日本の音楽シーンに独自の彩りを添える3つの野外イベント「ishinoko」(石川県小松市滝ケ原町)「FESTIVAL de FRUE」(静岡県掛川市)「橋の下世界音楽祭 SOUL BEAT ASIA」(愛知県豊田市)。 単なる音楽フェスティバルを超え、地域との深い繋がりや手作りの空間づくり、独自のアーティストラインナップによって、既存のフェスとは一線を画す存在感を放っている。
地元コミュニティとの融合、DIYの精神、そして音楽以外の要素—食や空間デザイン—にも重きを置く姿勢が、観客だけでなくアーティストからも厚い支持を獲得する魅力を形作っている。
ネームバリューのあるヘッドライナーに頼るのではなく、アーティストと密な信頼関係を築き、その場でしか体験できない特別なパフォーマンスを引き出すことに注力する。 さらに、クラウドファンディングや投げ銭など、観客との強い絆に支えられた運営手法も特徴的だ。
音楽を通じて新たなコミュニティを育み、参加者全員で作り上げるという点で「祭り」の本質を体現しているとも言える3つのイベントの主催者たちを集めた座談会を実施。 「ishinoko」のマイロ・ローソンさん、グレアム・デイビスさん、松村ひなたさん、「FESTIVAL de FRUE」(以下、FRUE)の山口彰悟さん、「橋の下世界音楽祭 SOUL BEAT ASIA」(以下、橋の下)の根木龍一さんという面々によるクロストークで、いずれも熱狂的なファンを抱えるイベントの、その強烈な求心力の裏側を探った。
原点はラインナップへのこだわりと地域コミュニティとの連動
まずは自己紹介をかねて、それぞれのイベントがどのように始まったのかお話いただけますか。
マイロ・ローソン(以下、マイロ):ishinokoのマイロです。 イギリス出身で、日本で暮らしはじめて7年になります。 コロナになってから石川県の滝ヶ原町に引っ越して、地域おこし協力隊を3年やりました。 それまで野外イベントを主催した経験はなかったんですけど、以前から興味はずっとあって。 滝ヶ原町にいい場所があったので、2020年の10月にishinokoを初めて開催しました。 今年で5年目ですね。
ishinokoの会場である滝ヶ原ファームは元々コミュニティ兼宿泊施設だと聞いたんですが。
マイロ:滝ヶ原では10年前くらいから古民家を使った町おこしのプロジェクトが始まり、そこで滝ヶ原ファームとカフェが始まって、宿泊できるホステルにもなりました。 黒崎輝男さん率いる集団が発起人です。 農業やアートを実践する文化的な拠点でもあるんですよ。 音楽フェスをやることに興味がある人も周りにいたので、自然とishinokoを始めることになりました。 みんなプロフェッショナルではなかったんですよ。 グレアムも一番最初から参加しているメンバーです。
グレアムさんとひなたさんの担当は?
