垢楕円針でかけたら、ボーカリストもバックもピシリと整って端正な音楽になるのですが、ボーカリストが前へ出て、バックは一歩引きながら歌手を支える、という構図がはっきりと見えてきます。おそらく、レコード会社のエンジニアはそう意図して音を作っているのでしょう。しかし、接合楕円針のガッツあふれる「ロックな音」に比べると、どうしても温度感が下がるというか、どこか冷静に演奏しているような印象となってしまうことは否めません。もちろん音の好みは人それぞれですから、それが一概に悪いというつもりもありませんが、私はやっぱりロックは「ロックな音」で聴きたいと思ってしまうのです。

といいつつ、無垢の楕円針はある種のオールラウンダーというか、古いレコードから最新録音まで、クラシック、ジャズ、ポップスのどれもソツなく、しかもかなり高いレベルでこなしてくれる、そんな存在だと感じています。

私のリファレンス・カートリッジの中に、オーディオテクニカの『VM740ML』があります。VMシリーズの上級に当たる金属ボディに、後述するマイクロリニア針が装着されたバージョンです。私はこれに時折、無垢楕円の交換針『VMN30EN』を取り付けて、時に音楽を楽しみ、製品テストにも使います。無垢楕円のどこかカジュアルだけれどピシリと筋が通った表現は、私も大いに好むものです。

VMN30EN

VM型 交換針

VMN30EN

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ラインコンタクト針のあれこれ

ラインコンタクト針というのは、針先と音溝の接触する部分が垂直の筋状になるよう研磨された高度な針先で、丸針や楕円針よりもより細かな情報を音溝から導き出すことが可能になり、また接触面積が大きいことから摩耗にも強いとされる針先です。

一口にラインコンタクト針といっても、オーディオテクニカだけで3種類の針先が採用されています。「マイクロリニア針」、「シバタ針」、「特殊ラインコンタクト針」です。この3種類、同一シリーズでも装着モデルのお値段が結構違います。でもこの価格差は、針先そのものの調達コストが最も大きな要因だそうで、必ずしもグレードの上下ということではないのだとか。むしろ、音質傾向の違いを生み出すために、針先を使い分けているのだそうです。

それが端的に分かるのは、上級MCカートリッジのAT-ART9Xシリーズです。コア入りコイルの発電回路を持つ『AT-ART9XI』は特殊ラインコンタクト針、空芯コイルの『AT-ART9XA』はシバタ針が採用されています。両者にグレードの上下はなく、それぞれの発電回路に適した針先が採用された、と考えるべきでしょうね。


この3者の音質傾向を、軽くお話しておきましょうか。

マイクロリニア針はとにかくハイスピードかつ伸びやかな音が特徴で、レコードの音溝に細かな情報が入っていればいるほど、本領を発揮して朗々と歌い出すタイプ、という印象です。その代わり、音溝が傷んでいたりもともとが歪みっぽい音だったりすると、それらも素直に再生する傾向があり、できるだけ高音質のレコードで使ってやりたくなる針先です。

シバタ針は、もともと40kHzまでの高域が再現できるようにと、工夫を凝らして開発された針先で、データ的に見ても高域は実によく伸びているのですが、その副産物というべきかどうか、低域がどっしりとパワフルなサウンド傾向になります。もちろん、ただ針先をシバタにしただけでそうなるものではなく、開発時のさまざまなチューニングにもよるのでしょうけれど、多くの採用カートリッジでその傾向が聴き取られますから、やはりそういう傾向は針先自体にもあるのでしょう。

特殊ラインコンタクト針は、ちょっと呆気にとられるくらい情報量が多く、全体に明るくハキハキとして、情報を積極的に表現するタイプです。VMシリーズでもAT-OC9Xシリーズでも、この針先を装着した製品は価格が飛び抜けていますが、それだけの価値はあるなと感じさせるサウンドです。

マイクロリニア針
シバタ針
特殊ラインコンタクト針
左からマイクロリニア針、シバタ針、特殊ラインコンタクト針

私自身は、マイクロリニア針との付き合いがそろそろ40年になろうとしています。現在のリファレンス・カートリッジにも『AT33PTG/II』や『VM740ML』など、マイクロリニア針が装着されたカートリッジを多く使っています。

AT33PTG/IIは新製品の頃から使っていますから、もう14年以上になりますが、リファレンスとしてガンガン使っているのに、針先はまだダメになりません。音溝との接触面積の大きなラインコンタクト針の寿命の長さが効いてきているな、と考えるほかありません。

仕事の相棒として、音楽再生の友として、これだけ使い続けていられるのは、やはり私の音の好みとマイクロリニア針の表現が近いところにあるのでしょう。皆さんも、ご自分の好みにしっくりくる針先を探して下さいね。

Words:Akira Sumiyama

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