近年、クラブシーンにおいて、再び脚光を浴び、クラブやDJバーでの導入が増加しているロータリーミキサー。

特にテクノやハウス系のDJに愛用されてきたこのDJミキサーだが、なぜ今、人気が再燃しているのだろうか?この連載では、ロータリーミキサーの修理・カスタムなどを行っているKatagiri Repair&Remake Service代表の片桐氏を迎え、その理由を紐解いていく。

初回ではロータリーミキサーの歴史や魅力、特性について紹介したが、第二回となる今回は実際に片桐氏に代表的なロータリーミキサーを試してもらい、その特徴や使用感を詳しくレビューしていただいた。

用意したのは、以下の6機種だ。

・E&S「DJR-400FX」
・Varia Instruments「RDM40」
・AlphaTheta「euphonia」
・Alpha Recording System「MODEL9100B」
・Mastersounds「Radius 4V」
・UREI「Model 1620」

E&S「DJR-400FX」——現在のブームの火付け役となったポータブルロータリーミキサー

E&S「DJR-400FX」——現在のブームの火付け役となったポータブルロータリーミキサー

DJR-400は、2005年頃にフランスのE&Sから発売されたもので、現在のコンパクトロータリーミキサーブームの火付け役と言っても過言ではありません。その最大の特徴は、名前の通り「ポータブル」であることです。非常に軽量で持ち運びやすく設計されています。

このミキサーは2bandEQを採用しており、少し他と異なったカーブ特性になっています。例えば、Hiを上げると上の音域がピンポイントではなく全体的に持ち上がっていくような特性があり、実質的にはトーンコントロールと言えるものになっています。

2bandEQを採用

Midがなくても、HiとLowを少し絞り、ボリュームを上げればMidが上がることになります。これにより、3バンドEQのような使い方も可能になっています。

音質面では非常に評価が高く、DJとしても使っていて気持ちの良いサウンドを生み出します。適切な音量設定のコツとしては、基本的に各ツマミが7の位置でちょうど良い音が出るようになっているので、チャンネルボリュームやマスターボリュームもその位置よりも上げないようにすると良いです。

チャンネルボリュームやマスターボリュームもその位置よりも上げないようにすると良い

機能面では、センド&リターンが付いているのでエフェクターを接続して使用することができます。また、メーターの表示方式も特徴的で、ヘッドホンでモニター選択しているチャンネルのレベル、モニター選択していない時はミックスレベルが表示されます。ブースアウトにはRCA端子だけでなく、キャノン(XLR)端子もあるという、ロータリーミキサーではあまり見られない仕様になっています。さらにコンパクトなサイズながら最大3台までのターンテーブルを接続できるなど、接続周りも充実しています。モニターミックス機能も搭載されているため、スピーカーの出力音をヘッドホンで確認できます。これはDJミックス中に非常に役立つ機能です。

Varia Instruments「RDM40」——特徴的なレイアウトと一貫した操作性が魅力

Varia Instruments「RDM40」——特徴的なレイアウトと一貫した操作性が魅力

RDM40は、2020年頃に設立されたスイスのメーカーのものでいくつかの特徴があります。まず、多くのロータリーミキサーが平らなレイアウトの中で、他とは異なる珍しい形状になっています。レイアウトも特徴的で、各ツマミが1チャンネルずつにまとまって配置されているため、使い勝手が非常に良いですね。全チャンネルに3バンドアイソレーターが搭載されており、ゲインとセンドも備えています。

多くのロータリーミキサーが平らなレイアウトの中で、他とは異なる珍しい形状

また、ツマミの質感も素晴らしく、各ツマミに均一な重さがあり、操作感が一貫しています。ゲインツマミの挙動も特徴的で、他のミキサーではゲインを絞りきるとほとんど音が出なくなりますが、RDM40では音が出続けます。そのため、実質的にはトリムとして機能していると言えるでしょう。

ただし、VUメーターの仕様には注意が必要です。これはマスターメーターではなく、ミックスレベルを示すものになっています。そのため、ミキサーから出力される実際の音量とは異なる動きをします。この仕様はヨーロッパのメーカーでよく見られますが、個人的には別途マスターメーターを用意した方が良いと考えています。

VUメーターの仕様には注意が必要

そのVUメーターの位置に関しては、目の前でしっかり確認できるようになっています。また、レベルが上がりすぎるとsignal LEDが赤く点滅するので、視覚的に音量の状態が把握しやすいのも特徴です。想定していたよりもミキサーのサイズは小さかったです。

