ある一時の間、猛烈に愛された「音のアプリ」がある。 車輪の音、駆け込み乗車の音、車内アナウンス。 毎日の通勤中に嫌でも耳に入っていた、当たり前の日常音たち。
NYC、I❤️SUBWAYの音
新型コロナウイルス感染症が世界的に猛威を振るった2020年以降からある程度普通の生活を取り戻すまで、多くのニューヨーカーに愛されたアプリが「NYC Subway Sounds」だ。 名前のとおり、NYCの地下鉄の音が収録されただけのもの。
ニューヨークも例に漏れずパンデミック期間に地下鉄の利用者はぐんと減り(利用者は一時90パーセントも減少した)、その一方ではこんなふうに思う人が増えた。 「毎日聞いていた頃は煩わしかったのに、懐かくて、恋しい」。 ニューヨーカーにとっての地下鉄の音は、一時そんな音になった。
アプリの開発者であるEvan Lewis(エヴァン・ルイス)自身もそう。 「コロナ前は、通勤時はいつも音楽を聴いてサブウェイの音をかき消していたのにね。 乗らなくなった途端に、あの音が聞きたくなったんだ」
アプリにはNYCの地下鉄で発生する、38種類もの音が録音されている。
例えば、お決まりの車内アナウンス「Stand clear of the closing door please(ドアが閉まるのでお気をつけください)」「Ladies and gentlemen, thank you for riding with MTA NYC transit(この度はNYCのMTAトランジットをご利用いただき、ありがとうございます)」。
それから、各駅ごとの車内アナウンス「This is Times Square, 42nd Street(タイムズ・スクエア、42丁目です)」「14th Street, Union Square(14丁目、ユニオンスクエアです)」。 ドアの開閉を通知する音「ピンポーン」。 電車が走り、荒くブレーキを踏む音などなど。
駆け込み乗車をしようとする男性の叫び声「Hold that door!(ドアを開けておいて!)」なんて遊び心のあるサウンドも。 「(当時)1年ぶりにサブウェイのサウンドを聞いて、なんて心地よく、ノスタルジックなサウンドなんだなと実感したよ」という声もあったそうだ。
今ではまた「毎日の煩わしい音」に戻りつつある地下鉄の音。 ときどきは日々のリアルな音に、耳をすませてみてもいいかも。
Words:Ayano Mori(HEAPS)