新しい音楽との出合いはレコードやサブスクだけじゃない。 本に収められた文章やビジュアルをきっかけに新しい音楽を知ることもある。 音楽家のエッセイ、ジャーナリストによる論評、ライブ・コンサートの写真集、ジャケットのアートワーク集だったり、ページを進める度に広がっていく音楽の世界。 読書家のあの人が選ぶ3冊の本が教えてくれる、音楽を読む愉しさ。

言葉にできない音楽の空気や雰囲気

音楽って言葉とか人種とか時代とか関係なく響きますよね。 どこか知らない国の知らない音楽でも、遠い昔の音楽でも、なんの予備知識がなくても、なんとなくわかるものがある。 それと似たことを写真集や画集など、ビジュアルなものから感じる。 誰だったか示すべきことと語るべきことを説いた人がいたと思うけど、言葉にしようがないものについては何か他の方法で伝えるしかない。 いや、もっと言うと言葉にしたらすり抜けていく何かとでもいうか。 音楽を解説することくらい興醒めすることもないだろう。

見て解らんものは聴いてもわからんのと一緒で、聴いてわかんないんだったら読んでもわかんない。 音楽を聴いて感じるように何かを見て感じるとか、何かを読んで感じるとか、言葉で理解する前の感覚。 まあ、難しいことは考えなくても、言葉にしたらなんだか気恥ずかしかったり、照れ臭かったり、しっくりこなかったり。 言葉にできない音楽の空気や雰囲気のある本をおすすめできたら良いなあと思いながら選んでみた。

山谷佑介『Rama Lama Ding Dong』(Gallery Yamatani)

山谷佑介『Rama Lama Ding Dong』(Gallery Yamatani)

2014年夏、山谷夫婦が着替えとテントをバックパックに詰めて、日本を縦断する新婚旅行に行った記録。 道路、森、川、キャンプ場、軽トラックの荷台、高速バス、電車、見知らぬ乗客、タイトルはオールディーズの軽快な曲「Rama Lama Ding Dong」。 Rama Lamaっていう名の彼女は俺のすべて、絶対離さない、愛している。 くらいしか言っていない曲だけど、ヘンテコな新婚旅行にぴったりだし、その曲を聴いたらこの写真集もまた愛に溢れている感じがする。

Vinca Petersen『No System』(Self Published)

Vinca Petersen『No System』(Self Published)

90年代、ヨーロッパの野外では違法のレイヴパーティが度々開催されていて、ヴィンカ(Vinca Petersen)もその参加者の一人。 怪しくも魅力的で開放的な様子が、写真と日記とメモなんかと一緒に掲載されています。 「レイヴ」という言葉は「revolution live」からの造語らしい。 今はこういった違法パーティは縮小し、合法的なレイヴが普通らしいけど、ヴィンカが「私たちは反抗しているのではなく、むしろシステムの外で暮らしているのです」と語っているように、社会のシステムに疲れた日にはこういった音楽や光景に思いを巡らせるのも良いかもしれない。

『NOISE GRAPHICS: 1980-1990』 (Masala Noir)

『NOISE GRAPHICS: 1980-1990』 (Masala Noir)

1980年から1990年のノイズレコードとカセットジャケットのアーカイブ。 ここ最近、こういった過去のエフェメラやフライヤーなどを集めてまとめた本がよく出版されている。 Punkだったり、Hip-HopだったりRaveだったり、また音楽に限らずギャングの名刺を集めた本だったり。 いろんなジャンルのものが出版されているんだけど、一枚一枚は特に価値がないのかもしれない。 でも、量がまとまったら面白いものは確かにある。 このフライヤーとかを集めた本も、なんか一枚一枚見ながら、このバンドはどんな音楽なんだろ? どういう人がこのフライヤーを受け取ったんだろ? とか想像すると楽しい。

小林孝行

1978年岡山生まれ。 何も考えてない本屋 flotsam books代表。 国内外、新刊または古書を問わず写真集を中心としたアートブックを販売。 アートブック販売のほか、ワークショップや展示など各種イベントも行う。

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Edit:Shota Kato(OVER THE MOUNTAIN)