グレアム・デイビス(以下、グレアム):僕は総合プロデューサーという役割になってます。
松村ひなた(以下、松村):私は去年からスタッフとして関わっていて、広報的なことをやってます。 あとはishinokoの東京メンバーとして東京でのイベントのオーガナイズをマイロと一緒にやったり、ishinokoの開催中に怪我をした方やなんらかのハラスメントに遭った方をケアする役割も担っています。
続いて山口さん、FRUEがどんなイベントか改めて教えてください。
山口:自分はもともと「Organic Groove*」と「True People’s Celebration*」というイベントのスタッフをやっていました。 それらのイベントが終了してから、一緒にスタッフをやってたダイちゃんと何かおもしろいことやろうよという話になって、2012年に代官山のUNITで初めてFRUEを開催しました。 当時はダンスミュージックのオールナイトパーティとしてスタートしたんですけど、徐々に音楽的な幅を広げていって、2017年に静岡の掛川で初めて野外の「FESTIVAL de FRUE」を開催しました。 2022年からはスピンオフ企画として「FESTIVAL FRUEZINHO」を東京の立川で始めました。
*Organic Groove、True People’s Celebration:1999年以降、メデスキ、マーティン&ウッド(Medeski,Martin&Wood)やギャラクティック(Galactic)、ガレージ・ア・トロワ(Garage A Trois)をはじめ国内外のジャムバンドなどを招聘し不定期開催されていたパーティーおよび野外イベント
では、最後に根木さん、橋の下の始まりについてお願いします。
根木:microActionというプロダクション/レーベルをやっていて、色々なバンドのマネージメントもしてるんですけど、代表的なアーティストにTURTLE ISLANDというバンドがいるんですよ。 そのバンドのリーダー、(永山)愛樹と僕が中心になって始めたのが橋の下です。 2011年に東北の震災と原発事故があったことで周りの友人も地方に移住したり、身近なところでも意見の分断が起きていたりしてたと思うんですが、分断を飛び越えて魂や細胞が喜ぶような祭りを作りたいという方向に意識が向かっていったんですよね。
橋の下は豊田大橋という大きな橋の下の河川敷の公園が会場なんですけど、彼らの地元でTURTLE ISLANDが始まった場所でもあるんです。
考えてみると、橋の下もFRUEも同じ2012年にスタートしたんですね。
山口:僕らはそこまで震災以降という意識はなくて、やっぱり「Organic Groove」が終わっちゃったことが大きかった。 だから、ちょっと悪い感じのパーティーをやりたくなっちゃって(笑)。
根木:あのころはフェスもどんどん増えてきたし、そういうフェスにTURTLE ISLANDが出ることもあったけど、「こういうものじゃないことをやりたいよね」という話は当時もしてました。 ネームバリューのあるわかりやすいヘッドライナーが並んでいて、それを目当てに人が集まるような商業的なものじゃなくて、もっと魂が揺さぶられるような祭りというか。
そういう既存のフェスへの違和感は橋の下の根底にありますよね。 同様の感覚はFRUEにもあるんでしょうか。
山口:どのフェスに行っても自分たちが観たいアーティストが出演していないということは感じてました。
根木:それはあるね。
山口:自分たちが本当に観たいアーティストをブッキングしてイベントをやりたい、という発想がFRUEの原点かもしれないですね。
ishinokoのみなさんはいかがですか。 既存のフェスとは違うものを作りたいという意識はありましたか。
グレアム:地域との繋がりが弱いイベントが多いことには違和感はありました。 都会の人が自然のなかでワーッと遊ぶだけ遊んで、そのまま帰るというか。 せっかくその地域を訪れるんだったら、地元の美味しい食材を食べてもらったりして、地域の良いところをお客さんに体験してもらいたいと思ったんですね。 地域の方々と繋がりができる機会があってもいいと思うし。
マイロ:地域との繋がりについては、ishinokoを始めた当初から意識していました。 私はイギリスの田舎のほうで育ったんですけど、地元にも祭り的なイベントがあったんです。 ローカルのコミュニティらしい雰囲気が好きだったし、その雰囲気を大人になってから遊びに行くようになった野外フェスの感じと組み合わせたらおもしろいんじゃないかと考えていました。
橋の下は豊田市の地域コミュニティと連動しながら続けてきましたよね。
根木:豊田は愛樹の地元ということもあって協力してくれる人がすごく多いんですよ。 あと、豊田は名古屋みたいな都会じゃないから、地域の繋がりが強くて。 ishinokoに関わってるのは移住者の方も多いんですか?
