世界のフェスをテーマにしたインタビュー「世界にメッセージを投げかける女性アーティストたち」にご登場いただいたフェスジャーナリストの津田昌太朗さん。2013年に渡英し、ロンドンを拠点に2年間で約100の海外フェスに参加。以降、日本国内をはじめ世界中のフェスを旅するように巡り、独自の視点で「世界のフェス情報」を発信している。
今回、世界のフェスを通して様々な国、人、音楽と繋がり続ける津田さんに改めてお話を伺った。津田さんの人生を変えたフェス、世界中のフェスを通しての出会いや発見。そして津田さんから見る「最新のフェス事情」や今年開催される「世界のフェス・ラインナップ」についてをお届け。
――津田さんが世界中のフェスを旅するようになったのはいつ頃でしょうか?
僕がフェスに行きはじめたのは10代後半の頃からです。社会人になってからは副業で音楽フェスに特化したメディアの運営に携わり、平日は仕事、週末はフェスに行って取材、というような二重生活を送っていましたね(笑)。そのあたりから海外フェスにも行ってみたいという思いが強くなり、そんな時に友人がたまたま<Glastonbury>のチケットを取ってくれて。死ぬまでに行きたい!と思っていたフェスに行けるチャンスが突然やってきたんです。
――その<Glastonbury>で津田さんの人生が大きく変わった訳ですね?
そうです。ただ、憧れのフェスではありましたが、正直そこまでの衝撃を受けるとは思ってもなかったですね。10代から国内の大型フェスには参加してましたし、300近いフェスやイベント、ライブも観てきたっていう自負が当時はあったので(笑)。なので感覚的には「知らない世界をちょっと覗いてみるか」くらいの気持ちでした。
――そんな<Glastonbury>で心を動かされたのはどんなところでした?
世界中から20万人が参加するフェスなだけあり、全てにおいて規格外というか、その規模に圧倒されましたね。僕にとって<Glastonbury>の1番の思い出はThe Rolling Stones(以下、ストーンズ)のステージ。もともと僕の父がストーンズの大ファンで、自分も10代前半から聴いていたので、いつか彼らの地元であるイギリスでライブを観るのが夢でした。まさか憧れのフェスで観ることができるなんて、僕の人生にとって最も強烈なライブ体験となりました。あと<Glastonbury>ならではと感じたのが、観客の中で親子3世代で踊っている家族を見かけて、お客さんの様子も含めて日本では味わえない光景を目の当たりにしました。
――その体験があって、日本に戻ってすぐに会社へ辞表を出した?
そうですね。ストーンズがライブの最後に“Satisfaction”をプレイして、そこでMick Jaggerが「満足できねえ」と歌っていたんです。その言葉が強烈に刺さり、「自分は今の人生に満足してるのか」と自問自答したのを覚えています。その翌日、居ても立っても居られなくなって、ロンドンにいた友人に「会社辞めてロンドンに戻ってくる」と伝えて、そのあとはもう勢いというか……。帰りの飛行機で辞表を書いてそのまま会社に行き、上司にお土産と退職願を同時に出しました(笑)。
――そこから世界のフェスを巡りはじめ、現在に至る。
その後は見切り発車でロンドンに移住し、自分が<Glastonbury>で受けた衝撃を解明するために、とにかくたくさんのフェスに行きました。そこで色んな人が僕の活動を面白がってくれて、仲間が集まり、本格的に取材をできるようになりました。帰国後は「世界のフェス」を巡った経験を活かして、ラジオの音楽番組でMCをやらせてもらったり、雑誌「BRUTUS」で特集してもらったり、なぜか英国大使館に表彰されたり(笑)。昨年は、自力で取材してきた世界100以上の海外フェス情報が詰まったガイドブック『THE WORLD FESTIVAL GUIDE』も出版することができ、フェスカルチャーを伝えることを生業に、色んな仕事に結びつくようになりました。
――ドラマがありますね。<Glastonbury>以外に、津田さんが1番印象に残っているフェスは?
