お気に入りのスピーカーやオーディオシステムを揃えても、音がしっくりこないことはありませんか?そんなときに試したいのが、部屋の音響特性を見極めて自分好みに調整する「ルームチューニング」です。部屋の広さや形、置いてある家具の種類など、あらゆる要素で音の響きは変わります。オーディオライターの炭山アキラさんが説明するポイントを参考に、ぜひあなたの部屋の音響を整えてみてください。

部屋の響きの「デッド」と「ライブ」ってどういうこと?

気に入ったスピーカーを筆頭に、オーディオシステムがそろった。それなりにアクセサリーやセッティングにも気を付けているつもりだけれど、もう一つ音がしっくりこない。こんな悩みをお持ちの人はおられませんか。

そんなあなた、ひょっとして、オーディオ装置をセットされているお部屋に入ったら、ご自分の声が変な感じに聴こえませんか。もしそうなら、それは部屋に強いキャラクターがついているせいかもしれません。

部屋の響きの「デッド」と「ライブ」ってどういうこと?

お部屋の中で、自分の声がボソボソと艶がなく、何だか息が詰まるような不快な感じになるなら、あなたの部屋は残響が極めて少ない部屋の可能性があります。そういう状況を「デッドな部屋」と表現します。「響きの殺された状態」をそう呼ぶのでしょうね。

一方、自分の声がビンビンと何だかやかましい感じ、あるいは低音の方が膨らんで不自然な感じなら、それは部屋の残響が多い「ライブな部屋」なのでしょう。ビンビンする感じは中〜高域、膨らんだ感じは中〜低域の残響が多い場合に起こりやすい症状です。ライブというのは、やはり「部屋の響きが生きた状態」を示す言葉でしょうね。

家具の配置やルームチューニングアイテムを使うポイント

部屋がライブすぎる場合は、例えば本棚やレコードラックを壁の1面に設置すると、ある程度響きが吸われて落ち着いた音になることがあります。もっとも、スピーカーに対してどちらか1面だけ吸音面にしてしまうと、却って違和感が強くなってしまう恐れもありますから、置き場所は吟味する必要がありますけれどね。

ライブな部屋を吸音するのは、さほど難しいことではありませんが、デッドな部屋に響きを付け加えるのは大変です。例えば、フローリングの部屋にじゅうたんを敷いてあるなら、そのじゅうたんを撤去すれば響きは加わりますが、住み心地が悪くなってしまっては仕方ないですしね。じゅうたんの上に透明のビニールシートを敷いても響きは増えますが……。

もしお部屋に本棚や食器戸棚など、ある程度音を吸う家具が多数設置されているなら、それをいくつか減らせば響きは増えます。あまり簡単にいうべきことではないのでしょうけれど。

家具の配置やルームチューニングアイテムを使うポイント

お部屋がライブすぎる時によく用いられるのが、「吸音パネル」と呼ばれるルームチューニングアイテムです。グラスウールやフエルトなどの繊維質をカバーで覆ったもの、バスレフ型スピーカーの低音放射原理に用いられている「ヘルムホルツの共鳴」や、リコーダーなど楽器の発音原理になっている「気柱共振」などを利用して特定の周波数近辺を吸うもの、また吸音と反射の両特性を持たせることで、バランスの良い響きを得ようとしたものなど、いくつもの商品が販売されています。

一方、デッドな部屋に響きを加えたいなら、日本音響エンジニアリングの製品群が、リスニングルームに「森の響き」をもたらしてくれます。決してすぐに手が伸ばせる価格の商品ではありませんが、音楽の聴き心地を改善することを得意とするグッズです。

しかしこういう製品群は、どれか特定の一つを使えば万事解決というわけにいきません。ご自分の部屋の難点をよく理解した上で、適切な製品を適量だけ購入し、正しい位置に設置してやらないと、音響特性が改善されるどころか、むしろ逆効果になることが多いからです。

自分の部屋の難点をよく理解した上で、適切な製品を適量だけ購入し、正しい位置に設置してやらないと、音響特性が改善されるどころか、むしろ逆効果になることが多い

オーディオ評論家の事例に学ぶ、ルームチューニングのヒント

もう40年ほども前の話です。オーディオ評論家として活躍しつつ大学で教鞭を執られていた杉山知之さん(現・デジタルハリウッド大学学長)は、リスニングルームのミニチュアモデルをいろいろ設計・製作して内部で音を鳴らしながら測定し、部屋の残響が与える音楽再生への影響を、官能評価まで含めてまとめられました。

