コロナ禍を機にキャンプ需要が高まったことを受け、今では多くの人がアウトドアを楽しむようになった。 しかし、アウトドアで音楽を楽しむ場合、主流となっているのは、手軽なBluetoothスピーカーの使用だ。 この方法は手軽な反面、音に物足りなさを感じる人も少なくない。 とはいえ、良い音質を求めて、本格的なサウンドシステムをアウトドア環境に個人で持ち込むとなると手間がかかりすぎて難しい。

そこでAlways Listeningでは、アウトドアでもより良い音環境で音楽を楽しめる、 ”アウトドアに音を連れ出す「重箱」” をコンセプトにしたオールインワンのアウトドア用サウンドシステム「OTOJU」の開発を企画。 この連載では、重箱という日本古来の文化をデザインソースにしたOTOJUの可能性を探っていく。

電源環境がなくてもバッテリーで駆動でレコードを楽しめる、夢のようなサウンドシステム

連載第二回目となる今回は、OTOJUを雄大な自然が広がる北海道に持ち込み、人気スノーボードムービー『CAR DANCHI』のプロデューサーであり、映像作家、フォトグラファー、MCとして、同地を拠点に幅広く活躍するNeil Hartmann(ニール・ハートマン)氏とともにその可能性を探った。

Neil氏は、かねてからOTOJUの開発に関わる音響設計・サウンドシステム開発会社WHITELIGHTと親交があったこともあり、Always Listeningは、OTOJUの企画段階から同氏に模型を見てもらったり、コンセプト面でのアイデア出しに協力してもらったりしていた。 同氏は、OTOJUの企画を初めて聞いた時に考えたことや、完成した時に感じたことを、次のように振り返る。

「OTOJUの開発企画を知り、僕から提案したのは “キャンプキッチン” というコンセプトです。 これはキッチン用品やキャンプ道具を木箱の中に入れて、車でキャンプ場まで持ち運ぶというアイデアですが、その箱にアンプを内蔵したスピーカーが入っていたら最高だなと思っていたんです。 そういう意味で最初に完成したと聞いた時は、ついに形になったか!と思いましたし、実際に完成したOTOJUの中身を開けた時は使い方のアイデアもいろいろと膨らみ、興奮しましたね。 それと重箱という日本人ならではのコンセプトは、文化背景的に自分では思いつかないものだったので、それと音楽のカルチャーが合体したことに驚きました」。

キャンプ場でOTOJUが紡ぐサウンドスケープを堪能するNeil氏
キャンプ場でOTOJUが紡ぐサウンドスケープを堪能するNeil氏。

完成したOTOJUは仕様以外にサイズ的なインパクトと目新しさがあり、Neil氏は初めてiPhoneを手にしたとき以来の衝撃と感動があったと振り返る。

「来日してからラジオDJを始め、その仕事を通じてターンテーブルとレコードに魅了されました。 OTOJUはレコードの音を電源環境がなくてもバッテリーで駆動が可能で、どこでも楽しめるので、レコードが好きな僕にとっては夢のようなものです」。

OTOJUがあれば、個人でも極上のアウトドア音楽体験をつくりだせる

OTOJUがあれば、個人でも極上のアウトドア音楽体験をつくりだせる

実際に展開したOTOJUを眼前に座ったNeil氏の目線
実際に展開したOTOJUを眼前に座ったNeil氏の目線。

OTOJUを目にした際にNeil氏の頭に特に強く浮かんだ活用方法に関するアイデアがある。 ひとつは、同氏にとって馴染みがある地元札幌の野外イベント「Big Fun」にインスパイアされたアイデアだ。

札幌の人気クラブ・Precious Hallが主催する「Big Fun」は、かつて同氏の自宅から車で10分程度の場所で5年ほど開催されており、その雰囲気や音楽性に魅了されて以来、毎年足を運んでいたという。

「このイベントは言わば、OTOJUを使うシチュエーションを大規模にしたようなもの。 DJブースが中央にあり、周りには大きなスピーカーが配置されていました。 参加者はDJブースを囲んで音楽を楽しむことができ、その雰囲気は本当に素晴らしいものでした。 もちろん、クラブに遊びに行くのも楽しいのですが、50歳くらいになるとクラブよりも夕暮れの時間や朝方の静かな時間に自然の中で音楽を楽しむひとときが魅力的に感じられます。 ただ、そういった体験ができる野外イベントを個人で開催するのは資金面で難しい。 でも、OTOJUがあれば、同じような体験を個人でも楽しめると思いました」。

ふたつめのアイデアは、子供たちとキャンプをするときにOTOJUを使って、良い音環境で音楽を楽しむというもの。

「数年前、自分の子供が通う幼稚園のサマーキャンプに参加する機会があり、アンプとミキサー、ターンテーブルを持参してレコードをかけるということがありました。 その時は子供が途中でレコードの音を止めることがあったり、すごくラフな環境でしたが、OTOJUがあれば、同じことを良い音環境かつアート的な形で実施できると思います。 そういう形での活用の可能性も感じました」。

