「レコードは音質がいい」「レコードの音には温かみがある」とはよく耳にしますが、いまの令和の時代において発売されたレコード、その音質はいかに?ここではクラシックからジャズ、フュージョン、ロックやJ-POPなど、ジャンルや年代を超えて日々さまざまな音楽と向き合うオーディオ評論家の小原由夫さんに、最近<音がいいにもほどがある!>と感じた一枚をご紹介いただきます。

ジャンク フジヤマならではのシティポップ

世界的なシティポップ・ブームだそうな。 シティポップとは、平たくいえば80年代始め頃から今日に至るニューミュージックの中で、洋楽の影響を色濃く受けた楽曲を指す。 日本語の歌詞を、ロックやソウル、AORのメロディーやリズムで料理したものといってもいい。 海外のレコードコレクターがこぞって来日し、中古盤店でそれらの『帯付き、解説書付き』レコードを大量に買っていくそうだ。

そうしたアーティストの中には今も現役で活躍している人がたくさんいるが、亡くなったり、引退した人も少なくない。 その一方では、それら往年の楽曲が有していた空気感やエッセンスを今日に正統に伝承する音楽家もいる。 今回採り上げたシンガーソングライターのジャンク フジヤマもその一人。

ジャンク フジヤマの音楽を聴いていると、そこには山下達郎や角松敏生のスタイルが透けて見える。 しかし、それも計算の上なのだろう。 そんな彼の最新作『憧憬都市 City Pop Covers』が、先行のCDから遅れること5ヵ月を経てLPレコード化された。 同アルバムは初のフルカバー作品で、大橋純子、杉山清貴&オメガトライブ、オリジナル・ラブ、八神純子や荒井由実等の楽曲を、新鮮なアレンジでカバーしている。

今回はCDの制作プロセスとは違う、ハーフインチのアナログテープを活用したカッティングが敢行された。 デジタルマスターを一旦アナログで取り込んでレコード用に微調整することで、よりリッチなニュアンス描写が可能になったと思われる。 その作業に当たったのは、スタジオ界の期待のホープ、松下真也。 東京・湯島にてスタジオPICCOLO AUDIO WORKSを主宰し、録音やマスタリングの手腕だけでなく、ヴィンテージオーディオ機器にも精通する頼もしい存在だ。

ジャンク フジヤマ『憧憬都市 City Pop Covers』ジャケット裏面

A-6「夏の終わりのハーモニー」は、井上 陽水と玉置浩二(安全地帯)のデュエットで知られるが、ジャンクフジヤマ版は盟友、神谷樹を伴って、前述の二人の歌唱をに負けずとも劣らないハモリの妙味が素晴らしい。 ジャンクフジヤマと神谷の声質の違いが実に美しく優雅なムードを生み出している。

B-4「夢の途中」は、木生たかおが薬師丸ひろ子に作った楽曲。 くっきりとした芯のある声がメロディアスなアレンジに乗り、オリジナルとはまた違った魅力を放っている。

極め付けはA-7、B-6(デュエット版)に収録された「真夜中のドア〜Stay with me」だ。 1979年に松原みきがスマッシュヒットさせた同曲は、世界的なシティポップブームの火付け役になった曲として知られる。 ジャンク フジヤマの歌唱は情感を込めつつ、新たな疾走感を与えてこの珠玉のナンバーに新鮮さを植え付けた。

全体を通して感じたのは、「この曲のオリジナルって誰だったっけ?」と思わせるほど自分の曲のように消化し、自信を持って臨んでいるジャンク フジヤマの姿である。 つまり、ただのカバー集ではなく、自身の体内で十二分に租借し、魂を込めて歌い継いだ往年の名曲のリニューアルな形なのだ。

それはオリジナルと比べるまでもなく、音がいいにもほどがある。

Words:Yoshio Obara