「レコードは音質がいい」「レコードの音には温かみがある」とはよく耳にしますが、いまの令和の時代において発売されたレコード、その音質はいかに?ここではクラシックからジャズ、フュージョン、ロックやJ-POPなど、ジャンルや年代を超えて日々さまざまな音楽と向き合うオーディオ評論家の小原由夫さんに、最近<音がいいにもほどがある!>と感じた一枚をご紹介いただきます。
あの1958年のセッション、遂に単独リリース
50年〜60年代のモダンジャズ黄金期を代表する大名盤と称される、1959年発売のマイルス・デイヴィス(Miles Davis)のアルバム『Kind of Blue』。マイルスのトランペットを軸に、テナーサックスはジョン・コルトレーン(John Coltrane)、アルトサックスにキャノンボール・アダレイ(Cannonball Adderley)、ピアノにビル・エヴァンス(Bill Evans)、ベースにポール・チェンバース(Paul Chambers)、ドラムスにはジミー・コブ(Jimmy Cobb)という6人の先鋭メンバーによる、クールに研ぎ澄まされた演奏はもちろん、音質面でもたいへん評価の高いアルバムだ。
その録音から遡ること1年前、同じ米ニューヨーク30番街にあったColumbia 30th Street Studio(コロムビア30番街スタジオ)にて、まったく同じメンバーによる4曲のセッション録音が実施されていたことを知る人はまだ少ない。それが今回取り上げる『Birth of The Blue』である。
このLPに収録されている4曲は前述した『Kind of Blue』の40周年記念BOX等、これまでコンピレーション盤には収録されていたが、こうして単独アルバムとしてリリースされるのは初。しかも重量盤LPとSACD*での発売が嬉しい。
SACD:スーパーオーディオCD(Super Audio CDの略)。1999年にソニーとフィリップスが開発した高音質オーディオディスク規格で、非常に広い再生帯域を実現し、原音により忠実な音楽を再生できる。

LPは高音質で定評のある米インディペンデント・レーベルAnalogue Productionsが企画し、高品質で高く評価されている米Quality Record Pressingsが盤の制作と180g重量盤プレスを担当。グラミー賞ノミネート経験もあるBattery Studios所属のヴィック・アネシニ(Vic Anesini)がオリジナルのセッションテープからのミックスを担った。マスタリングに使われたのは、The Mastering Labの故ダグ・サックス(Doug Sax)がカスタム化したオール真空管システムとカッティングレースで、マシュー・ルーサンズ(Matthew Lutthans)が手掛けた。ジャケットに使われたスーツ姿のマイルスの写真は、どこかで開催されたライブ中に撮影されたものだろう。アルバムタイトルと絶妙にマッチした雰囲気が、ゲールフォールド仕様ジャケットという豪華な装丁で完成されている。

A面/B面に各2曲収録というカッティングの余裕も大きく寄与しているであろう本盤の音質は、すこぶるクリアでステレオイメージの見通しがよい。音像定位はマイルスのトランペットとエヴァンスのピアノがレフトチャンネル寄りで、コルトレーン、キャノンボール、チェンバース、コブの4人がファントムセンター定位を展開する。
A-1「On Green Dolphin Street」の軽快な演奏が実にいい。マイルスの音色は鋭く、センターに定位するチェンバースのベースのふくよかな胴鳴りがリアルだ。コルトレーンのソロもダイナミックだが、やはりここで一番クールに聴こえるのはエヴァンスの音。軽やかにテーマを奏でている。
B-2「Love For Sale」はマイルスがテンポよくテーマを吹き上げる。エヴァンスはブロックコードで和音を重ね、コブのドラムが華やかなアクセントを付けていく。続くキャノンボールのソロは躍動的で陽気なムードだ。
おそらく本項がアップされる頃には、既に完売に近い状態と推測される。運よく出会ったならば、迷わず購入されることをお薦めする。
Words:Yoshio Obara