この広い地球には、旅好きしか知らない、ならぬ、
音好きしか知らないローカルな場所がある。そこからは、その都市や街の有り様と現在地が独特なビートとともに見えてくる。
音好きたちの仕事、生活、ライフスタイルに根ざす地元スポットから、地球のもうひとつのリアルないまと歩き方を探っていこう。今回は、ノルウェーのベルゲンへ。
出身地のノルウェーだけでなく、世界中のインディーポップ好きに愛されるバンドKakkmaddafakka (カックマダファッカ)。ノルウェー西岸にある港町、ベルゲンを拠点に活動する5人組。
メンバーは、Axel(ヴォーカル/ギター担当)と Pish(ヴォーカル担当)のVindenes兄弟と、Kristoffer Wie van der Pas(ドラム担当)、Stian Sævig(ベース担当)、Sebastian Kittelsen(キーボード担当)。みんな幼稚園時代からの幼馴染み。センチメンタルでメランコリックで、でもどこか庶民的な親近感もある(地元の体育館でライブをしている動画のせい?)彼ら。ちょっと影があるけどそれでいてユニークな、リアルなノルウェーの歩き方を覗こう。
メンバーとは幼いころから家族ぐるみのつき合いだそうで。
メンバーは僕ら兄弟と、家族ぐるみで仲良かった友だち。幼稚園から一緒なんだ。
長いつき合いだね。なにがきっかけで音楽をはじめたの?
うーん。なんか僕たちにとっては(音楽をはじめるっていうのは)とても自然なことだったんだよね。僕らが得意なことって、音楽しかなかったからさ。だから、バンドとして(2004年に)活動をはじめた。
学生時代はバンドメンバーでよく遊んだりした? いつもよく遊んでいた場所とか知りたい。
20代前半の頃によく行ってたバーがあってね。バンドメンバーでほぼ毎日通ってた(笑)。ほかのバンドの奴にそこで会ったり、ベルゲンにいる若者と知り合ったり。
なんていうバー?
あ、でもね、そこのバーは2012年に閉まっちゃったんだ。
残念。最近はどんなところに飲みに行く?
「Cafe Legal」っていうパブにメンバーたちとよく行くよ。若者だけじゃなく、老人も訪れるいかにもなパブって感じのところ。店員とも顔見知りの仲だから、居心地がいいんだ。そこに行って一杯やるのがみんな大好き。
若者だけじゃなくて、いろんな人がいる飲み屋って飽きないよね。
僕ら、いろんなものや人から音楽のインスピレーションを受けることが多いんだ。バーで出会う人たちもそう。僕らのベルゲンに対する気持ちを綴った曲が『Never Friends』だからこの曲はぜひ聴いてみて。
『Never Friends』
わかりました。ベルゲンでの夜の遊びかたって、どんな感じか気になる。
ベルゲンの人たちはパーティーが好きだよ。日曜日だろうが、月曜日だろうが、常に街のどこかでパーティーが開催されていて、気軽に参加できる感じ。
へえー。普段の、ベルゲンでの昼間の生活はどう?
うーん、僕たちは18歳頃からツアーでバンドメンバーと一緒に、ヨーロッパを中心に世界中を飛びまわっているからなあ。ベルゲンにいるときはシンプルな生活を送りがち。
ツアーから帰ってきた時に感じるべルゲンのよさとかってあるのかな。
町が綺麗なこと。自然がいっぱいで美しい。それに、イカした人が多いんだよ。僕らのスタジオは、少し町に行ったところにあるから、そこまで行けば都会の雰囲気に近いものもまあ一応味わえるし。1ブロック行ったらクラブが2軒もあるような東京やニューヨークに比べればかなり小さな町だけれど、僕には十分かな。
自然に囲まれた地元ととスタジオの行き来の暮らしか。いいね。逆に、ベルゲンのあんまり好きじゃないところは?
天気。ベルゲンの天気は嫌いだよ。だって、いつも雨なんだ。それに超寒い。だからそういうのもあって、音楽制作に取り組むしかないんだよね。
音楽制作はいつもスタジオで?
「USF verftet」っていうスタジオがお決まりの場所。バンドメンバーみんなの家から近いから。かれこれもう10年以上通ってる。おそらく3、4アルバムくらいはこのスタジオで制作したんじゃないかな。自分のグランドピアノもここに置いているよ。
スタジオのそばにあるカフェ兼レストラン「Kippers Bar & Kafé på USF Verftet」もいい。僕はコーヒーもティーも飲まないから、普段はカフェには行かないけれど、そこにはベーコンエッグサンドやドーナツを買いに行く。
雨の日のドーナツって好きだなあ。行きつけの音楽機材屋とかはどう?
