レコードプレーヤーは、ちょっとしたセッティングで音がガラッと変わるアイテムです。その分、置き方や調整に悩む方も多いのではないでしょうか。そこで、オーディオライターの炭山アキラさんにレコードプレーヤーの基本的なセッティング方法を教えてもらいました。プレーヤーのタイプや求めるサウンドによって調整方法はさまざまありますが、基本を知っておけば自分らしい音に近づけるヒントがきっと見つかります。

レコードプレーヤーを設置する台の選び方と注意点

レコードプレーヤー(以下、プレーヤー)を設置する際に、まず一番気をつけなければならないことは、できるだけ丈夫な台に置くということです。例えばサイドボードの上へ置きたいのであれば、天板を拳で叩いてみてポコポコ、あるいはボンボンと鳴くようでしたら、プレーヤーよりやや大きめで丈夫な板を1枚、敷いてあげるとよいでしょう。

ベニヤやMDF、OSBなど、厚みのある木の板はホームセンターなどで購入できます。
ベニヤやMDF、OSBなど、厚みのある木の板はホームセンターなどで購入できます。

次に気をつけなければならないのは、プレーヤーの水平です。プレーヤーはプラッターもアームも、水平であることを前提に動作しています。

水平が狂っていると、プラッターは軸に不自然な力がかかって、比較的短期間に軸からギーギーとノイズを発してしまう、あるいはワウフラッターが激増してしまうということになりかねません。

アームは傾きによってインサイドフォースのかかり方が変わり、正確な調整ができなくなります。

もし、プレーヤーを置こうとしている台の水平がおかしかったら、大半のプレーヤーは脚がネジで上下させられますから、それで調節して水平を取りましょう。こういう時には、精密な水準器があると助かるものですが、オーディオテクニカにも『AT615a』があります。

AT615a

水準器

AT615a

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安価な水準器は製品のクオリティにバラつきがあるためご注意ください。ホームセンターなどで販売されている1,000円以上のものを目安にしっかりしたものをお買い求めいただくことをおすすめします。

プラッターとカートリッジを安全に設置する方法

鳴きの少ないしっかりした台の上に、水平をきちんと取って設置が完了したら、そこで初めてプレーヤーの軸にプラッターを載せましょう。新品を購入して設置する時はもちろんのこと、模様替えなどでプレーヤーを動かす時も、必ずプラッターを外してからにして下さい。同時に、トーンアームも必ず固定しておくことを薦めます。繊細なプラッターやアームの軸は、余分な力がかかったらあっけなく破損してしまうリスクが高いのです。

プラッターを載せる際には、例えばベルトドライブならベルトのかけ方とか、ダイレクトドライブならプラッターとモーターを固定する方法とか、いろいろありますが、それらは商品によって結構大きく違うものなので、取扱説明書で確認しながら進めて下さい。

フォノケーブルを接続する際には、特に両端RCAタイプの結線だと、右チャンネルと左チャンネルのつなぎ間違いにご注意を。アースケーブルを接続するのも、忘れないようにして下さい。ただし、内蔵のフォノイコライザーを使って音楽信号を出力するなら、アースはつながなくても大丈夫です。しかし、アースケーブルをつないだ場合とつながなかった場合で、音質が微妙に、あるいは大きく違ってくることがありますから、実験してみるのも面白いと思います。

トーンアームの先端に、あるいはヘッドシェルに、カートリッジを取り付ける際には、大部分のカートリッジは後ろ側のピンが色分けされているので、その色に合わせてリード線をつなぎます。

リード線の色の意味は、赤が右プラス(R+)、緑が右マイナス(R−)、白が左プラス(L+)、青が左マイナス(L−)です。古いカートリッジでは、色分けする代わりにピンの根本へ左右とプラスマイナスが表記されているものがありますから、そういう場合は、上記の通りに接続して下さい。

大部分のカートリッジは後ろ側のピンが色分けされているので、その色に合わせてリード線をつなぎます

カートリッジをヘッドシェルやアームへ取り付ける時には、取り付ける位置を合わせなければいけません。ユニバーサル型のシェルへ取り付けるなら、アームへ取り付けるコネクターの根元から針先まで、52mmの位置に取り付けるのが正解です。

一方、専用シェルやアームへ直接取り付ける際などは、プレーヤーや単体トーンアームにテンプレートが付属していますから、その位置に針先が合うように取り付けます。

ヘッドシェルの取り付けとバランス調整のコツ

カートリッジを取り付け終わったら、ヘッドシェル式ならシェルをアームへ取り付け、まずゼロバランスを取りましょう。後ろ側のカウンターウェイトを動かし、アームが水平になるよう調節します。

この時、一番前へカウンターウェイトを回してもアーム前端が上がったままなのは、カートリッジとシェルが軽すぎる症状です。ユニバーサル型ならもう少し重いシェルと交換するか、例えば両面テープでシェルに1円玉のようなおもりを張り付けていくかで、解決しましょう。

