新しい音楽との出合いはレコードやサブスクだけじゃない。 本に収められた文章やビジュアルをきっかけに新しい音楽を知ることもある。 音楽家のエッセイ、ジャーナリストによる論評、ライブ・コンサートの写真集、ジャケットのアートワーク集だったり、ページを進める度に広がっていく音楽の世界。 読書家のあの人が選ぶ3冊の本が教えてくれる、音楽を読む愉しさ。

ディスクガイドは、そこに載っていないものを探すための本

音楽と本、といえばディスクガイドが思い浮かびますが、私が多感な頃にはインターネットが当たり前のようにあったことを考えると、少し上の世代のものだったのかもしれません。 年上の友人からディスクガイドを紹介され、「これは基本だよ」なんて言われたことも一度や二度ではなかったのですが、その頃は御多分に洩れずひねくれ者だったので、斜に構え、「よく知らない人が選ぶレコードなんて聴こうと思わないネ」だなんて言いながら、ディスクガイドを通らずここまで来てしまいました。

大人になって随分経って、心の師と仰ぐ某氏が「ディスクガイドはそこに載っていないものを探すための本ですよ」と言っていて、雷に打たれたような衝撃を受けました。 極端だけど、それもひとつの在り方。 私はそこにスノッブをみたのです。 まったく関係ない話ですが、音楽と本といえばそれを思い出します。

ジェイムズ・ギャビン(著) / 鈴木玲子(訳)
『終わりなき闇 チェット・ベイカーのすべて』(河出書房新社)

ジェイムズ・ギャビン(著) / 鈴木玲子(訳)『終わりなき闇 チェット・ベイカーのすべて』(河出書房新社)

大学1年の夏休み、図書室から夏季長期貸し出しで本書を借りて、免許合宿に持っていきました。 高校生の頃にはじめてチェット・ベイカー(Chet Baker)を聴いて夢中になっていくつかのアルバムを聴いた、ぐらいの状態で背伸びして読んだのですが、内容のそのダウナーっぷりに当時は読み切るのを断念した記憶があります。 しかしそれでも受けた衝撃は大きく、10年ぐらい前、急に読み返したくなって、改めて購入したのですが、学生の頃から比べると、少しはいろんな音楽を聴いてきた分、本の中で語られる話の解像度も上がっていたので昔よりも没入して読めました。 この本を読んで改めて70年代の(より)傷ついた時代のチェットの音楽をもっと聴こうと探してみたり、夭折の天才ピアニスト、リチャード・ツワージクに興味を持ったりしました。 あらかじめ最悪の結末が用意されている本ではあるから、暗い気分にはなる。 でも、それでも、(語弊はあるかもしれないけれど)大好きな本です。

鶴谷香央理『レミドラシソ 鶴谷香央理短編集 2007-2015』(KADOKAWA)

鶴谷香央理『レミドラシソ 鶴谷香央理短編集 2007-2015』(KADOKAWA)

私の中では、私の音楽と漫画は切っても切れないと思っています。 高校生の頃は犬上すくねさんや山名沢湖さん、山川直人さんといった方々の漫画から音楽を知ることも多かったですし、好きだった音楽が漫画の中で引用されるようなこともあり、夢中になって漫画を読み耽ってきました。 そんな私は2012年からコミティアという創作漫画即売会で漫画ではなくCD-Rを持参し、しばらく参加していました。 コミティアは興奮の坩堝でした。 好きな漫画家さんが出店されることもあれば、そこで知る作家さんもいました。 鶴谷さんは当時まだ単行本とかは出されておらず、大好きな作家さん、ウラモトユウコさんのサークルに参加されていた方でした。 その鶴谷さんがコミティアで発表していたのがこの短編集にも収録されている「吹奏楽部の白井くん」です。 私にとってはこれほど素晴らしい音楽漫画は他にありません。 音楽によって胸に火が灯るような瞬間がいくつも描かれています。

直枝政広『宇宙の柳、たましいの下着』(boid)

直枝政広『宇宙の柳、たましいの下着』(boid)

カーネーションは高校生の時、犬上すくねさんの漫画で知ったはずです。 パラダイス・ガラージ(豊田道倫)の導きにより、ちゃんと聴くようになったのは大学1年生になったばかりの2006年でした。 本書は2007年に刊行されたディスクガイドといってもいい一冊。 (これをディスクガイドというならば)私が買った数少ないディスクガイドのひとつです。 カーネーションと出会ったばかりのタイミングということもあり、とても思い入れが深い一冊です。 ひとりの人生を通して音楽を読む、いくつかの音楽を通して人生を聴く、そしてそこにその時々の東京が映し出されるような本で、あらゆる意味で影響を受けました。 私にはあまりロックというものがわからないのですが、直枝さんのフィルターを通せば、自分にはわからないロックであろうとも、こんなにもロマンチックに映るのか、と興奮したことをよく覚えています。 ときどき読み返しては自分の中で何が更新されたかを照らし合わせる、そういう重要な一冊です。

スカート

どこか影を持ちながらも清涼感のあるソングライティングとバンドアンサンブルで職業・性別・年齢を問わず評判を集める不健康ポップバンド。 2006年、澤部渡のソロプロジェクトとして多重録音によるレコーディングを中心に活動を開始。 2010年、自身のレーベル、カチュカ・サウンズを立ち上げ、1stアルバム『エス・オー・エス』をリリースしたことにより活動を本格化。 これまでカチュカ・サウンズから4枚のアルバムを発表し、2016年にカクバリズムからリリースしたアルバム『CALL』が全国各地で大絶賛を浴びた。 そして、2017年にはポニーキャニオンからメジャー1stアルバム『20/20』を発表。 2020年にはインディーズ期の楽曲を再録音した『アナザー・ストーリー』を発表し、その楽曲の芯の強さを見せつけた。 その他も数々のアニメーション作品、映画、ドラマの劇伴、楽曲制作に携わる。 また、そのソングライティングセンスからこれまで藤井隆、Kaede(Negicco)、三浦透子、adieu(上白石萌歌)などへの楽曲提供も行っている。 更にマルチプレイヤーとして澤部自身も敬愛するスピッツや川本真琴、ムーンライダーズらのライヴやレコーディングに参加するなど、多彩な才能、ジャンルレスに注目が集まる素敵なシンガーソングライターであり、バンドである。

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Edit:Shota Kato(OVER THE MOUNTAIN)

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