この世の万物は常に変化するもの。 金属や木材のように、時の経過とともにエイジングで格好良くなっていく場合は喜ばしいことですが、残念ながら時の経過は摩耗や劣化、ひいては故障を引き起こします。 しかしその原因を知っていれば、取り返しがつかなくなる前に気をつけることができれば、大切なオーディオ機器を長く使い続けることができるかもしれません。 今回はスピーカーが壊れる原因について、オーディオライターの炭山アキラさんに解説していただきました。
スピーカーはなぜ壊れるのか
いろいろな機器の買い替えを繰り返し、ようやく自分の好みにしっくりくるオーディオ装置がそろえられた。 これでもう機材選びは “上がり” 、ずっと楽しめるぞ。 こんな境地に達することのできた人は、とても幸せだと思います。 機械に思い悩む必要なく、音楽を楽しむことに専念できるわけですからね。
しかし、そんないい時期は残念ながらそう長く続きません。 昨日まで調子良かったのに、今朝から何となく音がおかしい、ということが時折起こったり、仕舞いには音にひどい歪みが乗ったり、音が出なくなったり、稀なことですが機材から煙が出たり……。
今回から何度かに分け、「オーディオ機器はなぜ壊れるのか」について話していこうと思います。 まずはスピーカーから、話していきましょうか。
エッジのウレタンが加水分解
スピーカーから音が出る部分を「スピーカーユニット」といいます。 その中でも「コーン型」と呼ばれる、浅めのすり鉢みたいな形をしたユニットは、すり鉢型の振動板を外周で支える「エッジ」と呼ばれる部分が傷みやすいものです。 コーン型は特に振幅が大きくなりがちのウーファーやフルレンジで用いられることが多く、大きな振幅の時でも振動板の動きを妨げることができるだけないように、素材が厳選されています。
そういう用途に適しているのが発泡ウレタンで、非常に多くのメーカーが採用しています。 ところが、この発泡ウレタンという素材は直射日光や湿気に弱く、経年劣化でまずヒビが入り、そのまま使っていると粉々に崩れて消失してしまいます。 製品や使い方、使用環境にもよりますが、まぁ10〜20年もすると危ないとみて間違いないでしょう。
エッジには、他にも布製やゴム製のものがあります。 こちらなら大丈夫かというと、布エッジは薄く含侵してある気密・柔軟剤が劣化して硬化したり気密が抜けてしまったり、ひどい場合は接着剤が劣化して振動板からはがれてしまったりすることがあります。 ゴムエッジは比較的劣化しにくいように感じていますが、それでも長期的には硬化やひび割れの可能性が拭えません。
そんなことでは困るじゃないかとお嘆きの人が多いと思いますが、大半のエッジは補修が可能です。 オーディオ業界の側からいえば、ここで買い替えていただけるとありがたいものではありますが、あなたが心から気に入ったスピーカーであるならば、メンテナンスを得意とする販売店や工房へ、修理を依頼するのがよいのではないでしょうか。
センターキャップが凹む
スピーカーの故障は、エッジばかりではありません。 最もよくある故障というか悲劇は、「子供に振動板を突っつかれて破損すること」でしょうね。 特にコーン型振動板の中心部にあるドーム型の突起(センターキャップといいます)は、小さなお子さんには「押しボタン」に見えてしまうようで、多くの場合押す衝動が抑えられないようなんですね。
残念ながら押しボタンと違ってセンターキャップは押したが最後、凹んでしまって復元してはくれません。 見た目は大変悪くなりますし、音も特に高域側へ悪影響が出ることがあります。
この場合も一部の製品、特に高級スピーカーでは「リコーン」といって振動板をまるまる交換することが可能です。 費用はかかりますが、長年使って日に焼けたりシミが出たりしたコーンが新品当時の姿に戻るのは、気持ちのいいものでもありますよ。
しかし、あまり費用もかけていられない、ということでしたら、簡易的に以下の方法があります。 ガムテープなど、粘着性の強いテープを凹んだ部分に張り、引っ張って凹みを元に戻すのです。 この方法はあまり成功率が高いとはいえず、特に凹んでから時間が経過すると復元は大変難しくなります。 また、強く引っ張りすぎて却って振動板を破損する可能性もありますから、お試しになるならあくまで自己責任でお願いしますね。
ユニットの内部の断線
他にスピーカーが壊れる原因というと、あまりにも大きな音を出し過ぎた結果、ユニットの内部配線が焼け、断線してしまうことがありますが、これは小さなスピーカーを無理に大きな空間で使ったりしなければ、まず起こる可能性は低いでしょう。
私が愛用しているスピーカーで起こった断線の事例は、20年近く使ったフルレンジ・ユニットのボイスコイル(磁場の中へ配されたコイルに音楽信号を流すことで、ユニットが振動して音楽が流れる)と入力端子の間にある錦糸線と呼ばれる導線の周辺でハンダ付けが劣化し、音が出たり出なかったりするようになってしまったことがあります。
しかし、これもかなりのレアケースだと思います。 私はかなりの大音量派で、ユニットが大きく揺さぶられることによって、錦糸線の周辺にも大きなストレスがかかっていたでしょうからね。
大きな音を出し過ぎるという点でいうと、ボイスコイルを巻いてあるボビンが熱や振動で変形して磁気回路(コイルに磁力を与えるためのもの)のギャップへ接触するようになり、ガリガリ、ジャリジャリと耳障りなノイズを発してしまうようになることがあります。
ボイスコイルの断線やボビンの変形は、リコーンと同じようにパーツ交換で直せる場合もありますが、場合によってはユニットそのものの交換が必要になることもあります。
大半の故障は修理できる
エッジの経年劣化やお子さんによるセンターキャップの破損以外は、相当無茶な使い方をした結果、起こることといって間違いありません。 また、故障の大半は修理でほぼ元通りに直せる治せるものです。
また、スピーカーというものは使わなければむしろ劣化が進むものです。 皆さんも「生涯の伴侶」と惚れ込んだスピーカーと巡り合われたら、大いにお好きな音楽を歌わせてあげて下さいね。
Words:Akira Sumiyama