AlphaTheta「euphonia」——デジタルとアナログが高度に融合した最新機

AlphaTheta「euphonia」——デジタルとアナログが高度に融合した最新機

euphoniaは、非常にユニークな特徴を持つデジタル/アナログ・ハイブリッド設計のロータリーミキサーです。

特筆すべきは、デジタルならではの高機能なVUメーターです。例えば、1チャンネルがオレンジ、2チャンネルが青で表示されるため、DJ中に音量レベルが非常に確認しやすくなっています。さらにアイソレーターをオンにした帯域だけが色付きで表示される機能もあり、視認性が高いです。

euphoniaは、非常にユニークな特徴を持つデジタル/アナログ・ハイブリッド設計のロータリーミキサー

出力レベルに関しては、AlphaThetaおよびPioneer DJ製品の特徴が反映されています。基本的にヨーロッパのメーカーと比べると出力レベルが小さく設定されています。これは世界中のさまざまな環境で使用されることを考慮し、PAシステムを守るための設計です。各チャンネルEQは、3band −26dB〜+6dB、ブースアウトにも2bandEQ、−12dB〜+6dBとなっています。スピーカー保護の為にプラス方向は控えめですね。

操作性の面ではツマミの回し方に応じてトルク感が変化するという革新的な機能があります。ゆっくり回すとじわじわと、素早く回すと少し軽く回す事ができます。これにより、DJはより感覚的に操作できます。エフェクト機能も充実しており、AlphaTheta株式会社が発売している他のDJミキサーと同様に、特定の帯域だけにエフェクトをかけることが可能です。デジタルミキサーならではの多機能性により、アナログミキサーよりも幅広い音作りができるのも特徴ですね。

AlphaTheta株式会社が発売している他のDJミキサーと同様に、特定の帯域だけにエフェクトをかけることが可能

音質面では、高品位なプロオーディオ機器で知られるRupert Neve Designs社のライントランスの採用も特徴的です。CDJなどからのデジタル信号をこのミキサーでデジタル処理し、最後にこのライントランスを通してアナログな音に変換して出力するという、ユニークな設計になっています。

Alpha Recording System「MODEL9100B」——伝統的な設計思想と拡張性・こだわりに満ちた1台

高品位なプロオーディオ機器で知られるRupert Neve Designs社のライントランスの採用も特徴

MODEL9100Bは、E&Sのミキサーの影響を感じさせる部分もありますが、それ以外にも独自の特徴を持つミキサーです。まず、注目すべきは電源システムで、外付け電源を採用しています。これはAlpha Recording Systemの多くのミキサーに見られる特徴で、ノイズの低減に効果があります。

注目すべきは電源システムで、外付け電源を採用

操作性の面では、チャンネル、ブース、ヘッドフォンのボリュームツマミが非常に重たいのが特徴です。特にチャンネルボリュームのツマミの重さは、DJミックスの微妙なコントロールを容易にします。

接続性に関しては、ターンテーブルを最大3台まで接続でき、全チャンネルにCDJなどのデジタル機材も接続可能です。さらに背面には、effect send/returnとは別にループ端子があります。
このミキサーでミックスした音を一度外部機器に送り、外部機器を経て、このミキサーに音が戻ってきます。こうする事で外部機器を通った音をmaster out、booth out両方から出力する事ができます。また、このミキサーにもモニターミックス機能も搭載されており、ヘッドフォンでスピーカー出音を確認できます。

ターンテーブルを最大3台まで接続でき、全チャンネルにCDJなどのデジタル機材も接続可能

非常に特徴的なのは、ゲインやトリムが付いていない点です。これは基本的な音量レベル管理は全てマスターボリュームで行うという設計思想に基づいています。この思想は、伝説的DJであるラリー・レヴァン(Larry Levan)の言葉に影響を受けていると考えられます。それとアイソレーターの増幅幅が非常に大きいことも特徴的です。プラス方向に回すと音が大きく上がるので注意が必要ですが、ジョー・クラウゼル(Joe Claussell)のように煽るような大胆な音の変化を演出したいDJに適しています。

Mastersounds「Radius 4V」——EQ・アイソレーターの効き具合が特徴的

Mastersounds「Radius 4V」——EQ・アイソレーターの効き具合が特徴的

Radius 4Vで、まず注目すべきは、VUメーターです。ゲインを上げていき、音が割れるポイントに達すると、VUメーターが赤く光ります。これにより、DJミックス中に音量の状態を視覚的に把握しやすくなり、適切な音量レベル管理が容易になります。

