東京・立川の複合文化施設「PLAY!」内にある美術館「PLAY! MUSEUM」で、2025年春、企画展「どうぶつ展 わたしたちはだれ?どこへむかうの?〜WHO ARE WE? WHERE ARE WE GOING?」が開催される。本展は、国立科学博物館の巡回展示「WHO ARE WE 観察と発見の生物学」を展示し、剥製やアーティストによる造形作品を通して、哺乳類とは、そして私たち人間とは誰なのかを問いかける内容となっている。
会場では、「ながら聴き」が可能な音声ガイドも導入。詩の朗読、動物の鳴き声、専門家による豆知識がランダムに流れ、目と耳の双方で楽しむ新たな鑑賞体験が用意されている。本記事では、その企画背景と展示に込めた思いを、「PLAY!」プロデューサーの草刈大介さんと、音声ガイドの詩を手がけた詩人・ウチダゴウさんに聞いた。
国立科学博物館とPLAY!が出会い、生まれた「どうぶつ展」
「PLAY!」は、絵とことばをテーマにした美術館「PLAY! MUSEUM」と、子どもの遊び場「PLAY! PARK」がひとつになった、立川市の複合文化施設だ。美術館だけでも遊び場だけでもない、双子のように寄り添う2つの空間が共存する場所は、ありそうでない。この組み合わせから、新しい価値を生み出そうという思いで、2020年にオープンした。
そんな「PLAY!」が今回「どうぶつ展」で試みたのは、美術館という場で、もっと自由に、もっと遊び心を持って展示を楽しむ体験をつくること。その企画背景について、「PLAY!」プロデューサーの草刈大介さんに話を聞いた。

今回、「PLAY!」で行われる展示は、国立科学博物館との初のコラボレーションだと伺いました。どのような経緯で実現したのでしょうか?
草刈:国立科学博物館の「WHO ARE WE」は、世界屈指の動物標本コレクションとされる「ヨシモトコレクション」を中心に構成された巡回展ですが、その展示がとても評判だったんです。僕自身も実際に足を運んで、「これはすごいな」と感じました。
普通、剥製の展示というと、博物館で光がバーッと当たって、「物」として置かれているようなイメージがありますよね。でも、「WHO ARE WE」の展示はまったく違っていた。剥製が生きているみたいで、今にも喋り出しそうな雰囲気があったんです。それに、照明の演出や、引き出しを開けると解説や資料が出てくる仕掛けなど、自分で発見していく楽しさがあった。


それが、僕ら「PLAY!」が目指していることとすごく重なっていたんです。PLAY!では「面白がること」「面白いことを提供すること」を大切にしています。その「面白い」というのは、ただ受け取るだけではなく、自分が関わって、自分で考えること。例えば、展示物を見て「きれいだな」「素敵だな」と感じるだけで終わらず、「なぜこんな形をしているんだろう」「どうしてこの言葉が使われているんだろう」と、自分で問いを持ち始めること。それが、「面白い」体験につながると考えています。
だから「WHO ARE WE」の展示を見たときに、「これをぜひPLAY!でやりたい」と思ったんです。
そこからすぐに、国立科学博物館にお声がけされたんですか?
草刈:ええ。でも、ただその展示を持ってくるだけじゃなくて、PLAY! としてどう発展させられるかを考えました。そのため、国立科学博物館に連絡をする前に、まずは自分たちで「PLAY!でどう展示するか」「WHO ARE WE 以外の部分をどう作るか」といったプランを立て、その上で「こういう展示をやりたい」と具体的な提案を用意して相談しました。
国立科学博物館側の反応はいかがでしたか?
草刈:「PLAY!さんのようなところと一緒にやりたかった」と言ってくださって、とても嬉しかったですね。彼らも従来の博物館のやり方に課題を感じていて、「説明をただ添えるだけでいいのか」という思いがあったそうです。だからこそ、新しい形での展開に賛同してくれました。
その後は、どのように企画を進めていったのでしょうか?
草刈:まず、PLAY! オリジナルの展示を検討しました。「WHO ARE WE」で提示されていた要素の中から5つを選び、そこに新たな要素を1つ加えました。
「WHO ARE WE」から取り上げたのは、「模様」「尻尾」「ずば抜ける」「心拍」「表現」の5つ。そして、新たに加えたテーマが「笑顔」です。