「4SOUND BERGEN」。僕が子どもの頃から通い続けているギターショップ。イカしたギターがいっぱいあるし、働いている人もみんなとても温かい人たちばかり。
幼い頃から通っている場所ってやはり特別。
そりゃ、大都市のギターショップと比べたら少し劣るかもしれないけれど、僕はこの店で大満足。
きっとギターショップのオーナーは我が子を見るような目でバンドを見守っているんじゃないかな(笑)
いまでもツアーに行く前はギターを整えてもらったりするんだ。
日常でよく行くご飯関係も知りたい。
ベルゲンはとっても小さな町だから、レストランでオススメできるところはないかなあ
(笑)町のみんなが行く魚市場「Fish Market」があるよ。新鮮な魚を買うならここ。タラや鮭がベルゲン名物!
いいねえ。ノルウェー仕込みの魚料理は?
Bacalao(バカラオ)っていうんだけれど、魚を乾燥させて食べるのがノルウェー流!
へえー。じゃ、お休みの日の過ごし方も教えて。
オフの日は早起きして、兄弟のPishを連れてサウナに行ったりする。リラックスしながら、ふたりでたらたら話をするんだ。
朝からサウナって健康的。
自宅にサウナがあるんだよ。昨年、両親の家と自分の家の庭に、サウナを建てたんだ。
自作?
すごいでしょ? キャビンにもサウナがある。ノルウェーでは家にサウナがあるのが一般的なんだよ。
いいなあ。練習とか、それこそツアーから帰ってきての自宅サウナは、最高に気持ちいいだろうな〜。
もう最高。忙しい日が続いたあとのオフ日を“Axelexing day(アクセレキシング・デー、リラクシングデーと自分の名前Axelをかけて)”って呼んでいるんだ(笑)。その日はリラックスすること以外はなーんにもやらない。「今日はAxelecing dayだからなにもしないんだ、悪いね」って感じ(ドヤ顔)。僕もたまには、電池交換しないといけないしさ。
充電じゃなくて電池交換! 斬新な表現がいいですね。ノルウェーといえば広大な山々が思い浮かぶんだけど、お気に入りの山なんて…あったりする?
ベルゲンは7つの山に囲まれているんだけど、そのうちのひとつの山によく行く。「Fløyen」という山。
よく行く山があって羨ましい。アクセスしやすいって、やっぱ大事。Fløyenはハイキングで有名なスポットだよね。頂上からは美しい町並みも眺められるとか。
そう。登山させたり、犬を連れて一緒に散歩したり、山での時間は僕にとって瞑想のようなもの。心も体もいきいきするし、ポジティブに考えられるようになるんだ。(冬場は)スキーをすることもできるしね。
年間を通して、山。身も心も健全になれるのはいいこと。
時々、兄弟のPishと「Viking Gymnastics & Dance」っていうジムに一緒に行って、エクササイズもするよ。日曜日の午前中に行くことが多いかな。
MV『Restless』でも体操用の体育館みたいなところで、体操服着て踊っていたよね。もしかして、撮影現場はこのジム?
残念ながら『Restless』の体育館はベルゲンじゃないんだ。いまのところベルゲンで撮影されたMVは『Neighbourhood』『Sin』あと『Gangsta』の3つ。そのなかでも『Neighbourhood』はうまくベルゲンが映せていると思うよ。魚とか傘とか石畳とか、ベルゲンを代表するようなものを取り入れたんだ。
『Neighbourhood』
つねに曇りがかった天気と俳優さんのユーウツそうな顔が、いかにもベルゲンの空気感って感じ。
僕らの、まるで海賊みたいなアティチュードはこのベルゲンという町からきているんじゃないかって思うよ。この町の人は、なんだかみんな海賊のようなんだ。大人数で集うのが大好きで、パーティーをするのも大好き。でも、みんなどこかメランコリック。この町はいつも雨だから、憂鬱と隣り合わせの24/7。僕たちだってまさにそう。そんな感じでずっとここに住み続けているんだよ。
Kakkmaddafakka /カックマダファッカ
幼少期の幼なじみ5人組で高校時代にバンドを結成。2004年デビューし、現在もベルゲンを拠点に活動中。ノルウェーだけでなく、世界中から人気を集めるノルウェーのインディー・ポップバンドだ。彼らの代表曲『Forever Alone』、『Restless』、『Touching』などセンチメンタルで憂鬱な歌詞でありながらも、陽気でキャッチーなメロディーの楽曲がクセになる。メンバーは、Vindenes(ヴィンデネス)兄弟の兄であり、ヴォーカル担当のPish(ピッシュ)。その弟でヴォーカル・ギター担当のAxel(アクセル)。彼らの幼なじみでドラム担当のKristoffer Wie van der Pas(クリストファー・ウィー・デ・パス)、ベース担当のStian Sævig(スティ・セイビング)、キーボード担当のSebastian Kittelsen(セバスチャン・キッテルセン)。
Eyecatch Image: Photo via KAKKMADDAFAKKA
Words: Ayano Mori(HEAPS)