どのフェスもそこでしか味わえない体験ができて、国ごとにも特徴が違うのでなかなか1つに絞るのは難しいですが、2016年にアメリカで開催された一度きりのフェス<Desert Trip>はラインナップが印象的でした。Paul McCartney、The Rolling Stones、Bob Dylan、Neil Young、The Who、Roger Watersというレジェンドが一堂に会したフェスで、発表当初は開催自体も危ぶまれ「老人向け<Coachella>」なんて揶揄されていたのですが、蓋を開けてみると、年配のファンはもちろん、歴史的なステージを一目見ようと会場には若い観客もたくさん集まっていました。
――世界中のフェスを通して様々な出会いをしてきたと思います。これまでを振り返り、現在の津田さんにとって“フェス”とはどんな存在ですか?
大げさかもしれませんが、フェスは人類最高の発明品だと思っています。人が集まることで街ができ、そこでお祭りを催して、何かを発表したり、芸術を鑑賞したり、人類はその昔から人と人の関わり合いの中で「コミュニティ=催事」を作ってきたと思います。その進化系がフェスティバルなんじゃないかと。音楽を知る機会というのはもちろんですが、「フェス=音楽」だけではないと思っています。僕自身もフェスを通して知らない国に行き、そこで人に出会い、新しい文化を知ることができた。むしろそれがフェスに参加する醍醐味だと感じています。その国や場所、住んでいる人々のことを深く知りたければ、フェスに行くのが1番良いと思っています。
――ここからは、最新のフェス情報やトレンドについて聞かせてください。津田さん的に注目しているフェス情報は?
今だとアメリカを中心とした“アーティスト主催”のフェスが面白いですね。日本でも10年以上前から同様のフェスはありますが、アメリカではここ近年が特にアツい。例えばTyler, the Creator、Pharrell Williams、Travis Scottといったアーティストが自らフェスを主催しています。また、それぞれのフェスのコンセプトが浸透していて人気を博しているんです。もちろんアメリカでも90年代からアーティスト主催のフェスはありましたが、最近はヒップホップのアーティストを中心にまたその波が来ていて、フェスのトレンドになっています。
――津田さんからみて、今後フェスのトレンドはどのように変化していくと思いますか?
“アーティスト主催のフェス”の流れはしばらく続くと思いますね。<Coachella>等メジャーなフェスが定着してきたからこそ、主催者側も工夫しますし、お客さんもより熱量の高いフェスを求めるようになっているので。それと、アジアのフェスシーンは現在発展期を迎えています。僕も昨年はアジア諸国のフェスに複数参加しましたが、中でも新たな勢いを感じるのは東南アジア。他国と比べものにならないくらい多くの若者が集まっていて、遊び場として一気に広まりつつあるんです。
――そこまでアジアのフェスが発展していくことになったきっかけはなんだったのでしょう?
きっかけのひとつには、日本の大型フェスの影響は確実にあると思います。アーティストとしても来日のタイミングで同じアジア圏でライブができるのは効率が良いので、近隣国のフェスにも出るようになった。そして日本の大型フェスを起点に、韓国、インドネシア、マレーシアなど大型ロック・フェスがアジア全域で開催されています。
また、2010年代中盤は韓国を皮切りにアジア各国に<Ultra>、<EDC>といった欧米で人気のダンスミュージックフェスも輸入され、EDMブームが到来したのもアジアのフェス文化を形づくりました。同時に、シンガポールのクラブが主催する<ZoukOut>、タイのソンクラーンという伝統的なお祭りと音楽が融合した<S2O Songkran Music Festival>、アート色が強めの野外音楽フェス<Wonderfruit Festival>のような自国発のフェスも生まれていきました。そういった良い流れが重なったことで、アジアのフェスシーンは急速に発展していったのだと思います。
――2020年、世界中のフェスのラインナップ情報が続々と発表されています。Paul McCartneyの出演が決まった<Glastonbury>など、今年のラインナップについて津田さん的な見解を教えてください。
<Glastonbury>は今年50周年なので、かなり前からPaul McCartneyが最もふさわしいんじゃないかと各所で騒がれていましたが、まさにその通りになりましたね。その後、Taylor Swiftも発表され、残り1組というところです。主催者が「男性アーティストで<Glastonbury>初出演」ということを示唆しています。2019年のStormzyの流れを踏まえると、Kendrick Lamarが有力候補かなと思っていますね。Kendrick Lamarはちょうどその週末にヨーロッパにいるんですよ。土曜はノルウェー、日曜はスウェーデンのライブが決まっていて金曜が空いているはずなので……と、そんな風に予測できますね。