「WHO ARE WE」の展示では、人間と哺乳類の異同…つまり、どこが同じで、どこが違うのかということが一つのテーマになっていました。それを踏襲するかたちで、私たちもテーマを考えていきました。
その過程で、国立科学博物館の担当者と打ち合わせをする中で、「笑顔は哺乳類の特徴である」というお話が出てきて、まずは展示の入り口で「笑顔」というテーマを提示し、そこから展示全体を広げていく流れを作ろうと考えました。
テーマが決まったあと、作家さんはどのように選ばれたのですか?
草刈:テーマごとに、「このテーマならどんな展示が良いだろう?」と企画チームで検討し、それぞれにふさわしい作家さんを選んでいきました。例えば「笑顔」のテーマなら、人間と動物の笑顔もあった方がいいかもしれない、という話になって。人間と動物、それぞれのジャンルで写真家を候補に挙げ、実際に展示したらどう見えるか模型を作りながら、「この人だ」と決めて連絡を取ったんです。


最後のコーナー「ユートピア」では、大型の立体作品を作る方、抽象的な絵を描く方など、バランスを見ながら一人ずつお声がけしました。
テーマごとに、視点やアプローチの異なる作家さんを選ばれているんですね。


「ながら聴き」音声ガイドで、「詩」「解説」「鳴き声」が交わる新しい鑑賞体験


今回、オーディオテクニカの『ATH-AC5TW』を使用して、展示に “ながら聴き” ができる音声ガイドが導入されています。この取り組みの経緯について教えてください。
草刈:オーディオテクニカさんとは、これまでも「PLAY! MUSEUM」や「PLAY! PARK」の企画で関わりを持たせていただいてきました。僕たちがご一緒しているのは、単に音のプロフェッショナルだからというだけではなくて、ものづくりへの姿勢や自然との向き合い方など、根っこの部分で共感できることが多いからなんです。
オーディオテクニカさんは「アナログ」を大切にされていて、五感を通じた体験や自然との関わりをすごく丁寧に考えている。その姿勢は、僕たちが目指すものとも重なっていると感じます。今回の展示で、その価値観が共鳴すると感じました。
そして、これまでの取り組みを通じて、「またいつか何かご一緒できたら」と思っていたところ、新しくATH-AC5TWという製品が出るというお話をいただいて。
実際にお話を伺うと、この機種の特徴として「外の音が聞こえる」「耳を塞がない」という点が挙げられていました。そこで、「ただこのイヤホンをつける」のではなくて、「つけること自体が自然な体験になるようなコンテンツを作ろう」と考えたんです。それが今回の音声ガイドというアイデアにつながっていきました。

それが、今回の音声ガイドだったんですね。
草刈:はい。ただ、僕自身は従来の音声ガイドがあまり好きじゃなくて。作品ごとに解説を聞いて、教科書みたいに情報を押し付けられるのが苦手だったんです。だから「PLAY!」らしい音声ガイドを作りたいと思いました。
具体的にどんな音声ガイドを目指したのですか?
草刈:会場に来た人が、展示を見ながら自然に耳に入ってくるものです。特定の作品の解説ではなく、会場全体に流れるような音声。最初に思いついたのが「動物の鳴き声」でした。
最初は、リアルな動物の鳴き声を集めようと思っていたんです。研究者の方がフィールドで収録した音源もありますし、そういう音源を集めて流すことも検討していました。
ただ、それだと録音された環境や音の大きさがバラバラで、展示室で流したときに違和感が出てしまうかもしれない。だったら、ひとりの人がすべての鳴き声を真似して読んだほうが面白いんじゃないか、と。
そこで相談したのが、声楽や収録の仕事をしているボーカリストのいとうちえさんです。本人も、最初はまさか自分が動物の鳴き真似をすることになるとは思っていなかったはずですが(笑)、試しにやってもらったら素晴らしくて。そのままお願いすることにしました。
今回の音声ガイドは、動物の鳴き声だけでなく、詩の朗読や解説なども混ざって流れる構成になっていますよね。
草刈:そうですね。解説は、国立科学博物館の川田先生にお願いしました。川田先生は、生き物についての豊富な知識をカジュアルに語ってくださる方なんです。堅苦しい解説ではなく、ちょっとした「ウンチク」や豆知識の「おしゃべり」を音声ガイドに入れようと考えました。

