レコードをジャケットから取り出して、レコードプレーヤーに乗せる。そっと針を落とすと、曲が聞こえ始める。筆者は曲を聴いていると、その曲をどんな時に聴いていたかを思い出すことが非常に多い。思い出と共に感情も蘇ってくる。悲しかったことも、嬉しかったことも。
以前レコードの思い出について紹介する記事を執筆し、レコードは曲を聴くという行為だけでは終わらない「体験」であることを再認識した。

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そして、もっと具体的に曲にまつわる思い出を知りたいとも思った。前述の通り、曲と思い出は密接なものではないだろうか。誰にでも思い出の一曲はあると思い、レコード曲の思い出についてアンケートを取ると、様々な世代・背景の思い出が寄せられた。
どれも素敵な思い出ばかりである。世代別に今回は60代以上の思い出を紹介していこう。

青春時代をレコードと共に歩んできた60代以上が語る、レコード曲の思い出

60代以上となると、少年期〜青年期*の青春時代にリアルタイムでレコード曲を聴いていた世代である。甘酸っぱい恋、放課後、懸命に打ち込んだ勉強や部活。
*少年期は5~14歳、青年期は15~24歳、壮年期は25~44歳、中年期は45~64歳、それ以上は高年期と定義(厚生労働省資料参照)

今回紹介する60代以上のレコード世代の曲の思い出の前座として、筆者のレコード曲の思い出を話しておこう。リアルタイムではないが10代の頃の話だ。

高校時代の通学に片道1時間半以上は掛かっていた。普段は朝8時半頃に登校していたが、気分でたまに7時頃に登校することもあった。いつもの時間ではごった返している高校の最寄り駅も、7時だとまばらだった。通学路で生徒と顔を合わせることもないくらいだ。
教室に入っても、自分以外誰もいない。窓を開けて、すぐ近くの机に腰掛ける。風の音、鳥の鳴き声が聞こえる。
すうっと朝の空気を大きく吸い込み、ゆっくり吐く。自分の呼吸音がよく聞こえる。
一通り静かな教室の朝を感じたところで、イヤホンをして、iPod classicで曲を再生する。レコードで聴いて好きになった、特徴的なイントロから始まるこの曲だ。

「素晴らしい朝に huhuhu.」や「紫にけむる夜明け」というフレーズが空気の澄んだ朝を感じさせる。誰もいない教室に一人というのは何だか特別だったし、パープルタウンを聴きながら過ごしたその時間がお気に入りだった。

それでは、青春時代にレコード曲を聴いてきた60代以上の人たちの思い出を紹介していこう。

重なる思い出

赤いスイートピー、デートのときによく聴いた思い出の曲です。
デートからかえってきた時に、彼のピュアな一面を思いながら聴いていました。
歌詞が一途でピュアな相手を想う楽曲で、当時付き合った彼も同じようにピュアな男性で、重なる部分が多くありました。それが、歌詞を口ずさむたびにもどかしくも愛おしく感じさせてくれました。サビの英語の歌詞のストレートな表現が、自分では直接言えない思いを代弁してくれているようでした。
(ちい/女性)

針を落とすといつもと違う世界に連れて行ってくれる魔法の一枚

テレビには出ない歌手でしたが、爽やかな声から清々しい人物像が想像できました。きっとイケメンに違いないと思っていました。
当時通学していた大学はレポート提出が多く、レポート作成の合間に聴いていました。清々しい声に疲れが癒されました。
甘く瑞々しい小椋メロディーに乗せて歌う青春からの惜別の歌です。若者から大人になる不安と応援が込められていてとても好きな曲です。カラオケに行くと必ず歌う1曲となっています。
恥ずかしい話ですが、この年(60代)になるまで、若者から大人になる惜別の歌だと思って口ずさんでいましたが、最近それだけの歌ではないということを知り、考え方を改めました。さらば青春は、当時盛んだった「学生運動」「左翼運動」から決別するというのがもう一つの意味とのこと。なるほどと思いました。「黒い」「たわむれの」「うつろな」。大人になってもう一度歌詞を読み返してみると納得できます。東京大学法学部を卒業し金融機関に就職する方ですから、どこかで気持ちを切り替えなければ企業人としてスタートを切ることができない。そんな期待と不安を歌に表したんでしょうね。気が付きませんでした、恥ずかしい。
歌いやすく瑞々しいメロディーだけではなく、思想信条の世界まで踏み込んだ渾身の1曲。改めて小椋佳という作詞作曲家の偉大さを思い知る今日この頃です。
(Antiage_999/男性)

迫力のある音と音楽

放課後に友達の家で聴いた。初めてレコードを聴いたのが、小学5年生の時で、友人の家にステレオがあり、そこでかけてくれたのが沖正美(当時は、志垣太郎のレコードだと聞いていました)の「ポーリュシカ・ポーレ」でした。レコードが良かったのか、オーディオ機器(ステレオ)が良かったのか分からないが、気にいって何度も聴かせてもらったので、今でもメロディーも歌詞(一部曖昧ですが)も覚えています。
(osome/男性)

※筆者調べ(2022年7月現在)

リアルタイムの青春が再生される

若かりし頃の思い出というのは、いつになっても色褪せないものだろう。
場所や香りなど、思い出を蘇らせるものは様々だが、特に音楽は人生における目次のようなものだと筆者は思う。
くるくる回って音楽を奏でる黒い円盤は、曲と共に淡い青春の思い出も再生するのだ。
次回は50代の思い出を紹介していこうと思う。

Words:K.3U

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