スピーカーの発音体=ユニットとは、電気の信号を音に変える装置です。 アンプから送られてくる電気信号がこの装置に届き、中のボイスコイルと呼ばれる部品が振動して音が再生されます。 スピーカーユニットは個別に購入可能で、スピーカーを一から作る場合やユニットのみを交換したい場合に役立ちます。

今回はユニットの種類やその名称、音の仕組みについて、オーディオライターの炭山アキラさんに解説していただきました。

ウーファー、トゥイーター、スコーカーは「動物の鳴き声」が名称の由来

ごく一般的な2ウェイのスピーカーなら、低音を再生するユニットをウーファー(woofer)、高音を再生するユニットをトゥイーター(tweeter)といいます。 woofというのはオオカミの唸り声、tweetというのは小鳥のさえずりを描写した英単語です。

より高度な3ウェイでは、ウーファーとトゥイーターの中間にスコーカー(squawker)が加わります。 squawkとはカラスのカーカー鳴く声のことです。

ウーファー、トゥイーター、スコーカーは「動物の鳴き声」が名称の由来

スコーカー?ミッドレンジ?呼び方はメディアによって異なることがある

これらのユニット群は、雑誌やメディアなどによって表記が違うことがあります。 ウーファー=ウーハー、トゥイーター=ツイーターといった表記上の誤差というべきものから、スコーカー=ミッドレンジという愛称と機能名の違いまで、まぁいろいろありますが、どれも同じものだと思ってもらって差し支えありません。

3ウェイよりも高度なマルチウェイ・スピーカーになると、ユニットの呼称はもっとバラついていきます。 私が使っている自作4ウェイの「ホーム・タワー」では、下からウーファー、ミッドバス、ミッドハイ、トゥイーターと呼んでいます。

3ウェイよりも高度なマルチウェイ・スピーカー

一般にもその呼称が多いように思いますが、中には一般的な3ウェイに高域を加えてウーファー、スコーカー、トゥイーター、スーパートゥイーターという表記にしている製品も、かつては見受けられました。

“スーパー”トゥイーター、”サブ”ウーファーとは?

スーパートゥイーターという言葉が出てきたので、解説しておきましょう。 スピーカーシステムに後付けできる商品としての呼称にもなっていますが、スーパートゥイーターとサブウーファーというものがあります。 「super」というのは「~より上の」という意味ですから、スーパートゥイーターは「トゥイーターより上の帯域を受け持つユニット」を指します。

一方、「sub」というのは「~より下の」という意味ですから、サブウーファーは「ウーファーより下の帯域を受け持つユニット」ということになりますね。 そういう意味では、業界で時折使われる「スーパーウーファー」という用語は、ちょっとヘンなことになってしまいますが、個人的には「スーパー」の持つ語感などから命名された、商品名のようなものだと考えています。

なぜ複数のユニットから音を出すのか?

一方、全部1本のユニットで再生を行う1ウェイ、あるいはフルレンジと呼ばれるスピーカーもあります。 パソコンを買ったらオマケでついてくるような小型スピーカーも、多くはフルレンジですし、例えばJBLのD130というユニットは38cm口径のフルレンジです。

ただし、人間の耳で聴こえる全帯域、20Hz〜20kHzを完全に再生できるフルレンジ・ユニットは、世の中に存在しないと考えてよいでしょう。 なに、2ウェイだって3ウェイだって、世の大多数のスピーカーはできていないのです。

なぜ複数のユニットから音を出すのか?

でも、それではなぜ簡単なフルレンジで済まさずに、複雑なマルチウェイを採用したスピーカーが多いのでしょうか。 それは、スピーカーユニットの物理特性とも絡んだ話になってきます。

構造が違う1ウェイとマルチウェイは、振動板の動きも違う

スピーカーユニットの多くは、再生周波数の下限からある程度の高さまでは、振動板が均一に動いて音波を放射する「ピストンモーション」という動きをします。 それがそのユニットにとって最も得意な再生周波数帯域といって間違いありません。

一方、フルレンジは広帯域を再生するため、「分割振動」と呼ばれる動作で音波を再生します。 といっても分割振動自体はそう珍しいものではなく、アコースティック楽器の豊かな音色の源というべき倍音は、楽器の分割振動(この場合は「分割共鳴」といった方が正解)で起こっているものです。

構造が違う1ウェイとマルチウェイは、振動板の動きも違う

もちろんピストンモーション域の方が、ピュアな音の再生ができているのだから、フルレンジよりは2ウェイ、3ウェイの方がよいとお思いになる人は多いかと思います。 しかし、実のところ事態はそう簡単ではありません。

ピュアな音の再生で可聴域をカバーするには、最低5ウェイが必要

スピーカーユニットの取扱説明書に掲載されている、周波数特性とインピーダンス特性の図表をしげしげと眺めると、多くのユニットがせいぜい2オクターブくらいしかフラットに再生できていないのです。 低域はダラ下がりだし、中域以上でインピーダンスに小さな突起が見られたら、そこから上は分割振動域とみて間違いありません。

つまり、完全なピストンモーションで20Hz〜20kHzを再生しようとすると、どんなに理想的な組み合わせでも最低5ウェイが必要になる、ということです。 2〜3ウェイでは、分割振動域の助けを借りなければ、帯域はつなげないのですね。

私は以前、実際にほぼ全域ピストンモーションの5ウェイを試していた頃があります。 躾けるのに時間はかかりましたが、パワフルで立ち上がりが鋭いのに全然耳に障らない、ちょっとビックリするような高品位が実現できていたものです。

炭山さんが長くミッドバスで愛用した、FOSTEX FE168EΣの周波数特性(f特)とインピーダンス特性を表した図表。 500Hzよりちょっと上にインピーダンスの小さなピークとf特のディップがあることから、これより上が分割振動域と推測される。 しかし、1kHzくらいまでは指向性も悪くないので、5ウェイ時代には500Hzで切り、4ウェイでは1kHzまで使っていたとのことだ。
炭山さんが長くミッドバスで愛用した、FOSTEX FE168EΣの周波数特性(f特)とインピーダンス特性を表した図表。 500Hzよりちょっと上にインピーダンスの小さなピークとf特のディップがあることから、これより上が分割振動域と推測される。 しかし、1kHzくらいまでは指向性も悪くないので、5ウェイ時代には500Hzで切り、4ウェイでは1kHzまで使っていたとのことだ。

その5ウェイは100リットルの30cmウーファーを用いるなど、わが家のような一般家庭にはあまりにも場所塞ぎだったので、大幅にスリム化し、分割振動域を僅かに活用しつつ可能な限りのフラットネスを目指したのが、先にも述べた自作4ウェイの「ホーム・タワー」です。 「世界の高級ユニット」を使っているわけでもないですが、なかなかしっかりした音で再生できていますよ。

Words:Akira Sumiyama