OTOJUがあれば、同じことを良い音環境かつアート的な形で実施できる

北海道の自然の中で体験した特別な音楽体験

北海道の自然の中で体験した特別な音楽体験

今回、Neil氏はOTOJUを札幌の石山緑地、湖、キャンプ場の三カ所で使用したが、場所ごとに音の反響が異なるなど、まるで自然とのセッションをOTOJUを通じて行えたことは特別な体験だったと振り返る。 その中で同氏がもっとも感動を覚えたのは、朝のキャンプ場での出来事だ。

「今回は2日間とも天気が悪かったのですが、幸運にも夜中に雨が降らず、キャンプ場で迎えた朝は本当に素晴らしい瞬間が訪れました。 午前6時過ぎか7時近くだったと思います。 その時にOTOJUで音楽を鳴らしていると15分ほどの間に日の光が差し込み、鳥の鳴き声と音楽が混ざり合っていたのですが、それが自分の目と耳で感じた感動がひとつに合わさった瞬間でした。 普段、光と音の美しさが同時に合わさる瞬間を感じることはなかなかないので、その瞬間は本当に特別でしたね」。

OTOJUは「音楽を共有する」という楽しみを実現してくれる

OTOJUは「音楽を共有する」という楽しみを実現してくれる

OTOJUは4つの無指向性スピーカーによって、アウトドアに擬似的なサラウンド環境を作り出せるなど、その仕様から野外でもさまざまなリッチな音体験を提供する。 Neil氏はOTOJUの体験価値は、その場にいる人が音楽を共有していることを実感できることにあると語る。

「夜のキャンプ場では焚き火を囲むように4つのスピーカーを配置して、レコードをかけました。 焚き火の周りでは5人くらいが会話していましたが、その話し声はレコードをかけていてもはっきりと聞き取ることができました。 また、会話をしていた人は曲が切り替わるたびにリアクションしてくれたので、僕自身は会話には参加しなかったものの、レコードをかけることで会話に参加していたように感じました。 それぞれ違うことをしていても音楽を共有できていたので、本当に特別な時間だったと思います」。

OTOJUによって、音楽のクオリティが向上していく可能性

また、同氏はOTOJUによって、音楽のクオリティが向上していく可能性を感じている。

「ここ数十年でモノのサイズが小さくなったり、バッテリーの持続時間が向上したり、モノのスペック自体は向上しました。 でも、オーディオの分野を見ると、1970年代がピークで、現代は利便性を追求するあまり、音質が犠牲にされていると感じることがあります。 せっかくモノのクオリティが上がっているのにこれではもったいないと思います。 でもOTOJUをきっかけに音響セッティングの重要性や音質を求めるムーブメントが始まる予感がするので、そうなれば音楽自体のクオリティも向上していくと思います」。

ちなみにNeil氏に今回試した環境以外でどんな環境でOTOJUを試してみたいか聞いてみたところ、人が多く集まるところで試してみたいという答えが返ってきた。

「例えば、商店街や札幌の大通り公園のような人が多く集まる場所にOTOJUを持ち込んで、ゲリラ的に20分間だけ音楽を流してみるという実験は興味深いと思います。 指向性のあるスピーカーの音をいきなり鳴らすと、もしかしたらいきなりその音を聴いた人は怪訝な顔をするかもしれませんが、OTOJUの無指向性スピーカーは、ぼんやりと音が鳴っているスポットを作ることができます。 そういう音には不思議な心地よさがあると思うので、それが何か新しい音楽を聴く上での新しい体験になるかもしれません」。

OTOJUの無指向性スピーカーは、ぼんやりと音が鳴っているスポットを作ることができます

その上で同氏は若い世代にこそ、OTOJUを体験してもらいたいと語る。

「今はBluetoothスピーカーが当たり前になっているので、若い世代、特にZ世代にはアナログな音に一度触れてほしいと思いますね。 そういう音を聴くことで新しい発見があると思います。 特にロータリーミキサーは、OTOJUを使う上で楽しい要素だと思います。 今はデジタルで表示されるDJソフトやiPhoneでもDJはできますが、僕の場合はロータリーミキサーのノブを触りながら、音楽をかけていると自分の気持ちが音楽に乗り移っていくような感覚を覚えます。 これは目に見えないスピリチュアルな要素かもしれませんが、僕自身もその体験から喜びを感じているので、このような体験をOTOJUを通じて共有したいと思います」。

今回Neil氏が自身の体験から語ったようにOTOJUは、その自然環境ならではの音と人間が持ち込む音楽とのセッションを可能にしてくれる。 また、そこに新たな音環境を生み出すことで新しい音楽の体験価値も示してくれる。 このように音との関わりにグラデーションを与えてくれるところにOTOJUの本質があるのかもしれない。

Neil Hartmann

ニール・ハートマン

アメリカ・サンディエゴ出身。 1991 年より北海道を拠点に映像作家、フォトグラファー、MCとして幅広く活動する。 代表作に人気スノーボードムービー『CAR DANCHI』シリーズがある。

現在は、YouTubeにて自身のチャンネルを展開している。

YouTube

OTOJU by Audio-Technica
Product & Sound Design:WHITELIGHT
Mixer Design:Katagiri Repair&Remake Service
Production:Taguchi
Concept Design:epigram inc.

Words:Jun Fukunaga
Photos:Neil Hartmann, Jimmie Okayama, Mappasun
Cooperation:Camp Site 晴好雨喜
Coordination:Yuki Tamai
Edit:Takahiro Fujikawa

SNS SHARE