レコードというものはとても頑固で、世話の焼ける存在だ。
それ自体がアナログデータの塊なので、そこから一部のデータだけを抜き出したり、データを足すことは基本的にはできない。
ターンテーブルに乗せ、針で溝を読み取り、音楽を再生する。ただその役目のためだけに存在する。
なんて頑固で融通が利かないのだろう。
しかもきちんとメンテナンスをしてやらないと盤面が反ってしまったり、傷や汚れによるノイズが入ったり、針が飛んだりしてしまう。
ときどき機嫌を取ってやらないと、へそを曲げてしまう。
なんて面倒なのだろう。
いやしかし、だからこそ、レコードには抗いがたい魅力があるのだ。
さて、そんなレコードにまつわる思い出について様々な世代からアンケートを取ったところ、思い思いのエピソードを聞くことができた。
そんな思い出の一端を皆様にもご紹介しよう。
>>デジタルネイティブ世代に聞く、アナログレコードの思い出
>>レコードと共に生きてきた世代に聞く、アナログレコードの魅力
昭和から平成への転換期に青春を過ごした40代男性が語る、レコード曲の思い出
今回は40代の男性より寄せられたレコード曲のエピソードを紹介する。
彼らが青春を過ごした1980年代〜1990年代は時代が昭和から平成へ移り変わり、そして音楽媒体もレコードからCDに移り変わっていく転換期だった。
そんな目まぐるしく変化する時代の中で青春を過ごした世代の、レコード曲にまつわる思い出を見ていこう。
初めてのコンサートの思い出
1974年3月12日リリース イルカ「なごり雪」
小学校の時に初めて連れて行ってもらったのがイルカのコンサートでした。
その中でも名曲「なごり雪」はやはり印象深いものがあり、私が四六時中歌っていたので、たまりかねた親がレコードを購入してくれたのでした。
それからは学校から帰ったらすぐにオーディオルームへ行き、「なごり雪」のレコードを無限ループで再生して一緒に歌っていました。
イルカの「なごり雪」には、初コンサートでハマりました。
(THRU)
大人や都会、未知なる音楽への憧れ
1979年10月25日リリース YELLOW MAGIC ORCHESTRA「TECHNOPOLIS」
YMOのアルバム『Solid State Survivor』に入っている「TECHNOPOLIS」に思い出があります。
幼少の頃、父の持っていたレコードにこの曲が入っていて、学校から帰ってきて誰もいない時に隠れて聴いていました。
まだ音楽にはそれほど興味がなかった頃に、たくさんあるレコードの中からなぜか気になったのがYMOでした。
中でも「TECHNOPOLIS」の、”トキオ”という機械音のような声から始まる楽曲のちょっと不協和音のようなイントロ、全体が始まる前の踊りたくなるような感じ。
そしてメロディーが入ってからの広がりや急に明るくなる展開は、ちょっと変わった音楽体験を幼少時の私に植え付けてくれた気がします。
これが私の初めてのレコード体験でした。大人や都会、未知なる音楽への憧れです。
(TCTS2001)
時代を超越できるパワフルなレコード
1977年03月20日リリース タモリ 「タモリの大放送::お昼のいこい」
中学生くらいの頃、”面白いもの”という感覚で学校から帰ってから聴いていました。
出会いは家にあったから聴いてみた、というものですがタモリさんは『笑っていいとも!』の人という認識があったので、非常に衝撃的なレコードでした。
歌以外のレコードという感覚もそれまで知らなかったため、驚きがありました。
アルバムに収録されている「お昼のいこい」のパロディの元ネタであるラジオ番組『昼のいこい』も聴くようになりました。
時代を超越できるパワフルなレコードだと思います。
(AMAMT)
※2022年10月 筆者調べ
レコードの盤面に刻まれているものは・・・
今回は3人の40代男性の方にレコードについての思い出を語っていただいた。
先にも述べたが、40代が青春を過ごした1980年代〜1990年代は昭和から平成へ時代が移り変わり、音楽媒体もレコードからCDへと変遷した激動の時代だ。
今回いただいたエピソードがどれも1970年代の楽曲ということに驚いたが、少し考えればそれも納得がいく話だった。
YMOやタモリのレコードについての思い出は、いずれも父親とのものであったり、家にあったレコードに触れた体験談だ。
自宅でレコードを聴くことができる環境が既にあるという、まさに音楽媒体としてのレコードが過度期にあったことを示すようなエピソードではないだろうか。
CDが音楽媒体として登場したのは1982年のこと。
それから1986年にはCDがレコードの生産枚数を上回り、1991年に国内での一般的なレコードは生産中止となった。
そのため、中には青春時代には既にレコードが過去のものになっていた方も少なくないだろう。
音楽媒体がレコードからCDへ移り変わったことは、音楽を聴く上でとても大きな変化だった。
単に媒体のサイズが変わっただけではなく、音楽を聴くという行為がデジタルデータを読み取ることに変化したのだ。
媒体がデジタルになったことで誰もが同じデータを所有できるようになり、複製も容易になった。
しかし一方で、傷が付いていつも同じところで針が飛んでしまったり、再生しすぎて擦り切れそうになっていたりと、レコードはその盤面にもそれぞれの思い出が刻まれる。
レコードの思い出は、そのレコード盤と同様に唯一無二のものなのだ。
Words:I・Shota