ただ、それだけではまだPLAY!らしさが足りないと感じて、「詩の朗読」という要素も加えることにしました。
それが詩人・ウチダゴウさんの起用につながったんですね。
草刈:そうです。展示に登場する動物たちの詩ではなく、その背景にある自然や風景、環境についての詩を朗読していただくことで、奥行きを持たせたいと思いました。
解説や詩、鳴き声がランダムに流れるようにしたのは、どうしてですか?
草刈:展示室って、目の前には剥製があって、大きな映像が動いていたり、空間自体にたくさんの情報があります。その中で、動物の鳴き声や解説、詩の言葉が偶然聞こえてくる。それがどんな化学反応を起こすのかが面白いと思ったんです。

例えば友達同士やカップルで来ている人が、「今の鳴き声聞こえた?」「こんな話、知らなかったね」なんて、会話が生まれるきっかけになるかもしれない。美術館って、どうしても一人で黙って鑑賞するイメージがありますが、こういう体験なら、もっと自由に楽しめるんじゃないかと。
こうした「ながら聴き」の音声ガイドって、僕の知る限り世界初なんじゃないかと思ってるんですよ。これから先、美術館や博物館の音声ガイドのあり方に、新しい風を吹かせるきっかけになるんじゃないかと期待しています。
人間が持つ、途方もない想像力や可能性。観察と発見の先にあるもの
今回の展示を通して、来場者の方々に特に伝えたいことは何でしょうか?
草刈:「WHO ARE WE」の展示の根底にあるテーマは、「観察と発見」です。剥製というのは、もともと生きていた動物の姿をとどめているものですが、普段、動物たちは動いている姿しか見られないので、じっくり観察することって意外と難しいんですよね。でも、剥製は動かないからこそ、毛並みや模様、姿勢まで細かく見つめることができる。
そうやって目を凝らして観察するうちに、「この動物はどうしてしっぽが長いんだろう」「どうやって生きているんだろう」と、想像が膨らんでいく。そして哺乳類という、人間と同じ特徴を持つ生き物だからこそ、自分たちと重ね合わせて興味が湧いてくる。そんな「気づき」や「発見」を、この展示を通じて体験してもらえたらと思っています。

そうした体験を経て、展示の最後にたどり着くのが「ユートピア」という空間です。ここで感じてほしいのは、「人間って、途方もない生き物だな」ということです。
動物たちは、それぞれの身体的特徴や能力を駆使して必死に生き延びています。それも本当にすごいこと。でも人間はそれだけではなく、見たことがない世界を想像したり描いたりする力を持っている。そんな生き物、他にいないですよね。僕自身も「なんでそんなことができるんだろう?」と不思議に思うし、それは同時にとても素晴らしいことだと感じています。

難しく考えてほしいわけではなくて、「人間ってすごいな!」と、明るく前向きな気持ちになってもらえたら嬉しいです。人間が持つ、途方もない想像力や可能性。そしてそれを持っていることの喜び。そんなことに少しでも気付いて、元気になったり、ワクワクしたりするきっかけになればいいなと思っています。
詩人・ウチダゴウさんに聞く 風景を言葉で届けるということ
ここからは音声ガイドの詩を担当したウチダゴウさんに伺います。今回の詩は、どんなところから着想されたのでしょうか?
ウチダ:展示では、剥製やアーティストが手がけた造形物が並んでいて、お客さんは動物たちの姿を「目で見る」ことになります。その周りには、あえて装飾を施さないと聞いていました。その中で、「その生き物たちの向こう側にある風景を、詩にしてもらえませんか」というオーダーをいただいて。

