「レコードは音質がいい」「レコードの音には温かみがある」とはよく耳にしますが、いまの令和の時代において発売されたレコード、その音質はいかに?ここではクラシックからジャズ、フュージョン、ロックやJ-POPなど、ジャンルや年代を超えて日々さまざまな音楽と向き合うオーディオ評論家の小原由夫さんに、最近<音がいいにもほどがある!>と感じた一枚をご紹介いただきます。
黄金のレコードに収録された美声は必聴
ゴスペルをベースとしたスピリチュアルな歌唱が魅力の黒人ソウルシンガー、リズ・ライト(Lizz Wright)。彼女の最新アルバム『Shadow』は、8作目のリーダーアルバムだ。その太くて逞しい歌声に筆者は最近メロメロなのである。元よりそのデビューアルバム『Salt』に注目し、モンゴ・サンタマリア(Mongo Santamaría )の名曲「Aflo Blue」でのスケールの大きな表現力に魅了されて以来、新作が出る度にずっと追い掛けてきたのだが、前作『Grace』辺りからその分厚い声質が一層豊かになって、より安定感が増し、堂々とした歌唱を身につけた印象を受ける。
『Shadow』はゲスト陣も豪華だ。ベースにミシェル・ンデゲオチェロ(Meshell Ndegeocello)、ハープにブランディー・ヤンガー(Brandee Younger)といった女性俊英ミュージシャンを起用。そこにはフェミニンな芳香など一切なく(それをこれっぽっちも意図せず)、むしろ重厚で力強いサウンドに仕上がっているのが興味深い。ちなみにプロデュースは、シール(Seal)やジョージ・クリントン(George Clinton)等と仕事をしてきたクリス・ブルース(Chris Bruce)。マスタリングを担当したのは、米ニュージャージーに拠点を置くKnack Mastering所属の女性エンジニアのキム・ローゼン(Kim Rosen)。米グラミー賞のノミネート経験も多数あるようだ。
本盤の録音はすこぶる優秀。なんといってもリズのヴォーカル音像が明瞭に前に出てくる感じで、定位感が鮮明だ。決して細身でなく、そうかといって大口にもなっていない。グラマラスな厚みを感じさせる音像フォルムなのだ。前述のミシェルやブランディーがフィーチャーされた「Your Love」では、オーガニックなソノリティの中にも独特の粘っこいグルーヴがあり、ヘヴィーなベースのトーンを演奏全体の土台としつつ、ハープやエレキギターのメロディ、さらにハンドクラップがヴォーカルの後ろにフワッと広がって定位する。そうした楽器毎の定位位置(レイヤー)がきれいに見通せるステレオイメージなのである。
また、女性ヴァイオリニストTrina Basuや男性ヴァイオリニストArun Ramamurthyをフィーチャーしたナンバーでは、ソウルフルなムードの中にストリングスの調べがいい塩梅で素朴でナチュラルなニュアンスを植え付けている。フォークやカントリー的な香りも感じさせるそうした雰囲気の曲においても、リズの歌声がストレートかつパワフルな、芯のある明瞭な歌声を聴かせてくれる。それはもう物凄い求心力なのだ。
なお、本盤はゴールド仕様の180g重量盤カラーレコード。かつてカラーレコードは音がよくないと悪評が喧かったが、近年のそれはかなり克服されており、品質改善が進んでいる模様。音がしっかり担保された上で、アーティストやレコード会社がファッション/デザイン面で何らかの意図をもったカラーレコードをリリースする機会が増えているのだ。
本盤も、カラーレコードにしては音がいいにもほどがある!
Words:Yoshio Obara