大きさやその形など、トーンアームの種類はさまざまです。 さらには支点の構造にまでこだわると、音の深みは無限大に変化します。 そんなトーンアームのイロハについて、オーディオライターの炭山アキラさんに詳しく解説していただきました。

「レコードプレーヤーのキーパーツというべきトーンアームについてはこちらの記事をご参照ください。 今回は改めて、もう少し詳しく取り上げてみましょうか。 」

トーンアームの形状は3タイプ

まず、トーンアームの形式について。 トーンアームにはいろいろな形があり、大ざっぱにはストレート型、J字型、S字型に分かれます。 オーディオテクニカのプレーヤーでいえば、AT-LP60XAT-LP3XBT BKAT-LPW50BT RWなどはストレート型、AT-LP7はJ字型、AT-LP120XBT-USBはS字型となります。 それではなぜそういうバリエーションが生まれたのでしょうか。

もしトーンアームが完全にまっすぐな一本棒であったなら、ベストに調整してもカートリッジの針先はレコードの最外周と最内周で、音溝と大きく斜めに接してしまうこととなります。

その問題を解決するために、カートリッジをトーンアームの中心から向かって左に傾けることが考案されました。 これで完全に正確とはいかなくても、ほぼ音溝と針先はまっすぐ向き合うことが可能になります。 この角度を「オフセット角」と呼び、オフセット角をどうつけるかによってJ字型やS字型のトーンアームが生まれました。

J字型

ならばなぜ大きく3種類に分かれたのでしょうか。 アームのパイプを1回曲げることでオフセット角を設けたJ字型は、製作法がシンプルで精度を高めやすいという利点がある一方、サポートにかかる重量配分が非対称となり、水平方向のバランス(ラテラルバランス)調整が加わってしまうことがあります。 極めて微細な項目なのですが、そういう調整が時に音へ大きく影響してくるのもレコード再生の難しく、また面白いところです。

S字型

一方、サポートの重量配分を左右対称とするために考え出されたのがS字型のトーンアームです。 これでラテラルバランスの調整は必要なくなりましたが、一方で工程が複雑になって製作コストが大きくなり、またパイプを曲げるという力学的な不安定さを2カ所に抱えることが音質へ悪影響を及ぼすという考え方もあり、他の方式を駆逐することはありませんでした。

ストレート型

パイプを曲げることによる不安定さを嫌い、まっすぐなパイプの先端、カートリッジを取り付ける部分のみへ角度をつけたのがストレート型です。 シンプルで強度が高く、その意味では理想的なトーンアームなのですが、この方式は残念ながらユニバーサル型のヘッドシェルを取り付けることが不可能となります。 前にもお話しましたが、特に海外製の一部製品はヘッドシェルの取り外しができず、カートリッジの着け外しに細心の注意を払わなければなりません。

ストレート型トーンアームの中には、オフセット角すらつけられていない「ピュアストレート型」と呼ばれるものも少数ながら存在します。 このタイプはストレート型でもユニバーサル・タイプのヘッドシェルを取り付けられるものが大半で、そういう意味ではとてもありがたい製品ですが、もちろん針先と音溝との角度が外周と内周で大きく違ってしまいます。

ピュアストレート型トーンアームがその問題をどうやって解決しているのか。 何とそれはトーンアームではなく、カートリッジの方が解決してくれているのです。 大半のカートリッジは、カンチレバーがある程度斜めになってもちゃんと音楽が再生できるもので、カートリッジ側が許容する誤差の範囲内へ外周と内周、特に誤差が大きくなる最内周を収め込んで使用するのがピュアストレート型です。

そのためピュアストレート型は調整が至って難しく、上級者向けのトーンアームですが、近年少しずつ採用するメーカーが増え、小さいけれど見逃せないくらいの勢力となってきています。

トーンアームの長さ

また、アーム部分の長さもトーンアームの大切な要素です。 世の中にはプレーヤーに付属しているもののほかに、単品発売されているトーンアームがありますが、それらは9インチ(支点から針先までの長さ約220~230mm)、10インチ(同240~250mm)、12インチ(同300~310mm)くらいに収まったものが多く、ごく少数そこから外れた商品があるという格好です。

