Face Recordsからのおすすめレコードを毎月お届け。レコードで楽しめるのは音楽だけに限りません。音楽だけでは得られない効果が期待できる環境音や効果音を聴くことができるレコードがたくさんあります。きっと、聴いたことの無い方には新鮮な発見や驚きがあるはず。今回は日々大量のレコードを扱うFace Recordsだからこそお勧めできる「環境音のレコード」を、マーケティング担当の日比孝征さん、査定業務担当の伊勢健人さん、そして広報担当の藍隆幸さんがご紹介します。
音楽だけじゃない!環境音レコードの魅力
改めて基本に立ち返ってみると、レコードとは音を記録して再生する媒体です。蓄音機を発明したエジソンは公開録音で「メリーさんの子羊」の詩の朗読をされたそうです。
これまで音楽を中心にレコードを紹介してきましたが、音楽以外でも様々な音が記録されたおすすめのレコードがたくさんありますし、レコードが好きな人も環境音や効果音のレコードを持っている人が意外とたくさんいます。
「でも環境音や効果音レコードは聴いたことも買ったことも無い」という初心者の方も多いと思います。おすすめできそうなレコードも沢山ありますので、具体的に紹介してまいります。
日比さんのおすすめレコード
渋谷店店長を経て現在本社にてマーケティングを担当。50~60年代のジャズレコードをメインに収集しており最近はハウスやサントラ、今回の環境音など別ジャンルにも熱中。学生時代からの生粋のメタラーでもある。
作者不詳『Songs Of The Humpback Whale』
動物の鳴き声シリーズであるくじらの鳴き声です。こちらはなんと輸入US盤!日本盤にもよくある動物の資料用レコードと同じだが、まさか有名なCapitol Recordsがこんなのも出していたなんて…。ヨーロッパ盤やCDでも多数リリースされており、ちゃんと探せば比較的簡単に見つかるかもしれません。
多くの人はそもそも海の生物の鳴き声を聴く機会はほとんどないと思うので「こんな鳴き声なんだ!」と関心を持つことだろうし、目を閉じて聴いてみると非常に癒されます。まるで海の中を漂いながら無心で自然に身を任せているような感覚です。レコードプレーヤーを2台使って次に紹介する「波の音」と一緒に流せばリゾート気分を味わえます。
ちなみにクジラとイルカの違いは身体の大きさによる違いだけらしいので、イルカの鳴き声との聴き比べをしてみても楽しいと思います。
Surf Break Band『Surf Break From Jamaica』
ジャマイカの海で実際に録音された波の音をナレーションなど一切なく収録したもの。名義はサーフ・ブレイク・バンド(Surf Break Band)ですが、バンド音楽ではありません。
本作の小さな音量で流しても波の音だと明確にわかるところは、ぜひおすすめしたいポイントです。なぜなら、波の音は永続的に鳴っているのではなく「ザザー…..(スゥー)ザザァー….」と緩急があるからです。
川の音だとただひたすら「ザァー」と流れるだけで、プレーヤーの音量レベルを下げた時に雑音やノイズに聞こえがちです。音も明瞭で録音環境良し!寝る時に聴けばそこはもうカリブ海です。B面には波の音に加えて緩いウクレレの音が入っているのもメリハリがあって良いです。
作者不詳『野がうたう』
次は動物の鳴き声の代表格、鳥です!ホトトギスやカッコウなど有名どころの音源ではありますが、こちらも全編通してナレーションなどなくただひたすら鳥の鳴き声を収録したものです。
ただ流してるだけでどんな場面にもマッチします。特に朝、コーヒー飲みながらこれを聴いてたら仕事に行きたくなくなること間違いなし!有給休暇がすぐになくなってしまいそうですね(笑)。
こちらのレコードは2枚組で収録時間、内容共に満足感もあり、数ある鳥の鳴き声シリーズの中でもゲットしていただきたい一枚です。案外こういった鳴き声シリーズを他の音楽とマッシュアップしてクラブで流したら受けるのでは!?と密かに思っています。
伊勢さんのおすすめレコード