動物たちは展示として目の前に存在している。その奥に広がっているものを、耳で感じてもらう。そんな詩を届けるという発想が面白いなと思い、お引き受けしました。詩の数については、最初は特に決まりはなかったのですが、全体の展示を見ながら、5つくらいがバランスとして良いのではと考えて、5編の詩を制作しました。
詩を制作するにあたって、どんな風景をイメージされたのでしょうか?
ウチダ:動物たちがいる背景を、いろいろ考えました。たとえば大草原だったり、山、水辺、森。そしてひとつは、「あさ」という時間帯をテーマにしています。それぞれがなるべく被らないように、場所や時間を変えて、いろんな風景が浮かぶよう意識しました。
時間帯まで意識されていたんですね。
ウチダ:ええ。背景というと、どうしても空間のことだけを考えがちなんですが、時間の流れも含めたいなと思って。「あさ」という詩を入れたのは、そういう理由です。
詩の中には、動物の名前が登場しないのが印象的でした。
ウチダ:そうなんです。展示の中に、すでに動物たちがいるので、詩の中でわざわざ「ガゼルが」とか「バイソンが」と描写する必要はないかなと。それより、読んだときにその存在がうっすら感じられるくらいがちょうどいい。詩の中では直接は出てこないけれど、読んでいると、どこかにその気配を感じるような詩にしたいと思いました。
動物だけでなく、人間との関係性のようなものも感じました。
ウチダ:そうですね。最初のオーダーは「動物の背景の詩を」というものでしたが、それだけだと詩としてはどこか物足りない。僕としては、もっとその先にあるもの…展示を見た人が、自分のこととして何かを受け取れるような詩にしたいと思って書きました。その場を離れてからも、ふと心に残るようなものになればいいなと。
「詩を耳で聴く」体験で広がる、新たな世界
内田さんは朗読ライブもされています。詩を朗読するときに、どんなことを意識していますか?
ウチダ:「詩そのものになって読む」ことを意識しています。昔は淡々と読んでいたんですが、今はその詩の世界に自分が入り込んで、そのものになったつもりで声を出すようにしています。
たとえば「かぜのそうげん」という詩なら、自分が風に吹かれる草原になったつもりで読む。雨に打たれる場面なら、自分が本当に雨に打たれているように、夕陽に照らされる場面なら、自分がその夕陽に包まれているように。そのイメージで読んでいると、自然と声のリズムや抑揚、間の取り方も変わってくるんです。


お客さんの反応によって、朗読のリズムも変わりますか?
ウチダ:変わりますね。会場の空気や、お客さんの表情、ちょっとした反応を感じながら、その場で声の出し方や間を変えています。同じ詩でも、毎回違う朗読になる。それがライブならではの面白さだと思っています。
詩を作るときにも、朗読を意識しているのでしょうか?
ウチダ:そうですね。詩を書くときは、必ず声に出して読みながら書いています。頭の中で黙読するだけでなく、実際に声に出して、リズムや言葉の響きを確かめながら進めています。
僕は詩の教室も開いていて、生徒さんにも「声に出して書いてみて」と伝えています。頭の中ではスムーズでも、声に出すと「あれ?」と気づくことが多いんですよね。意味だけでなく、音としてどう響くかも大切にしています。
今回の詩は、音声ガイドとして展示室で流れる形になっています。耳で聴く詩ならではの体験について、どのように考えていらっしゃいますか?
ウチダ:多分、美術館に来られる方の多くは、「詩を耳で聴く」という体験はあまりないと思うんです。音楽や歌は日常的に耳に入ってくるけれど、詩の朗読は子どもの頃の絵本の読み聞かせや、学校で詩を読む授業以来という方が多いんじゃないでしょうか。

だからこそ、この展示で久しぶりに「詩を聴く」という体験をして、どんな反応が生まれるのか、僕自身楽しみにしています。最初は少し戸惑うかもしれません。でも、耳から言葉を受け取ることで、頭の中に映像が浮かび始める。そういう回路が開くと、「言葉だけでこんなに世界が広がるんだ」と気づく瞬間があると思うんです。
そんな体験を、今回の展示を通じて、ぜひ楽しんでもらえたら嬉しいですね。
「どうぶつ展 わたしたちはだれ? どこへむかうの?〜WHO ARE WE? WHERE ARE WE GOING?」
2025年4月16日(水)〜7月6日(日)
休館日:なし
開館時間:10:00〜17:00(土日祝は18:00まで/入場は閉館の30分前まで)
入場料:一般1,800円/大学生1,200円/高校生1,000円/中学生600円/小学生600円/未就学児無料
◯割引制度(併用不可)
①[立川割]一般 1,200円/大学生700円/高校生600円/中学生400円/小学生400円/未就学児無料
*立川市在住・在学を確認できる免許証、学生証等を提示
②[障害者割引]障害者手帳をご提示の方とその介添人1名は半額
主催:PLAY! MUSEUM
特別協力:国立科学博物館
⾳響協⼒:オーディオテクニカ
〒190-0014 東京都⽴川市緑町3-1 GREEN SPRINGS W3棟 2F
電話:042-518-9625
Words & Edit:Tom Tanaka
Photos:Fumihito Morioka
Cooperation:Shizuka Kurosawa / Hiroki Nakai