グレアム:そうですね。 滝ヶ原自体、移住者は多いですね。 ishinokoに遊びに来てみて、滝ヶ原町が気に入って移住した人もいます。
それは嬉しいですね。
マイロ:そうなんですよ。 人口自体は少ないんですけど、登山のため滝ヶ原町に来る人も多いので、人の出入りはそこそこあるんです。 それもあってか、オープンマインドな方が多いんです。 外国人の移住者にも親切にしてくれます。 僕らのような活動はどこでもできるわけじゃないと思うんですよ。
グレアム:地元の方々は65歳以上の高齢者が多いんですけど、山道を整備したり自然学校のイベントをやったり、みなさんすごく元気で。
大工は必須? DIYにこだわる魅力
音楽だけでなく食、舞台や空間作りなどに関しても独自のカラーがあるのがみなさんのイベントに共通している特徴だと思うのですが、どんなこだわりを持ってアレンジしているのでしょうか。
山口:FRUEの出演アーティストも同じなのですが、飲食や物販に出店してもらう人たちは、担当者が培ってきたひとつひとつストーリーを大切にしながら、出てもらっています。 地元静岡の人たちや、遊びに行った先、例えば橋の下で出会ってピンときた人たちを誘ってます。
また、空間づくりに関しては、会場のつま恋リゾート彩の郷の特性を活かそうとしています。 デコレーションも最小限にしてるし、お金をかけずにもともとあるものをどう利用するかということは考えてるかな。
根木:あそこは場所自体がいいからね。 半野外のああいう会場はそんなにないと思う。 羨ましいよ(笑)。
山口:近くにホテルがあることも大事な要素です。 他のフェスやレイブのお手伝いで痛感したんだけど、ホテルからステージまでが遠いと、アーティストの送迎とかがすごく大変で。 自分たちが主催するフェスではあの苦労はしたくないなと思って。 それで「備えつけのステージがあって、近くにホテルがある」という条件で会場を探してたんです。 見つかったのは奇跡に近いかも。 しかも標高が低く、11月でも案外暖かいという。
お客さんの側からすると、野外フェスといえば行きにくい場所に足を運ぶからこそ非日常の体験を味わえることもあると思うんですね。 でも、FRUEがやろうとしていたのがそういうものではなかった、と。
山口:そうですね。 だから感覚としてはライブイベントの延長上という感じだと思います。 町からも近いし、新幹線でもすぐ来られるようなところを選んでるので。 FRUEは非日常空間を作ることよりも、他のフェスでは呼ばないアーティストをブッキングすることに力を入れているんですよ。
根木さんは橋の下の空間作りについて意識してることはありますか。
根木:手作りということかな。 他のフェスみたいに業者を入れないで、自分たちで作るという点に関して特に愛樹のイメージがすごく大きいんですよ。 看板ひとつにしてもデジタルで出力しないで、手描きで描く。 そういうことをやってると、そのうち「俺も描きたい」という人が集まってくるんです。 「舞台を作りたい」という連中が集まってきたり。 出店者が二階に桟敷を作ったり。
橋の下のチームにもともと重機を動かせる人が何人もいることも大きいですよね。
根木:そうなんですよ。 橋の下は制作チームより現場で動ける人がめちゃくちゃ多くて、ユンボやトラックを動かせる仲間がいたり。 TURTLE ISLANDのメンバーもフォークリフトを動かせるし(笑)。
山口:初めて橋の下に行ったとき、フェスを始めるんだったら、まず最初に大工さんとの友達にならなきゃいけないと思ったよ(笑)。
根木:橋の下自体が実験の場だから「こんな面白いことをやりたい」と言う人がいたらみんなで後押ししたり。 あと、橋の下はTURTLEの愛樹をはじめ出演者が運営者として動いてるということが大きいんじゃないかな。 主催者であり、メインのバンドのヴォーカルが最後の最後まで泥だらけで作業をしてるので。
ishinokoもユニークな空間作りをしていると思いますが、どんなこだわりがありますか?
