約半世紀に渡り“良質な音への追求”を続け、様々なオーディオ製品を開発してきたオーディオテクニカ(以下、AT)。
ここでは、世界の音楽制作の現場でATの製品がどのように使われているのか、また世界トップクラスのサウンドエンジニアたちがどのような視点で音を創っているのかを紹介していきます。
すでに耳にしたことのある音楽も、その音作りの背景を知ることでいま一度、聴くことへの楽しみにつながるのではないでしょうか。
ヴォーカル: Paul McCartney
ピアノ:Diana Krall
ギター:Eric Clapton、John Pizzarelli
ベース:Robert Hurst
ドラム:Karriem Riggins
ロンドン交響楽団 (指揮者:Alan Broadbent)
エンジニア・ミキサーのAl Schmittが語る当時の制作エピソード
今回のエピソードに登場する楽曲“My Valentine”は、Paul McCartney(以下、Paul)が2012年にリリースしたカバー曲中心のスタジオ・アルバム『Kisses on the Bottom』に収録されているオリジナル曲のうちの1曲。
このアルバムについてPaulは、子どもの頃に聴いてきたジャズのスタンダード・ナンバーをやりたかったと語っている。そして、誰もがカバーする楽曲を避け、敢えてあまり知られていないものをセレクト。古き良きジャズのスタンダード・ナンバーの魅力をリスナーへ素直に伝えられる作品に仕上げたという。また同アルバムには2曲のオリジナル楽曲が収録されているが、これらについてもカバーされたスタンダード・ナンバーを意識した楽曲となっている。
その内の1曲“My Valentine”は、2011年に妻のNancy Shevell(以下、Nancy)と共に北アフリカへ旅した際に、Nancyへプレゼントしたナンバー。旅先のホテルでは毎晩ジャズのスタンダード・ナンバーが流れていた。Paulは演奏していたパフォーマーにインスパイアされ、ロビーのピアノを使って作曲したという。そしてこの曲は、同年の秋にNancyとの結婚式で歌われたことでも当時話題となった。
レジェンドから受け継がれた“Studio A”での初対面
『Kisses on the Bottom』の制作では、エンジニア・ミキサーであるAl Schmitt(以下、Schmitt)が参加。Schmittは、グラミー賞を23回受賞しており、Neil Young、Bob Dylan、Quincy Jones、Henry Mancini等、多くのレジェンド達と共に仕事をしてきた。
SchmittはPaulと仕事をした『Kisses on the Bottom』のレコーディングを鮮明に覚えており、特に“My Valentine”は印象的だったと話す。
SchmittがPaulと初めて顔を合わせた場所はCapitol StudiosのStudio Aだった。このスタジオはFrank Sinatra、Dean Martin、Nat King Coleをはじめ、数多くのレジェンドたちがレコーディングをしたロサンゼルスの老舗名門スタジオだ。
とSchmittが語る。
アルバムのサウンドに関しては「可能な限りの高音質かつ豊かさ、そして空間的な広がりと鮮明さを併せ持った音になるようなバランスを狙っていた」と回想し、このサウンドを構築するためSchmittは、リズムセクションとPaulのヴォーカルを同時に録音し、後に他の楽器やオーケストラを重ねていく手法を考えたそう。
マイクマスターが“求める音”を実現させるマイク
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マイクモデルの選択や配置といったマイクテクニックがレコーディングを成功させるためにとても重要な鍵である、ということはエンジニアなら誰もが口にするだろう。特にSchmittはエンジニア界でもマイクマスターとして知られている。この曲のレコーディングには、彼が普段から愛用するAT製品のマイクが何本も使用された。その中で“AT4080”を起用した理由について、彼はこう語っている。
繊細なニュアンスと音域のダイナミクスをキャッチするマイク
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またSchmittはドラムのオーバーヘッドに単一指向性コンデンサーマイク“AT5045”を使用。この製品の魅力についてSchmittは、
Paul McCartneyの情熱と魂と歴史的背景
SchmittにとってPaulとの仕事は、長年夢みてきたこと。中でも特に思い出深いエピソードのひとつを教えてくれた。
アルバム制作全体を通してSchmittは改めて振り返る。
最後にSchmittは語る。