9インチのトーンアームは、LPレコードとほぼ同じ直径30cmのプラッターからすぐ脇へ設置して無理のない最小の長さ、という構成です。 一方、12インチのトーンアームというのは、今はもう廃れてしまった直径40cmのLPレコードをかけるために用意されたのが最初です。 40cmLPは一般にはほとんど出回りませんでしたが、放送局用などに一時期製造されていました。

それならなぜ、もう使われていない40cmLPのための12インチ・トーンアームがいまだ生産されているのでしょうか。 しかも、それらの多くは今なお根強いファンがいて、製品を支え続けているのです。

長いトーンアーム、短いトーンアーム

これはあくまで大ざっぱな方向性で、すべての製品に当てはまるものではないことをお断りしておかなければいけませんが、9インチ・トーンアームは針圧が軽くて針先が動きやすいカートリッジ、12インチは重めに針圧をかけてやるタイプのカートリッジへ向く傾向があります。

世の中には軽針圧のカートリッジをこよなく愛する人がおいでの一方で、4gもの針圧をかける古典的な設計のカートリッジへも根強いファンがいます。 そんな両極端のカートリッジを愛する人たちにとって頼りになるのが、前者には9インチ、後者には12インチのトーンアームというわけです。

そういうわけで、高度なマニアの中には1台に長短2本のトーンアームをマウントした自作のプレーヤーを愛用している人もおいでです。 私自身も愛用のカートリッジには適正針圧1gのものも4gのものもありますから、そのうちそういうプレーヤーを製作してやろうと考えているところです。

それでは、10インチのトーンアームはどういう用途に向くのでしょうか。 このタイプは文字通り折衷的というか、軽針圧と重針圧どちらのカートリッジにもしっかり対応することを目指したものといってよいでしょう。

オーディオテクニカのプレーヤーでは、例えばAT-LP3XBT BKのトーンアームは支点から針先まで240.5mm、AT-LPW50BT RWは242.2mm、AT-LP120XBT-USBは246.5mmですから、いずれもほぼ10インチ・アームということになりますね。 どれも汎用性が高く、使いやすいトーンアームが搭載されているといってよさそうですね。

トーンアームの支点のいろいろ

トーンアームの支点(サポート)にもいろいろな方式があります。 最も一般的なものは、トーンアームの縦方向と横方向の動きをそれぞれ独立したベアリングで支えるタイプで、特に縦横の支点を十字に組み合わせた方式は、2軸式の地球儀になぞらえて「ジンバルサポート」と呼びます。 精度を高めるには細心の調整を要する方式ですが、カートリッジの動きやすさ(感度と呼びます)を高く取りながらしっかり安定させることのできる方式です。

とても鋭利な山の頂上を、こちらも精度の高い三角断面の溝で支え、上下方向のサポートとしたものを「ナイフエッジ式」といいます。 こちらは物理的な精度さえ確保しておけばほとんど調整なしに極めて高い感度が得られます。 山と溝の工作精度が命というべき方式ですから、比較的高価な製品に採用される傾向がありますが、オーディオマニアに人気の高いサポートです。

ひとつの鋭利な先端を1点の窪みで受ける、「ワンポイント・サポート」というものもあります。 上下/左右方向とも感度は最高の方式ですが、J字型よりもさらにラテラルバランス調整が難しく、また左右方向へふらつかないようにセッティングを決めるのも高度なテクニックを要する、最もシンプルかつ上級者向けの方式です。

これまで解説したサポート方式には、それぞれ粘り気の強い油脂を使って急激な動きを抑える「オイルダンプ」という機構を備えているものがあります。 上手くツボへはめることができれば大変な高音質を得ることができる方式ですが、一歩外すと穏やかなばかりで生気のない音になってしまいがちで、こちらも上級者向けということができます。

トーンアームというものは、解説を進めれば進めるほど、泉のように話題があふれてくるものです。

Words:Akira Sumiyama

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