マイロ:1回目のステージは普通のスターテントを使ってたんですけど、大工さんのメンバーが増えたこともあって、手作りで進められる部分が増えてきました。 普段からスピーカーや家具を作ってるケワというメンバーが、今年は手作りのサウンドシステムを作ってくれました。 ステージもケワがデザインしたものなんです。
山口:(写真を見ながら)ishinokoのステージはかなりおもしろい感じですよね。 このステージをデザインして作ってるケワくんは、FRUEのホールのバーを作ってくれてます。
マイロ:橋の下と同じように、業者に依頼してるわけじゃないから毎回ケワのイメージ通りに作れるんです。 去年はサウンドシステムを4か所に設置して、お客さんが360度から音に囲まれるようにしました。 あと、雨が降ったらステージに上がってDJブースを囲めるようにしました。 去年は実際に少し雨が降ったんですけど、すごく盛り上がりましたね。 それがよかったので、今回は最初からDJブースを囲めるようなステージを作りました。
おもしろいですね。 ちょっとBoiler Roomみたいな感じというか。
マイロ:そうですね。 デコレーションは人工物と自然の境界線がなく一体になっていることをコンセプトにしています。 草木をデコレーションに使ったり、インスタレーションのアーティストを呼んだりしています。
グレアム:ishinokoは音楽と同じぐらい食にも比重を置いていて、食のステージにもこだわっています。 今回は10か国のシェフを呼ぶんですよ。 イベント開催日の1週間前に滝ヶ原に来てもらうことになっていて、地域の生産者と会ってから何を作るか考えてもらおうと。 だから、ただの飲食出店とは違って、ミュージシャンやDJと同じ出演者なんです。
根木:めちゃくちゃいいですね。 橋の下でもそういうことをやりたいんだよな。 台湾とか韓国から美味しい屋台のおばさんとかをそのまま連れてきたい(笑)。
しがらみのないイベントづくりを支える運営資金の調達方法
次に運営資金についてお聞きしたいんですが、橋の下は以前入場料無料の投げ銭制でやってた時期もありましたよね。
根木:2012年から2018年までは投げ銭でやってました。 橋の下で楽しんだ対価をお客さんに決めてもらって、みんなで祭りを作ってるという意識を持ってもらうためにそうしてたんだけど、コロナ禍に入ってから「不特定多数が自由に出入りする形のイベントはやめてほしい」と会場を借りてる役所のほうから言われちゃって。 コロナのころってクラスター防止のために入場者の名前や住所の個人情報をまとめなくちゃいけなかったじゃないですか。 それでエントランスを作って、今現在は1日2000円のサポーターになってもらう形になっています。
グレアム:投げ銭ということは、当日いくらぐらいのお金が集まるか事前にわからないということですか?
根木:そう、わからない。 「絶対にうまくいく」という強い気持ちのもとでやってました(笑)。
グレアム:それはすごいね(笑)。
今はサポーターズパスとして入場料を集めつつ、当日の会場でも投げ銭を集めてますよね。
根木:みんなの「祭りを応援したい」「一緒に創りたい」というありがたい気持ちが大きいんですよね。 2,000円投げ銭したら手拭いを一枚もらえるシステムにしてるんだけど、今年は用意していた手拭いが全部なくなったから。 それもみんなの心意気なんだと思う。
ishinokoとFRUEはクラウドファンディングも実施していましたけど、クラウドファンディングに参加した方々も「このイベントが続いてほしい」という心意気のもと参加してたと思うんですよ。
山口:そうですね。 FRUEはリピーターも多いし、FRUEがないとまず日本に来ないようなアーティストも多いですからね。 実際、集客が厳しいとフェスってすぐになくなっちゃうじゃないですか。 そこは少し危機感を煽りつつ(笑)。
グレアム:今までは補助金や助成金があったからishinokoを開催できていたんですが、今年はどちらもないので、開催できるかわからなかったんですよ。 それでクラウドファンディングを始めました。 もちろんお金は大事なんだけど、それ以上にクラウドファンディングに参加してくれた方々に楽しんでもらえるようなリターンを考えたくて。 ミックステープを送ったり、シェフに特別なレシピを作ってもらったり、当日来られない方のためのリターンも用意しました。