当時の雑誌で杉山さんが担当されていた連載記事によると、あまりデッドでもライブでも評価は良くなく、左右の反射面と吸音面が非対称になるのも好ましくなかったようです。もっとも好ましかったのは、スピーカーとリスナーの背面をデッド、左右の壁をライブにした時だったそうです。

新築の時くらいしか、ここまで整えることは難しいかもしれません。しかし、既存の部屋でもライブな方向だったら、ある程度この検証結果へ沿わせることは可能です。

例えば、スピーカー背後の壁が響きやすければ、天井から厚手のカーテンを、壁から少し間(最低10cmくらい)を置いて吊ってやると、強力な吸音面が出来上がります。しかも、カーテンなら開けたり閉めたりして効果が検証できますから、面白いのではないですか。

突っ張り棒を駆使する場合、カーテンの重みに耐えられるような協力なものを選びましょう。
突っ張り棒を駆使する場合、カーテンの重みに耐えられるような協力なものを選びましょう。

もっとも、オーディオ評論家の石田善之さんのリスニングルームは、スピーカー背後をレンガの壁とし、しかもわざと凸凹にしてあります。「徹底してライブで、なおかつ乱反射するように作った」と石田さんはおっしゃっています。私も何度かお邪魔したことがありますが、それはもう天国のような響きで大型スピーカーが鳴り渡っていたのが印象に残ります。

また、表裏で吸音と反射の面を持つ、ユニークな調音パネルを発売しているメーカーのエンジニア氏も、「スピーカーの背後はライブな方がいいですよ」とおっしゃっていました。つまり、ライブであれデッドであれ、ある程度整っていればそう大きな違和感は生じず、ある程度好みに左右される、ということですかね。

亡くなられたオーディオ評論家の長岡鉄男さんは、1974年にご自宅を新築され、リスニングルームへ装置を並べて音を出した瞬間、天を仰がれたとか。あまりにも部屋のクセが強く、それまで借家で使っていた装置の音が滅茶苦茶になってしまったのだそうです。

それこそウッドタイル張りの床にビニールシートを敷き、響きを散らすために壁という壁に絵を飾り、響きの強い壁の面にタペストリーを吊り、それはそれはいろいろな対策をしたそうですが、半年、1年と時がたつに連れ、それらはどんどん必要なくなり、2年もしないうちに全部撤去しても音に違和感はなくなってしまったとか。これはおそらく、「部屋のエージングが終わった」ということなのでしょうね。

どうしても部屋の響きが不自然過ぎて、オーディオを展開するのが難しいが、部屋を替えるわけにもいかない。そういう人にお薦めできる手法があります。「ニアフィールドリスニング」です。亡くなられたオーディオ評論家の江川三郎さんが創始された方法で、スピーカーを思い切ってリスナーのすぐ近くまで寄せてしまうのです。

ニアフィールドリスニング

こうすると何が良くなるかというと、スピーカーからの直接音が増え、部屋の嫌な響きが相対的に下がって、より好ましい姿の音楽を楽しむことができる、ということになります。実際のところ、普通の部屋にスピーカーをセットして、一定の距離を置いて聴いた場合、スピーカーからの直接音よりも部屋の壁や床、天井から反射した音の方がずっと沢山耳へ届いている、という検証もされていますから、部屋の響きを制御し切れないのなら、思い切ってニアフィールドリスニングを試してみるのが正解かもしれませんね。

ただし、ニアフィールドリスニングでは、前に解説した部屋の特性を使ったスピーカーチューニングがままならなくなってしまいますから、それをカバーするための腕前が必要になってきます。低域の量感だけなら、お使いのアンプにトーンコントロールが装備されていれば、それを使って最適のバランスに整えるのが簡単ですけれどね。

あれこれ書いてきましたが、やっぱり部屋のチューニングはもう「部屋の数だけある」といって過言ではない項目ですから、あまり決まった対策については書けませんね。まずご自分の部屋がどういう状況か、ライブかデッドか、左右バランスは整っているかいないか、それらが問題ないレベルか軽症か重症か、さらに自分がどういう傾向の響きを求めているかをしっかりと確認し、それから適切な対策へ進まれるのがいいでしょう。

Words:Akira Sumiyama
Edit: Kosuke Kusano

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