「ドンシャリ」や「フラット」など、たくさんの音楽情報を目にする中でよく出てくる用語があります。 これらは音に関する感覚的な部分であり、人によって感じ方や表現方法が異なるかもしれませんが、ここでは一般的な解釈のポイントを、音楽家、録音エンジニア、オーディオ評論家の生形三郎さんに解説していただきました。
グラフの形がキーポイント
イヤホンやヘッドホン、スピーカーなど、音響機器はそれぞれ、固有の音質的な特徴を持っていますが、音色のバランスを表す言葉として、いくつかよく耳にする言葉があります。 「ドンシャリ」や「かまぼこ」、「フラット」や「モニター的」などがそれです。 これらはおもに音色のバランスを表す言葉ですが、それらを説明する上で重要となるのが「音圧周波数特性」という概念です。
「音圧周波数特性」(単に周波数特性とも)は、音響機器が持つ音色バランスを表すグラフのことで、音の高さ(周波数)を横軸、音の強さ(音圧)を縦軸に表すものです。
均一な音の波形「フラット」
音圧周波数特性は、低い音から高い音まで均一なエネルギーを持った信号をその音響機器に送り込んだあとに、その音響機器から出てくる信号を計測した結果をグラフにしたものです。 つまり、入れた信号と出てきた信号との差を見ることで、その音響機器がどのような特徴を持っているかを知るわけです。 そして、その特徴を表現するのが、先に挙げた音色バランスを表す言葉たちなのです。
例えば、「フラット」という表現は、このグラフに描かれる特性が、低い音から高い音まで一直線=平坦に近いバランスを持ったものに対して呼びます。 すなわちこれは、入力と出力が等しい傾向と言え、音圧周波数特性としては、忠実な再現力を持っていると言えます。
また、「フラット」と類似するものとしては「モニター的」、「モニターライク」という表現があります。 これは、モニタースピーカーやモニターヘッドホンと呼ばれるものに由来します。 それらは音楽制作時に音をモニタリングするために使われる音響機器で、音の判断がし易いように、理想的にはフラットな音圧周波数特性を持っている必要があるものです。 よって、フラットやモニター的ということは、音色を表す言葉としては、概ね同義と捉えてよいでしょう。
なお、これはすべてのワードに関して言えることですが、これらの言葉は、良い意味でも悪い意味でも使われます。 すなわち、フラットは音楽ソースに対して正確で忠実なバランスとも言えるけど、個性がない、無味乾燥といった意味でも言われることもあります。
高音と低音が特徴的な「かまぼこ」
一方「カマボコ」と呼ばれるものは、音圧周波数特性図が、かまぼこの断面のような形をしたものを呼びます。 つまり、低い音と高い音の音圧が低いバランスを持ったものです。
似た表現として、「ナロー」や「ナローバンド」(バンド=帯域)などもあり、これはカマボコと同じく上と下がないバランスや、特定の帯域のみが聴こえるようなバランスを指します。 ただ、カマボコが、どちらかというと「聴きやすい」といった好意的な音質表現に多く使われるであろう言葉なのに対して、ナローは、「帯域が狭い」といったような、ネガティブな意味合いで使われる言葉と言えそうです。
「ラジオのような音質」という形容がありますが、これは小型のラジオから聴こえているような、声の帯域だけが聴こえるようなナローな音を指すものです。 いわば、極度のカマボコ型ということもできるでしょう。
また、カマボコ型の、上の方が下がっている特徴のみを持ったものを「ハイ落ち」と呼んだりもします。 つまり、高域だけが弱められた、穏やかな音質ですね。 高域のエネルギーが落ちると相対的に低域が大きくなり、温かみのある音やしっとりとした音傾向に繋がると言えます。
サウンドスタイルを表す言葉として使われるようになった「ローファイ」
ほかに、ナローに近いものとして「ローファイ」という呼び方もあります。 ローファイとはハイファイの対義語で、ロー・フィデリティ(Low Fidelity)=忠実度が低いという意味です。 つまり、再現できる帯域が狭く、入力した音に対する出力の忠実度が低いことを指します。 しかしながら、それが「心地よさ」や「音のインパクト」に繋がる場合も多々あり、機器の音だけでなく、音楽コンテンツの音質を表すひとつのサウンドスタイルとしても用いられるワードとなっています。
メリハリがわかりやすい「ドンシャリ」
最後に、定番ワードの王道(?)ともいえる「ドンシャリ」という言葉は、「ドン=低音」と「シャリ=高音」が目立つ音のバランスを指すものです。
つまり、音圧周波数特性としては、低い音と高い音が盛り上がっている音です。 概して派手な音質を指します。 好みが分かれるところでしょうが、メリハリのある分かりやすい音とも言えるでしょう。
なお、音圧周波数特性というのは、あくまで音色バランスをひとつの側面から表したものに過ぎません。 よって、同じような音圧周波数特性であっても、音質そのものや音色の感じ方としては、大きく異なる場合が多々あります。
ほかにも、音質を表すワードはたくさん存在すると思いますが、今回は代表的なものをご紹介してみました。
Words:Saburo Ubukata