根木:レシピはおもしろいな。 色々なアイデアを考えてるんですね。
ひなたさんはishinoko以外のフェスやレイヴにも足を運んできたとのことですが、そのなかでishinokoの特徴はどんなところにあると思いますか。
ひなた:国籍やジェンダーに関しては圧倒的に多様性があるイベントだと思います。 東京のクラブなんかだとインターナショナルな人たちと日本人って言語の問題があって分離しがちですけど、ishinokoではみんなが活発にコミュニケーションを取ってるし、みんなが一体になってるんです。 地元のおじいさんも外国人も分け隔てなく声をかけてくれる。 みんなが自由に楽しめる場所だと思いますね。
マイロ:ishinokoのメンバーはみんな滝ヶ原に愛情があるので、地域の未来のことを考えているんですよ。 コロナの影響もあって日本では若い世代が野外フェスに来ないようになってますけど、ishinokoは若いお客さんも増えてますし、赤ちゃんから年配の方まで幅広い年齢層が楽しめるものをやりたい。 自分たちが存在してほしいと思える世界を作っている、という意識なんだと思います。 開催している間だけでも、そういう光景を見ることができる。 そこから少しでも影響が広がっていったら、そういう世界が本当に存在するようになるのではないかと思うんですよ。
観客とアーティストと密な信頼関係を築き、共にイベントを作る
マイロ:僕は橋の下にまだ行ったことがないけれど、行ったことのある人たちの話を聞いていると「Burning Man」みたいなイベントなんじゃないかと思えてくるんですよね。
根木:それはよく言われますね。 本場の「Burning Man」に行った人から「橋の下のほうがすごいよ」って言ってもらえたこともある。 自分は行ったことないけど。
山口:橋の下は日本版「Nyege Nyege*」だと思ってる。 自分も行ったことないけど。 この前「Nyege Nyege」のファウンダーがナキベンベ(Nakibembe Embaire Group)を連れて日本に来ていたから「橋の下の開催日まで日本にいなよ!」って話してた。 「今度行こうかな」って言ってたよ。
マイロ:橋の下はどういうふうにコミュニティや空間を育てているんですか?
根木:ああ、なんだろうね。 観客を育てているっていう意識は無いけど、自分がグッときたものを紹介し続けているから、それが共感になって重なっていっているのかなとは思うけど。
山口:それはよく分かるな。 すごくよく分かる。
根木:別にすごくメジャーな知名度があるアーティストは呼んでないからさ。 FRUEもishinokoもそうだと思うけど。 だから、1組の出演者を目当てにチケットを買ってくるお客さんとかはあまりいないんじゃないかな。 タイムテーブル出さないで開催した時とかあるからね。 何時に誰が出るか教えない、みたいな(笑)。 ただ、そうすると逆に初日の早い時間にお客さんが集まりすぎちゃったんだよね。
マイロ:ああ、タイムテーブルが無いと逆にそうなっちゃうんですね。 橋の下もFRUEも、海外で開催してみたいという展望はないんですか?
山口:坂本慎太郎さんの海外公演を企画したときみたいに、日本のアーティストを海外に連れて行くことはできるけれど、FRUEを海外で開催するっていうのは……今の所難しい気がするかも。
根木:橋の下はずっと海外に出たいって話はしてますよ。 韓国とか台湾の友達に相談したりしてる。 トラックに櫓やスピーカーを積んでシルクロードを行ってみようか、とか。 そういう話はあるよ。 フェリーで行って、現地に着いたら船の車両の降り口から阿波踊りが出てくるとかね(笑)。 船でずっと世界をぐるぐる回っていたいね。
ひなた:最高ですね(笑)。
*Nyege Nyege Music Festival:ウガンダのレーベル〈Nyege Nyege Tape〉が主催するフェスティバル
FRUEはアジア圏含め、海外のお客さんの参加は増えてきていますか?
