レコードのために必死で貯めたお金を手にレコード店に向かったあの頃。
探していたあのレコードはあるだろうか、あのアーティストの新譜はあるだろうか。
そんな思いを胸にお店に向かう足取りは、まるで冒険に向かう少年のようだ。
そしてレコード店で手に入れた「宝物」を大事に抱えてステレオの前までたどり着くと、ようやく待ちに待った宝物とのご対面だ。
ターンテーブルにレコードを乗せて針を落とすと、未知の世界が眼前に広がっていく。
青春をレコードと共に過ごした世代の方々には、一人ひとりにレコードについての様々な思い出があることだろう。
そうしたレコード曲にまつわるエピソードについて探りたくなり、アンケートを取ったところ、様々な世代の方よりアンサーを頂いた。
寄せられたエピソードより、同年代の方は共感を覚えたり、若い世代の方はそういった時代を知る一端となれば幸いだ。
>>デジタルネイティブ世代に聞く、アナログレコードの思い出
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青春時代をレコードと共に歩んできた50代男性が語る、レコード曲の思い出
50代となると、60代以上と同じく少年期〜青年期*の青春時代にリアルタイムでレコード曲を聴いていた世代である。
*少年期は5~14歳、青年期は15~24歳、壮年期は25~44歳、中年期は45~64歳、それ以上は高年期と定義(厚生労働省資料参照)
前回は50代女性の思い出について紹介したので、引き続き50代の男性より寄せられたレコードとの思い出を紹介していこう。
日本のロックで、初めて格好いいと思った曲
1978年8月10日リリース 世良公則&ツイスト「銃爪(ひきがね)」
とにかく格好いい曲だったので、普通にも聴いていましたが、マスターしたいという気持ちが強かったので、エレキギターの練習中に聴いたという印象が強いです。
この曲は、世良公則&ツイストが全盛期の頃の曲で、ザ・ベストテンという番組では確かその曲は、10週連続で1位を取っていましたね。レコードでは、イントロのドラム・フィルインがとにかく格好よくて、その後に続くギターリフを盛り上げますよね。曲のコピーはわりと簡単でしたが、ぼくがファズギターに目覚めた曲の1つでもあります。歌詞も含め、とにかくすべてが格好いい曲でしたね。(ガンルク)
ビートルズのロックンロールの隠れた名曲
1964年2月10日 The Beatles「Please Please Me」
高校時代のバンドのレパートリーはビートルズから始めることが基本だと考えていました。その中でシングルカットされていない曲を選ぶ中でジョン・レノンの強いボーカルが印象的で採用した曲です。メジャーな曲ではありませんがビートルズファンでは好評な曲なので、演奏することでこの曲を楽しめると思い今回取り上げました。ビートルズのロックンロールとして推薦できる曲だと思っています。(エンジョイライフ)
格好いい歌手が格好いい曲を歌っていた
1977年5月21日リリース 沢田研二「勝手にしやがれ」
人生で初めて購入したレコードだからです。
このレコードを買う前も親が聴いていたレコードを見たり聴いた事はあったのですが、人生で初めて自分の意志で購入したレコードですので思い入れも強かったです。
当時のジュリー(沢田研二さん)はとても格好良い歌手と言う印象で、この曲自体もとても格好良く歌っていたので大人の魅力とはこういうものかと子どもながらも感じる事ができました。(natsu)
新しい生活の期待と不安を「ホップ・ウィルソン」が吹き飛ばした
Hop Wilston「My Woman Has a Black Cat Bone」
「最もブルーな凍りつくブルース」を聴いてみたかったから。
大学を卒業したと同時に就職するためにマンションに引っ越しました。入社式まで時間があったのでレコード屋に寄ってみたところ、LPの帯に「最もブルーな凍りつくブルース」のフレーズを発見。学生時代はブルースが好きだったので「ホップ・ウィルソン」というブルースマンを知りませんでした。スティール・ギターで奏でるブルースは文字通り「最もブルーな凍りつくブルース」だったのです。国内盤でヒューストン・ゲットーが聴けるとは思いませんでした。(エンジョイライフ)
ロックギターの魅力を教えてもらった名曲
1971年4月23日 Rolling Stones「Brown Sugar」
高校生の時に初めて買ったLPが「Sticky Fingers」でした。シングル第一弾「Brown Sugar」はキース・リチャードのギターが格好よく、何回聴いたか分かりません。LPジャケットはアンディ・ウォーホルのデザインが意味深で印象的でした。Rolling Stonesの来日では必ず演奏する楽曲で毎回楽しみにしています。(エンジョイライフ)
※2022年10月 筆者調べ
レコードの傷は一緒に年齢を重ねた勲章
今回は50代の男性から寄せられたレコードにまつわるエピソードを紹介させていただいたが、いかがだっただろうか。
個人的にはレコードを聴いてミュージシャンに憧れ、実際に楽器を手に演奏している方が多く見られる印象を受けた。
1970年代は日本の楽器産業も活発になり、グレコやトーカイ、ヤマハなど今でも知られる国産エレキギターメーカーが良質で安価なギターの供給を始めた時代でもある。
レコードから聞こえる格好よいギターサウンドを聴き、少年が「自分もこんなギターを弾きたい!」と思い、実際に楽器を手にする。
今では当たり前かもしれないが、そういったことが初めて比較的容易になったのがこの世代の方たちなのではないだろうか。
あの時に買ったレコードを思い出すと、必死で練習してボロボロになったギターの思い出も同時に蘇ってくる。
レコードや楽器の魅力の一つは、一緒に年齢を重ねていけることだと筆者は考える。
消せない傷や汚れもあるかもしれないが、それは人生を共にしてきた勲章なのだ。
Words:K.3U
I・Shota