音楽作品の傾向や内容を形容する時によく使われる言葉があります。 例えば、「アヴァンギャルド」や「前衛的」、「古典」もしくは「古典的」などです。 これらの言葉は、なんとなく意味が分かるようで掴みにくかったり、そもそもの語源が気になる言葉ですよね。 今回はそんな言葉たちの解釈を、音楽家、録音エンジニア、オーディオ評論家の生形三郎さんに解説していただきました。

前回の記事はこちら

革新的、もしくは抽象的な作風を指す「アヴァンギャルド」

語源を辿るとそもそも、アヴァンギャルド=avant-gardeとはフランスの軍隊用語で、前(最前線)を衛(まもる=守る)という意味から来ているようです。 その後、音楽は勿論、アート全般、思想や政治などの分野でも使われるようになりました。

「最前線」という意味、つまりは「新たな発想やアプローチで音楽の最前線を切り開くもの」に使われるようになったわけですね。 クラシック音楽を中心としたアカデミックな音楽の世界で言えば、おもに第二次世界大戦後の音楽を指す言葉でもあります。

第二次世界大戦後は、以前にご紹介したミュージック・コンクレートといった音楽が隆盛する時期とも重なります。 この時代のクラシックの最先端の音楽は、テープを使った磁気録音や音響編集技術など、時に新たなテクノロジーをも貪欲に取り込んで、これまでにない音楽を作り上げようという熱気に溢れていました。

革新的、もしくは抽象的な作風を指す「アヴァンギャルド」

やがて1960年代になると、それらが行き過ぎた結果として、解釈が極めて困難な音楽に行き着くと同時に、新しいアプローチも手詰まりの状態となり、その流れが破綻を迎えることになります。

よって、正確には「アヴァンギャルド」というと第二次世界大戦後はから1960年代くらいまでの音楽を指す言葉ですが、転じて、革新的であると同時に理解が困難であったり、抽象的な作風を指す言葉として定着していると言えます。

他に、狭義の意味として、音楽を含む、20世紀初頭のロシアの芸術運動を指す「ロシア・アヴァンギャルド」という枠組みも存在します。

ちなみに、オーディオ関係では、Avantgardeという、ドイツのオール・ホーン型の高級スピーカーブランドも有名です。 車で言えばメルセデス・ベンツのモデル名の一部でも「アヴァンギャルド」という単語が使われていますね。

Image by aapsky(via stock.adobe.com)
Image by aapsky(via stock.adobe.com)

両者ともに、言葉の語源となるフランス語圏の国ではなく、時にフランスと強烈なライバル関係となるドイツのブランドが用いていることも、いかにその言葉が国を超えて浸透しているかを表してると言えます。

17世紀〜19世紀はじめにかけての芸術「古典」

古典という言葉はその名の通り、広くその分野の礎となるような存在を指す言葉です。 よって、ジャンルごとに古典と呼ばれる存在があるといえます。

一般的に広く使われる「古典的な~」という形容の意味はもちろんのこと、例えば、芸能の邦楽分野で言えば、江戸時代に成立した伝統的な邦楽作品を「古典邦楽」といって区別したりと、明確な定義がある場合もあります。

また、ヨーロッパを中心とした芸術の分野で「古典」という場合は、一般的な言葉の意味での上記の言い回しに加えて、芸術様式を指す「古典主義」という概念が存在します。 これはギリシア・ローマの文化を理想として、その形式美や格調の高さなどを再現しようとする、おもに17世紀〜19世紀はじめにかけての芸術的な潮流や傾向を指します。

さらに、紛らわしいのですが、いわゆるクラシック音楽の分野で「古典」というと、上記の「古典主義」のような古代への復帰を意味するものではなく、あくまで西洋音楽史上の古典として捉えて「古典派」の音楽と括られるものを指します。 誰もが知るベートーヴェンやモーツァルトの時代の音楽ですね。

この時代は、クラシック音楽の色々な基礎が固まった時期でもあるので、まさに「古典」な時代なのです。 以前のクラシック音楽の記事でも書いたように、「調性」と呼ばれるハーモニーの理論であったり、「ソナタ形式」とか「交響曲」といった、音楽の基本フォーマットが出来上がった時代です。

17世紀〜19世紀はじめにかけての芸術「古典」

よって、クラシックの場合に古典といった場合は、一般的にはこの時代の音楽を指します。 細かく見ると前古典派という括りも存在したり、ベートーヴェン最後期のまさにアヴァンギャルド(!)な作品は次の時代のロマン派に区分けされるのですが、おもにはハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンの3人を代表選手とするウィーン古典派と呼ばれる作家の音楽が要となります。

この時代は音楽都市としてウィーンがクラシック音楽の先端をいっており、他にも数多くの作曲家が活躍していましたが、この3人の作品は古典派様式としての完成度が極めて高く、圧倒的に有名な存在と言えます。

なお、 J.S.バッハの長男ヴィルヘルム・フリーデマン・バッハや末子カール・フィリップ・エマヌエル・バッハ、ハイドンの弟ヨハン・ミヒャエル・ハイドンや、モーツァルトの子どもフランツ・クサーヴァー・モーツァルトなども古典派の作曲家です。 今で言うところの2世作家ですね。 中でも特に、大バッハの末子であるカール・フィリップ・エマヌエル・バッハの作品は、現代でも人気がありリリースや演奏機会も多いと言えます。

実際に音楽を聴くとお分かり頂けると思いますが、シンプルな3和音を主体とするハーモニーが特徴で、それらを「古典和声」とも呼びます。 音楽大学の作曲科の基礎科目としても古典派和声を学ぶ場合も多いですが、これらはいわゆる一般認識的な「クラシック的な響き」と言えます。 まさに「古典」ですね。

今回は、「アヴァンギャルド」と「古典」のご紹介でした。

Words:Saburo Ubukata