山口:本当に少しずつです。 あまり積極的に海外向けの発信はしていません。 見つけてきてねってスタイルかも。
根木:FRUEが呼んでいる海外アーティストって、現地では人気があるけどそれ以外の国とか地域ではまだ無名みたいなアーティストが多いじゃない? 日本でのファンがついているわけではないアーティストをあえて選んでいるというか。
山口:そうだね。 だから、最近は海外でレーベルやっている人とかが観に来てくれることは増えたかな。 そういう人たちを経由して口コミとかでFRUEを知ってくれたりするくらいがちょうど良い気がするんだよね。
根木:わかるわかる。 入場料を取らないで投げ銭だけで開催していた時代は、一緒にお祭りをつくろうって意識じゃなくて、タダ(無料)のイベントがあるから行こうぜ!みたいな人がすごい増えちゃって。 路駐もゴミの放置も増えて困った。 まあ、自分が若かったら同じことしてるかもだけど(笑)。
コアなラインナップで攻めるからこそお客さんとも良い意味での緊張感とか信頼関係が築けるということですね。 あとは、橋の下もFRUEもishinokoも、日本人アーティストにとってすごく特別な舞台になってきているというか、あの環境、客層だからできる表現というのがあると認識されている気がするのですが、いかがですか。
根木:橋の下には地元の人しか知らない出演者だったり、逆に地元の人たちは知らない出演者も沢山出演しているわけだけど、そういった音楽や芸能を紹介して、ライブを観て泣いて感動している人を見ると、まさにこういう状況をつくりたかったんだとは思いますね。 例えば、折坂悠太くんとか「今年どうかな?」って仲良いから聞いたりすると、橋の下にかける思いみたいなものをすごく強く持ってくれていて「簡単に向かって行けるところじゃないんですよ笑」とか言われると、すごく嬉しかったり。 初年度の切腹ピストルズの衝撃みたいに良い意味で人気が爆発した出演者も沢山いたり。
山口:FRUEは、素材の味を引き出すじゃないけど、アーティストの力を引き出すんだという意識でタイムテーブルを組むということにはこだわってますね。 海外アーティストも日本人アーティストも、全部のアーティストが良い演奏ができるように、こういう並びにしたらポテンシャルが引き出されるんじゃないか、とか。
例えば、FRUEでの共演をきっかけに角銅真実とサム・アミドン(Sam Amidon)はその後共作*につながっていくわけですが、そういった出会いを生む場になっていますよね。
山口:そうですね。 そういうことは増やしていきたいと考えていて、今年で言えばアマーロ・フレイタス(Amaro Freitas)のソロ演奏に中村佳穂が参加することが決まっているし、坂本慎太郎もO Ternoと過去にやってるし**なんか一緒に演奏してくれないかな、とか思ってます。
マイロ:僕たちもFRUEの考え方と近くて、ishinokoで新しいコラボレーションが生まれて欲しいと思っているし、アーティストが自分を進歩させられる場所にしたいと思ってます。 アーティストのパフォーマンスは演奏のなかだけにあるんじゃなくて、周りのお客さんや照明、自然、天気とか全部が影響しているから、ishinokoでしかできないことをアーティストと一緒に考えていきたいですね。
エクスペリメンタルというのはマインドの部分で持つべきものだから、自らをプッシュするようなことをして欲しい。 FRUEも橋の下も僕たちも、何度も出演しているレギュラーのようなアーティストがいたりして、アーティストとファミリーみたいな関係性を築いていると思う。 ただ業者がファイリングして、アーティスト同士がなにも関係のないまま集まってイベントをつくっているわけじゃなくて、僕たちは僕たちが住んでいる場所にアーティストを誘っているわけで、大事なのは一緒にイベントをつくることだから。 それを言葉にして伝えるわけじゃないけど、それくらいの愛情を持って欲しいなと思っていますね。
*角銅真実のアルバム『Contact』収録の「外は小雨 feat. Sam Amidon」
**O Ternoのアルバム『Atras/Alem』収録の「Volta e Meia」
Photos:Akari Matsumura
Words:Hajime Oishi
Edit:Kunihiro Miki