2000年生まれ。2020年にFace Recordsに入社し、現在は査定業務を担当。日々マイペースに、ジャンルや国、時代に捉われず、既存の枠を超えたようなレコードを探し求めている。
VA『DAM Binaural Recording Contest』
かつて存在した日本の家電量販店チェーン、第一家庭電器株式会社ことDAMが主宰した「DAMバイノーラル録音コンテスト」に寄せられた16トラックを収録。このレコードの正確なリリース年は不明ですが、ジャケット裏のライナーノーツを見ると、本コンテストの最優秀賞、優秀賞の録音が1976(昭和51)年、1977(昭和52)年である事、年越しの神社内の様子をバイノーラル録音した「昭和51年と52年にまたがる300秒」というタイトルのトラックがA-6に収録されている事から、収録された数々のトラックは1976年~1977年に録音されたものではないかと推察できます。
同シリーズのVol.1はコンテストの形式ではなく、空港内や動物園内、東京タワーのエレベーター内等でバイノーラル録音された環境音が収録されていますが、本作のVol.2はそのような環境音以外にも、バイノーラルの特性を利用し、ダミーマイクと発振器を用いて、頭の中で文字を書くという描写、夏の夜に寝ている最中に耳に入る蚊の音を再現したA-2「あるバイノーラルの2つの実験」(優秀賞)、エルヴィス・プレスリー(Elvis Plesley)がカヴァーした事でも知られるクイ・リー(Kui Lee)の大名曲、「I’ll Remember You」を1人5役での演奏をバイノーラル多重録音をしたA-4「たった一人の五重奏」(アイディア賞)等、独創的なアイデアを凝らしたバイノーラル録音のトラックが多数収録されています。
今でこそ、YouTube上でのASMR動画の流行などがありますが、半世紀近く前にバイノーラル録音が既に存在していた(しかも、本作に収録された音源は一般人による録音)のは驚き。本作はスピーカーではなくぜひヘッドフォンでお聴きください!
キングオーケストラ『新効果音楽大全集13 空想・幻想』
KING RECORDSが、1988年に発売した「新効果音大全集」シリーズの13番目にあたる7インチ。ジャケットをご覧頂ければ分かる通り、A面が「空想の世界」、B面が「幻想の世界」をテーマにしたものです。
この記事内において特筆しておきたいのは、B3の「SFの世界(ロ)」というトラックで、規則的に「ポンっ」というシンセの短めな単音が鳴りながら、低域から高域へ強烈に走るポルタメント*のシンセの音や、ワラワラワラ…と、怪しげな男女の声などがそこに混じっていく、という非常に面白いトラックです。
アンビエント的な感覚でも聴けるかもしれない。個人的にDJをする際にもよくかける大好きなトラックです。
*ポルタメント:ある音から別のある音へ移る際に、その変わり目がわからないよう滑らかに、徐々に音程を変える演奏技法。
The Mystic Moods『Erogenous』
音楽の中で環境音や効果音が使われているレコードをご紹介します。
1960年代から70年代にかけ、ムード音楽に環境音や効果音をコラージュした作風のレコードを数多くリリースした、ブラッド・ミラー(Brad Miller)主宰の楽団、ミスティック・ムード・オーケストラ(Mystic Moods)の1974年のアルバム『Erogenous(愛のためいき)』。私は日本独自ジャケットの1976年プレスの国内盤を所有しています。時折女性の喘ぎ声が小さく入りながら、いい感じのエレピ、いわゆるオクターブ奏法のギター、そしていかにもなサックスの効いた、メロウでゆったりとしたイージーリスニングの音楽に落雷音がドデカく鳴り、聴いていて勝手に情景が脳内で出現してしまうようなA面3曲目の「The Sound Of Love」というトラックが凄い(タイトルも凄い)んです。