Radius 4Vで、まず注目すべきは、VUメーター

3バンドEQの代わりにハイパスフィルターが搭載されています。このフィルターは非常にまろやかに効くため、他のミキサーでローカットをかけているような自然な音質が得られます。これにより、ミックスがとてもしやすくなっています。音量設定に関しては、チャンネルメーターで赤がつくかつかないくらいの状態にすると良い音が出ます。

3バンドアイソレーターの特性も独特で、プラス方向に大胆に回しても音が暴れにくい一方、マイナス方向では音がしっかりと切れます。これにより、繊細なミックスから大胆な音の操作まで、幅広い表現が可能になっています。

3バンドEQの代わりに搭載されたハイパスフィルターが非常にまろやかに効くため、他のミキサーでローカットをかけているような自然な音質

接続性も優れており、全チャンネルにターンテーブルとCDJを接続できるほか、背面にはマイク接続用の端子も用意されています。さらに、センド&リターンも搭載されているため、外部エフェクトの接続も可能です。また、AUX機能も充実しており、Pre/Postの選択が可能です。この機能により、サンプラーやエフェクトなどの外部機材との連携性が高まり、DJプレイの幅を広げることができます。さらに電源を別付けにするオプションもあり、より高音質を求めるDJのニーズに応えています。

また、Mastersounds製のマルチエフェクターと組み合わせて使用することで、さらにクリエイティブなミックスが可能になります。

UREI「Model 1620」——シーン黎明期から愛され続ける伝説の名機

UREI「Model 1620」——シーン黎明期から愛され続ける伝説の名機

今回レビューするModel 1620は、以前、私が勤めていた会社でお世話になった上司から譲り受けた80年代中期に製造されていたものです。

このミキサーの最も特徴的な点は、そのボリュームツマミです。ずっしりと重たく、日本のALPSという会社の製品を使用しています。残念ながら、この部品はすでに生産が終了しており、今は手に入りません。

現代のミキサーと大きく異なるのは、ゲイン、EQ、メーターといった、今では当たり前の機能が一切ついていないことです。正直に言えば、使いづらいミキサーですね。そのため、最近は外部のEQやアイソレーター、メーターを追加して使用するDJが多いですね。

最近は外部のEQやアイソレーター、メーターを追加して使用するDJが多い

また、接続性に関しても制限があります。基本的にはターンテーブルがPHONO専用の1チャンネルと2チャンネルにしか接続できず、3チャンネルと4チャンネルでターンテーブルを使用するには追加の基板が必要です。CDJなどのライン入力は可能ですが、入力レベルが低く音量が小さくなります。ターンテーブルとCDJの音量にばらつきが出るので併用する場合は注意が必要です。

こうした制限や不便さがあるにもかかわらず、Model 1620の非常にシンプルな回路設計から生み出される音を求め、日本だけでなく世界中に熱心な愛用者がいます。

Model 1620の非常にシンプルな回路設計から生み出される音を求め、日本だけでなく世界中に熱心な愛用者がいます

ただし、基本的に出力が大きいため、チャンネルボリュームのツマミをmaxまで回すとスピーカーを破損させる危険があります。また、ヘッドフォンの音量も非常に大きいですが、これは当時のヘッドフォンのインピーダンスが今の平均よりも高かった事に起因していると思われます。インピーダンスが高いヘッドフォンの方が音量が小さくなります。また、耐久性の面では課題があり、特に背面の端子部分が非常に脆弱です。ケーブルの抜き差しには細心の注意が必要です。

個性豊かなラインナップから自分にあった一台を選ぼう

個性豊かなラインナップから自分にあった一台を選ぼう

片桐氏によると、今回レビューしたロータリーミキサーには、アナログとデジタルという違いはあれど、基本的な回路構成は似ている。しかし、ロータリーミキサーは、使用する部品や回路の簡略化の程度によって、最終的な出音の音質がそれぞれで変わってくる。その違いが音にこだわりを持つDJたちを魅了し続けるのだろう。

一口にロータリーミキサーと言っても、DJが求める音質や操作性、用途によって、選ぶべきロータリーミキサーは変わってくる。現在、自分にあったロータリーミキサーを求めているDJにとって、今回のレビューがミキサー選びの参考になれば幸いだ。

Words:Jun Fukunaga
Photo:Kentaro Oshio
Cooperation:Yuki Tamai (epigram inc.)
Edit:Takahiro Fujikawa

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