この世の万物は常に変化するもの。 時に時間は物を劣化させますが、その原因を知っていれば、取り返しがつかなくなる前に気をつけることができれば、大切なオーディオ機器を長く使い続けることができるかもしれません。 前回、アンプの故障は落雷や内部回路の損傷、あるいは電源パーツの劣化によって引き起こされることがあることをご紹介しました。 真空管アンプはこれらの要因に加えて、そのシンボルともいえる「真空管」が故障の原因となってしまう場合があります。 今回は真空管アンプが壊れる原因について、オーディオライターの炭山アキラさんに解説していただきました。

アンプが壊れる原因について、詳しくはこちら

真空管アンプは寿命が短い?

ここまでは主にソリッドステート・アンプの話でしたが、真空管アンプにはまた別の故障ポイントがあります。 他でもない、真空管そのものです。

地球の赤道上空3万6,000kmに人工衛星を打ち上げると、見た目には静止して見える。 これを静止衛星ということはご存じかと思います。 これを世界で最初に発案し、全世界が衛星回線でつながるという論文を書いたのは、SF作家のA.C.クラークでした。 1945年のことです。

しかしクラーク博士は、まさか20世紀中にその構想が実現するなんて思っていなかったとか。 「だって、静止衛星には人間が乗り込まなくちゃいけないと思っていたんだ。 通信回路の真空管を取り替えなきゃいけないだろう?」
今となっては笑い話ですが、クラークが静止衛星を構想した頃、まだトランジスターは知られていなかったのですね。

この話から分かることは、「真空管はトランジスターよりずっと寿命が短い」ということです。 実のところ、それでも結構真空管は長持ちなのですが、トランジスターよりも寿命のバラつきが大きく、たまに短命な個体が混じってしまうことがあるというくらいに考えておいていいでしょう。

真空管の交換目安は、ゲッターの輝き具合

というわけで、真空管アンプは定期的に球を交換してやらなければなりません。 それでは、球の交換時期をどう見定めるか。 多くの真空管は頭頂部が銀色に光っています。 これはゲッターと呼ばれるもので、動作させていると真空中に増えてくる不純物を吸着する働きがあります。 ゲッターの輝きが失せてきたら、その球はそろそろ寿命が近いと考えてよいでしょうね。

真空管の交換目安は、ゲッターの輝き具合

挿す方向、絶対に間違えないで!

真空管アンプ、中でも300Bや2A3などの直熱3極管アンプでは、もう一つくれぐれも注意したいポイントがあります。 それらの真空管は4本足で、足の太さを変えて挿す向きを間違えないようにしているのですが、それでも意外と間違った向きで刺さってしまうソケットがあるものです。

実は私も若い頃にその差し間違いをやらかしてしまい、某社の高級パワーアンプをテスト中に真っ黒な煙を噴出させたことがあります。 大慌てでメーカーに連絡して平謝りしたら、何とその社では「そんなこともあろうかとね」と、挿し間違えてもすぐ横へ組み付けてある小さなコンデンサーが爆発するだけで、メイン回路と真空管の内部へ累が及ばない設計になっていて、メーカーの社長に苦笑いされるくらいで済んだことに、心底ホッとしたものです。

くれぐれも言い添えますが、そんな親切設計のアンプばかりではありませんし、そのアンプにしてもメーカー修理は必要でしたから、皆さんも3極管を装着される際には、慎重の上にも慎重を期して確認して下さいね。

Words:Akira Sumiyama

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