また、メロウなエレクトリックピアノの効いたややファンキーなトラック(勿論、合間で落雷する)のA-5「The Other Side Of Midnight(真夜中のつぶやき)」 等、ソウル・ミュージックがお好きな人が喜びそうなトラックもいくつか収められています。環境音がとても高音質で収められていますが、1974年ということは、半世紀以上前の雨音がこんなに綺麗な音で聴けると思うと少し不思議な感じがします。できれば良い音響で聴いてみたい。
藍さんのおすすめレコード
Face Recordsでは広報を担当。高校生の頃からレコードを購入しており、まだ知らない名盤との出会いを求めて、ジャンルを問わず日々レコードを掘り続けている。
懐かしの蒸気機関車
小学生のころ、父親に買ってもらったEPレコードです。当時は子供用のポータブルプレーヤーで聴いていたので特に感動はありませんでしたが、大人になってちょっといいオーディオ機器をそろえた時に試しに聴いてみたら、その臨場感にものすごく驚きました。
B面が聴きどころです。レコードに針を落としてから一発目で聞こえるのが遠くで鳴る汽笛の音。この汽笛音だけで音楽以上にリアリティを感じて「おおっ!」とビビります。蒸気機関車が右から左に走りますが、レールのつなぎ目を通過する「ガタンゴトン」という音や、煙が出てから広がっていく音(雰囲気)、目をつぶって聴くと本当に目の前を通り過ぎる臨場感を感じることが出来て、「これ以上近づくと轢かれてしまいそう」な空気を感じてまたビビります。蒸気機関車が目の前を走る空気の流れも感じられる、これは音楽のレコードでは味わえない楽しさですね。
塩化ビニールの円盤に刻まれた溝を針がなぞって、その振動を音にして再生する。レコードの仕組みは簡単だけど「走る空気感まで再現できるレコードってすごいな」と思い、一層レコードが好きになりました。電車や蒸気機関車の中古レコードは比較的簡単に、安く手に入れることが出来ると思いますので、機会があったらぜひ聴いてみてください。電車マニアじゃなくてもその迫力に感動するはずです。
レコードで聴く環境音の特別感
そもそも環境音は特殊な音源を除いて、ちょっと頑張れば生で本物の音を聴けるものが多いので、別にレコードで聴かなくても生で聴けばいいんじゃないのか?と思う人もいると思います。でもレコードで聴くのがいいんです。
環境音や効果音のように誰でも生の本物の音に触れられるものだからこそ、レコードで聴くことの意味が明確になります。オーディオの電源を入れて、レコードをジャケットから取り出してターンテーブルに置く、針を落としてボリュームを上げる。スピーカーから波の音が聞こえてくる。この手間と、音をレコードとして所有していつでも好きな時に再生できること、ボリュームを上げたり下げたり、音をコントロールできるという点が生の環境音を聞くこととの差なのだと思います。これがレコードを聴く楽しさにつながっています。
環境音や効果音のレコードを聴くことで、リラクゼーションとストレス軽減、集中力の向上、 想像力や創造性の刺激、懐かしさやノスタルジーの喚起、睡眠の質の向上といった心理的効果が得られると言われます。しかしおそらく、環境音や効果音のレコードを聴くことで得られるストレス軽減や集中力向上などの心理的効果はおまけのようなものではないでしょうか。
レコードというフォーマットは、ただ音を再生するだけではなく、その過程すべてが特別な体験を生み出します。環境音や効果音のレコードもその例外ではありません。音楽とはまた違う感動や新たな発見があるのも、レコードならではの魅力です。ぜひ、あなたのお気に入りの環境音レコードを見つけてみてください。
Face Records
”MUSIC GO ROUND 音楽は巡る” という指針を掲げ、国内外で集めた名盤レコードからコレクターが探しているレアアイテムまで、様々なジャンル/ラインナップをセレクトし、販売/買取展開している中古盤中心のアナログレコード専門店。1994年に創業し、現在は東京都内に3店舗、札幌、名古屋、京都に各1店舗、ニューヨークに1店舗を展開。廃棄レコードゼロを目指した買取サービスも行っている。
Words: Takayuki Ai