――なるほど!ワクワクしますね。<Coachella>も年明けに発表になりました。
そうですね、Rage Against the Machineの発表には驚かされましたね。<Coachella>はここ数年ビッグネーム・アーティストの出演やサプライズが続き、ハードルが高くなりすぎていたので、これからどうするのだろう?と懸念されていたところでの復活劇。やはり話題作りが上手いなと思います。年明けにフルラインナップが発表されて、ヘッドライナーにはFrank OceanとTravis Scottが選ばれました。この2人はアメリカの若者に絶大な支持を受けているので、真っ当なセレクトだなと。
個人的には前回のインタビューでも話したように女性アーティストが入ると思っていたのですが、そこは予想が外れました。今の<Coachella>なら「ヘッドライナー3組とも女性」というようなチャレンジを仕掛けてくるかなとも思っていたのですが、そうはなりませんでしたね。一方、欧米以外のアーティストの率が増えてきた<Coachella>ですが、2020年は特にアジアにスポットライトが当たる年になりそうです。
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— Coachella (@coachella) January 3, 2020
――<Coachella>は、きゃりーぱみゅぱみゅ、初音ミクといった日本勢も選ばれましたね。
2019年のPerfumeから今年のきゃりーぱみゅぱみゅの流れは嬉しいトピックですね。あと初音ミクは全く予想していなかったので驚きました。去年Perfumeのライブ配信で見せつけたテクノロジー×ライブパフォーマンスが評価されて、さらに日本独自の文化として進化しているその2組に声がかかったのだと思います。
韓国からはBIGBANGの出演が決まり、アジアのポップスを象徴するアーティストが海外のメジャーフェスに多く出演するのは面白い傾向だなと。また、Joji、Rich Brian、NIKIといったアジア発のレーベル88Rising勢が多く出演するのも楽しみです。昨年、Kanye Westが正規のステージではなく特設ステージを組んで<Sunday Service>を披露したのと同じような立ち位置で、<88rising’s Double Happiness>が行われることがラインナップ・ポスターに記載されています。詳細はまだ不明ですが、それだけアジア系のアーティストへの注目が高まっているのが、如実に現れたラインナップになりましたね。これを受けて、他のフェスでもそういう機運が高まる可能性もあるので日本のアーティストにとっても世界に出ていくチャンスが増えていくはずです。
――2020年、国内のフェスはどんな予測が立てられますか?
今年は<Summer Sonic>が開催されないので、<Fuji Rock Festival>が洋楽ファンの期待を一手に背負うことになりますね。Rage復活のフェイク画像で「NIIGATA」と表記されていましたが、<Fuji Rock Festival>に縁があるアーティストなのでぜひ実現してほしいですね。あとは、The Strokes、Tame Impala、Lana Del Reyあたりも来日してもおかしくないかなと。大御所で言うと、今年の夏に動くことが決まっているPearl JamやJohn Fruscianteが復帰したRed Hot Chili Peppersも。アジア勢だとやはり88Risingの来日にも期待したいですね。個人的に<フジロック>で見たいのは、Frank Ocean、FKA twigs、Solangeなど……こうやって挙げはじめるとキリがないですが、好き勝手言い合うのも、今の時期のフェスの楽しみ方なので、みなさんも海外フェスのラインナップを見ながら予想してみてください。
――最後に“フェス”や“音楽”を通して、津田さんが今後さらに発信していきたいことはなんでしょうか。
「最近日本人が海外に行かなくなった」ということをよく耳にします。もちろん海外にいくことが絶対に善ということは思わない。僕自身もそうでしたが、何か好きなものをキッカケにして国内外問わず、実際に足を運ぶことは大事だと思います。自分の五感で体験することが人生を豊かにしてくれるということを知ってもらいたいんです。僕はフェスの可能性を信じていたからこそ世界中を巡れたし、今でも旅を続けているんだと思います。まだまだ世界には知らないことがたくさんあるし、もっともっといろんなフェスを経験したいですね。
今後も日本中のフェスはもちろん、世界中にフェスがあること、そしてその魅力を発信して、ひとりでも多くの人がフェスに足を運んでみたいと思ってもらいたいです。自分がそうだったように、フェスがきっかけで新しい国や人、モノ、音楽に出会えて、日々の暮らしが少しでも豊かになってくれたら嬉しいです。
――ありがとうございました。
Photos:Ai Matsuura