現在のレコード盤の原型ともいえるベルリナーの円盤。 どうすれば良い音で録音できるのか、いかにしてレコードを傷めずに再生するか、何をすればより使いやすくなるのか。 新しい技術はどんどんと発展し、進化していきます。 今回はオーディオライターの炭山アキラさんによる、レコードの歴史のお話です。
レコードの誕生についてのお話はこちらから
エジソンの筒型とベルリナーの円盤は、円盤が勝利を収めました。 それが現在のLPレコードやシングル盤などにも直接つながっていくのですが、現在のレコードへと進化するまでには、いくつもの画期的な技術革新を越えてきています。 主立ったところを取り上げていきましょう。
初めてのレコーディング技術「アコースティック式」
エジソンの「メリーさんの羊」が残されているのはわりと有名で、お聴きになった人もおられることと思います。 一方、ベルリナーも「きらきら星」を後世に残しています。 奇しくも、2人そろって歌わずに語っているのが面白いところですね。
エジソンにしろ、ベルリナーにしろ、あまりいい状態で声が残されているとはいい難いものがあります。 一方、いわゆるSP盤の中には、今聴いてもビックリするくらい良い音で収録されているものもあります。 この違いは何でしょうか。
エジソンやベルリナーが自分の声を残した頃、レコードへ音を吹き込むのは「アコースティック式」と呼ばれる方式が用いられていました。 というか、それしかなかったのです。 アコースティック録音というのは、ラッパの根本に装着した針を原盤へ押し付け、音を刻み付ける方式です。 例えば歌だったら歌手がラッパの前で声を張り上げねばならず、それでも大きな振幅で溝を刻むことが難しかったのです。
よりクリアに音を刻むには?真空管の力で進歩する録音
そこへ現れたのが、1920年代のラジオの大発展です。 1906年にリー・ド・フォレストによって発明され、1910年代に幅広く用いられるようになった電気信号を大きくする(増幅する)装置、真空管の力によって大きな出力の電波を放出できるようになりました。 また、アナウンスに用いられるマイクロホンも、ラジオへの旺盛な需要により劇的にクオリティが上がっていきます。
そこに目をつけたのがレコード会社でした。 マイクで音楽を電気信号に変換し、真空管で増幅して原盤へ音を刻み付ければ、大きな振幅を取ることもできるし、ラッパよりもケタ外れに歪みが少なくクリアな音を刻むことができる。
そうやっていわゆる電気吹き込みが実用化されたのは、1925年のことです。 ラジオの発展からほとんど間を置かずに実用化されているところを見ると、電気吹き込み方式がいかにレコードの音質を飛躍的に向上させる発明だったか、ということが分かります。
ちなみに、電気吹き込みが日本へ入ってきたのは1928(昭和3)年。 日本のレコード会社もほとんど間を置かずに採用していたことになります。 その後すぐに世界恐慌が起こり、大変な不景気が吹き荒れる時代となるのですが、それでもレコード、中でも歌謡曲や当時大流行だった浪曲は一大産業へと発展していきます。
オーディオ機器のご先祖様、電気蓄音器の登場
電気吹き込みの発明は、もう一つの偉大なる進歩を導きます。 レコードの電気再生、俗にいう「電蓄(電気蓄音器)」です。 電蓄が登場するまで、レコードは今でいうアコースティック蓄音機で再生されていました。 大きなラッパを持った、皆さんご存じの蓄音機です。
アコースティック蓄音機にはいくつかの問題がありました。 ひとつは大きなラッパを装備しなければ再生される音楽の周波数特性が狭く、特に低音方向の再生は絶望的だったこと。 もうひとつは再生するために鉄針へ100g以上の重み(針圧といいます)をかけなければならなかったこと。 さらにその鉄針は寿命が短く、レコード1枚ごとに交換しなければならないことなどです。
特に困ったのは針圧です。 レコードにそんな重さをかけてしまうと、音溝があっという間に擦り切れてしまい、音楽が満足に再生されなくなってしまうのです。 ですから、高価なレコードがすぐダメになって買い直す羽目になりました。
一方、電蓄に取り付けられた針は細い金属棒(カンチレバーといいます)の先端にサファイヤやダイヤモンドの針先を装着したものでした。 針先の振動がカンチレバーに伝わって、根元に取り付けられた磁石やコイル、圧電素子などを振動させて振動を音楽信号に変換します。 その電気信号を増幅してスピーカーを鳴らすのが電蓄の基本原理です。
電蓄の針はわずか10g前後の針圧でSPレコードから音を鳴らすことができました。 何とアコースティック蓄音機の10分の1以下です。 これで劇的にレコードの寿命が伸びました。
それに、サファイヤやダイヤは鉄針とは比べ物にならない寿命を有します。 使い方によって変わってきますが、「サファイヤ200時間、ダイヤ500時間」とよくいわれたものです。 これでレコードをかけ替えるたびに針を取り替えなければならない、という煩わしさからも解放されたことになります。
電蓄はその後も進化を続け、現在のいわゆるオーディオ機器へ直結するご先祖様ということになりますね。
レコードの歴史#3に続く
Words:Akira Sumiyama