一方、一番後ろまでウェイトを回してもアームが降りたままだと、カートリッジとシェルを合わせた自重が重すぎるということです。この場合はもっと軽いシェルに交換するか、プレーヤーの純正パーツにあるようなら、重量タイプのカウンターウェイトに交換するという方法があります。

ヘッドシェルが専用品だったり、あるいはアームへ直接取り付ける方式だったりして、さらに純正のカウンターウェイトが存在しなければ、もうお手上げです。

それでもそのカートリッジが使いたいという人には、あくまで裏技で正面切ってお薦めするものではありませんが、カウンターウェイトに鉛シートなどを巻いて目方を増やし、ゼロバランスを取る方法があります。そうした場合、後述する針圧の印加が目盛り通りにいかなくなりますから、市販の針圧計を購入して正確な値を印加してやらなければいけません。

この方法は、メーカーが指定する自重よりも重いものをアームへ取り付けるのですから、当然ながら軸に過重な負担がかかり、寿命を縮める原因となり得ます。実行するなら、あくまで自己責任でお願いします。

タイプ別の針圧の調整方法と微調整のポイント

ゼロバランスが取れたら、次は針圧を調整していきます。地球の重力で針圧をかける、一般的なスタティックバランス型のアームなら、カウンターウェイトの一番手前側に数字の書かれたリングが取り付けられています。これはウェイトと独立してクルクル動かすことが可能で、プリセット目盛りと呼びます。

プリセットのゼロが一番上になるようリングを動かして、そこから反時計回りにウェイト全体を回して針圧を印加していきます。例えば、オーディオテクニカの『AT-VM95』シリーズなら適正針圧は2.0gですから、プリセットの “2” が一番上へくるまで回せば、それで適正針圧がかかった、ということになります。

プリセットのゼロが一番上になるようリングを動かして、そこから反時計回りにウェイト全体を回して針圧を印加していきます

トーンアームの中には、バネの力で針圧をかけるダイナミックバランス型というものもあって、それはアームの根元、サポート部分に装着されているツマミを回して針圧を調整します。

先に解説したAT-VM95シリーズなら、適正針圧の標準値は2.0gですが、1.8〜2.2gとある程度の範囲が定められています。その範囲で、シチュエーションによって針圧を変えることも薦められます。

大半のカートリッジは、室温20℃で適切な動作をするように設計されています。つまり、20℃よりずっと暑くなる夏場はダンパーのゴムが柔らかく、寒くなる冬場は硬くなるということです。そうなると、暑い日にはやや軽め、寒い日にはやや重めの針圧の方が向いている、ということになりますね。

また、同じ室温でも針圧を違えると、音も少し変わってきますから、ご自分の好みに合わせてチューニングする、というのもいいでしょう。

なお、針圧を調整する際、忘れずにインサイドフォース・キャンセラーも調整しておきましょう。最近のプレーヤー付属アームでは、大部分がアームの根元に装着されているダイヤルを回して行います。基本的には、針圧と同じ値へ合わせておくとよいでしょう。

針圧を調整する際、忘れずにインサイドフォース・キャンセラーも調整

トーンアームの高さ調整で音質をチューニングできる

適正針圧が設定できたら、プラッターへターンテーブルシートとレコードを載せ、針を落とします。針が盤面に落ちた状態で、トーンアームが盤面と水平になるよう、アームの高さを調節します。

調整法はプレーヤーによって違いますが、多くの製品ではベース部分のネジを緩めてアーム全体を手で持ち上げ、高さが合ったところでネジを締めるという方式が採用されています。

中には、ベース部分のストッパーを緩め、ベース外周のリングを回すと、カメラのズームレンズと同じような感じでアームの高さが変わるという、高度なメカが装備されたものもあります。

基本的にアームは水平で使うものなのですが、これを意図的にずらすことで、音質傾向を変える裏技も存在します。具体的には、アームを尻上がりにすると低域が持ち上がって高域がやや下がり、逆では高域が賑やかに鳴り響いて低音は控えめになります。少しの違いで結構大きく傾向が変わるので、音質チューニングにとても有効な方法です。

アームの高さ調整は、オーディオテクニカ製プレーヤーなら『AT-LP7』や『AT-LP8X』以上の上級機が対応しています。お使いのプレーヤーにその調節機能がなかったら、この項は役に立たないということになっちゃいますね。でも、読むとやってみたくなりませんか?そのモチベーションで、少し上級のプレーヤーと買い替えるのも、いいことだと思います。

AT-LP8X

レコードプレーヤー(ターンテーブル)

AT-LP8X

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ここまで励行すれば、あなたのプレーヤーはちゃんと実力が発揮できることでしょう。レコード再生の要はプレーヤーの調整にあり、ということを肝に銘じておいて下さいね。

Words:Akira Sumiyama
Edit: Kosuke Kusano

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